仏教の精進料理では、らっきょうは禁じられた菜の1つ。「禁葷食(きんくんしょく)」と云われる。
らっきょう、ねぎ、ニンニク、たまねぎ、ニラ。この5種を「五葷(ごくん)」と称し、その匂いゆえ、すなわち生臭いものとして、僧も徒も食べちゃいけないコトになっていた。
らっきょうの原産国は中国(ヒマラヤに近い地域らしい)だから、日本には仏教と一緒(同時期という意味じゃない)に入ってきた事になる。
なので、聖徳太子は食べなかったろうし、仏教観が浸透した平安~鎌倉期の公家も、きっと食べちゃ~いないだろう。平家を追い落とし大仏殿再興の式典に出席した源頼朝らもおそらく口にはしていないだろう。
とはいえ、渡来して根付いたワケなんだから、仏教に影響されない方々は入手の機会があればきっと口にしたろう。とはいえ煮たり焼いたりだけでは旨味に乏しい。
誰が初めて酢漬けにしたかは判らない。甘酢で漬けたのがメチャに旨いと発見した人は途方もなく、エライ。
酢は、『古事記』や『日本書記』にも出て来てほぼ実在したと思われている応神天皇の時代に、これまた中国から渡来し、直後から酢の物といったジャンルが現れ、膾(なます)を代表に各種バリエーションが生まれたと考えられる。
今も精進料理はあるけど、あくまでスペシャルなフードに位置して日常的でなく、かつての一途な”宗教的縛り”がないのは、有り難い。
らっきょう食の背景を考えてみるに……、江戸時代になって急激にお寺さんが堕落し、寺が持っている権力(通行手形の発行とか檀家制度による横柄とか地元ヤクザと結託しての賭場開設とか)に乗っかって、いわゆる戒律破りのナマグサ坊主がはびこって、女遊びはするわ獣肉は喰らうわ精力剤としてニンニクやらっきょうを食べちゃった、その怠惰が仏教の禁じ手をゆるめてしまったのが遠縁にあるようにも、思える。
(江戸時代末期の水戸藩ではじまったお寺さん取り壊しの「排仏毀釈」は上記のような悪しき事情への鉄拳みたいなもんだ)
ま~、もはやどうでもいいことだけど、日本人が甘酢や塩漬けでらっきょうを盛大に食べるようになったのは、だから明治になってからの事のような感触があるし、工業としての生産は昭和時代だろうけど、根拠ある追跡はかなり難しい。
らっきょうの最大の産地は日本海に面した鳥取だ。渡来を示す良い象徴として、鳥取はこれでチョット得をしている。
でも実際は、江戸時代に幕府が運営していた小石川薬園から参勤交代だかで持ち帰ったのが、砂丘のような痩せた土地でも良く育っちゃって、気づくと日本1番の生産量というのが真相のようだ。(2位は福井県)
鳥取市が制定している花は「らっきょうの花」。おや? 梨じゃないの? と思ったら、梨の花は鳥取県が制定の県花だったワ。写真はウィキペディアより。
らっきょうに好感して早やヒトツキ。夕食毎にポリポリパリパリ齧ってる。
やめられない・とまらない、では困るので抑制し、
「今日は12粒まで」
とか、自分に言い聞かせてポリパリやっている。
近所のスーパーを眺めるに、5~6種あり。もっともメーカーは2つばかりでそこがアレコレを出し、それをスーパーが仕入れているという次第だから製造者バリエーションはやや乏しい。
だけども、ま~、それなりに繁華に売れているんだろう……、とは思ってた。
けども実態はどうかといえば、消費量は年々に減っているらしいのだ。
らしいのではなく、確実にジワジワ減少しているのだ。
野菜情報サイト「野菜ナビ」の画面コピー
グラフ図の通り、ゆるやかなれども確実に下ってるワケだ。
これを具体に数値で示すと、こうなる。
2000年 作付面積1002ヘクタール 収穫量15070トン 出荷量11711トン
2016年 作付面積 756ヘクタール 収穫量10607トン 出荷量 8836トン
(農林水産省統計)
このわずか16年で2/3に減ってるんだから、大変だ……。
このまま減少するとさらに16年後には1/3にまで低下しちゃって、食材としてのらっきょうは絶滅危惧されるアンバイとなる。
それほどに、らっきょう需要は減っているワケで、製造者バリエーションが乏しいのもここに起因する。
