ガリラヤの海の嵐

 ウィルスそのものより、ニンゲン側の拙(まず)さ、怖さ、滑稽に、

「なんだかな~」

 ぐったり続きなここ数週。あえてそれらに触れず、身近なモノに眼をむける。

 空間というかスペース、について。

 

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 先日夕刻の西空。

 レンブラントの描く光と影の含みみたいな、光線具合がちょっと良かった。

 彼が今の時代の日本でアウトドアを描くなら、やはり電線は描かざるをえなかったろう。実に不細工で景観への配慮などチビリともない、このラインの束が今の姿というか、今を示す特徴の1つなんだから、これを描かないことには画家の存亡に関わる。

 

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 とはいえ誰がそんな電線絵画を買ってくれるのか? かわないカワナイ。

「ぁ、無駄な空想しちゃった」

 首をすくめて、こちとらクスクス笑うのだった。

 レンブラントを想起したのは、1990年にボストンの美術館から盗まれ、未だに発見されていない『ガリラヤの海の嵐』という作品があったからだ。

 

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            1633年の作品 彼が描いた唯一の地上ではない絵

 

 激しい波に苦労している帆舟の幾つものロープが、上の写真の電線のようでもあって、それで2つのイメージがつながってしまったんだ。

 この絵は、横幅が160cmで高さが128cmもあったというから。かなりデカイ。

 流布されている画像を見るに、かなり暗い映像のものが多く、上に載せてるもののようには明るくはない。

 たぶんこの画像は明度だか彩度をあげてるような気がしないではないのだけど、何せ写真は盗まれる以前、1990年以前に撮られたものしかないワケで、実物の明暗度がどうであるかは定かでない……。

 レンブラント作品の多くはかなり暗い色調の中に沈んでいるから、本来はこの絵も暗っぽい日没間際の見えるようで見えないような描写だろうとは予測するけど、このように彩度をアップさせて提示することで、初めて、画家が丹念にディティールを描き込んでいることも判るワケで、そのことでレンブラント・ファン・レインの力量が圧倒的なものであったと、逆にしれる。

 

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たぶんおそらく、この画像の方が実際の絵の色調に近い? が、盗まれてもう30年。具体的に検証できない

 

 盗難にあったイザベラ・スチュワート・ガードナー美術館はボストン美術館のすぐ近くにあって、入口こそ近代っぽい造りながら敷地内は中世イアリアの大豪邸をモチーフにしての建造で、中庭が実に美しいらしい。

 同館では、いまも本作のために、展示されていた場所に同寸のカラの額縁をかけ、絵の帰還を願ってる。

 その空のスペースは、腹立たしい災禍を示すわけじゃあるけれど、無駄なスペースじゃない。そこにあるべきものを示唆し続けてる。

 

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           イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館

 

 一方、盗んだヤカラは、売るに売れず、捨てるに捨てられず……、なのじゃあるまいか。

 丸めて保管してるのかも知れないけど、盗人の住まいだかの一