需要が減れば生産者も減る。早いはなし、らっきょうは好まれない食品になりつつあるんだね。
グラフを見るに、2004年がピークだ。
何でかしら?と思ったら、その頃は第何期めかのカレー・ブームだ。レトルトなカレーのアレコレが急速に台頭した時期に重なる。
らっきょうはその添え物として、カレー人気に併せて売れたという次第のようだ。
でも数年で下降する。カレーは相変わらずレトルトを中心に売れてるみたいだけども、らっきょうだけがダウンしちゃってる。
カレーはといえば、「トマトとなすとズッキーニのカレー」みたいなヘルシーな嗜好が出てきて、バリエーションも広がって興隆一途で今にいたる。
試しにと、ズッキーニの国内生産の推移を見ると、ごらんの通り。
右肩上がりの売れっ子ぶりなのだった。
むろんズッキーニめは具材で、添え物のらっきょうとは別だけども、しかしもはや、「トマトとなすとズッキーニのカレー」にはらっきょうは必要とされていないというコトだ。トマトが入って、これは甘酸っぱい食感でもあるから、調和しないんだね……。カレーの多様性っぷりに、らっきょうはついていけなかったワケだよ。
ともあれ、らっきょうフアンになった身としては、この減少傾向を寂しく思わないではない。不安視しないわけではない。
が、断固阻止するって~アンバイじゃぁない。
いっそ、少数派になっていく身の上を面白がりもする。
ただ、いささかシャクなのは、こういう伝統的(?)味わいの食品を、国内需要だけではなく、国として海外にアピールしてきたかどうか……、って~ところがメチャに脆弱なような気がしていけないのだ。
たとえば政府は「クール・ジャパン」を標榜し、むろんこれはかつてのブレア政権時代の英国で官民一体で大成功した政策「クール・ブリタニアン」の模倣だけど、海外需要を開拓していこうという趣旨でもって官民ファンド「クールジャパン機構」なる株式組織(2013年発足)を造ってる。
政府が8割を出資でアレコレにお金を注ぎ、その中には吉本興業のエンターティメント事業に22億円というのも入る。
けど、結果として2019年3月期決算では売上げ僅かに8億円。
対して損益が81億円。
発足以来6年弱で累積のトータル赤字が179億円。
普通の企業ならもうとっくに止めてるか倒産しているかの、ゼッタイにありえない惨憺たる状況だ。
いうまでもなく、政府出資ということは我々の税金でヤッてますというコトなんだけど、で、その赤字を埋めるために今なにをしてるかといえば、米国企業(料理の動画配信なんぞをやってる会社だそうです)に出資して利益を出そうっていうのだから、本末転倒、ワケわかんね~国策事業になりさがってる。
NTTと吉本が組んでの教育事業だかにこの先100億もの巨費を出すというお笑いめいたハナシも伝わってるけど……、ホントにクールでナイスなジャパンを世界に売り出す気なら、せめて、
冷やしたらっきょう海外に売ってクールぜぇ!
国内需要も再起動させるぜぇ!
この旨さ世界に大発信だぜぇ!
くらいな強い意思と意気込みと国産モノに対しての愛(この場合、らっきょうですが)をもって、挑んで欲しいのですがね~。
添え物じゃなくて単体でメチャに美味しく、まだまだレシピの幅も広げられるという可能性も、きっと”売り”になると思うよっ、らっきょうは。
不可解な教育事業だかに100億投じるより、10億でもいいから出資して、「日本の味・らっきょう漬け」に賭けたってイイんでないの? 予想としてドイツあたりの酢漬け文化圏では気にいってもらえると思うが……。でもって、ドイツ人が喰うなら我ら本家とて喰わにゃ〜、みたいなコトになればおもしろい。
ま~、それで売れなきゃ~しかたない。らっきょうはマイノリティな滋味と覚悟し、
「この旨さをわからんって、つまらんの~、ハッハッハぁ」
被虐的気分も混ぜあわせ、心地よく笑ってられるって~もんだ。
砂丘らっきょう甘酢漬けの高級品 アグリマーケット(JA全農とっとり)のHPより。
けっこう高額(200g入り4袋。送料込みで4000円弱)。けど、少量でも良いモノをの意気込みや良し。食べてみたいなぁ、スーパーじゃ売ってないこの高いのを。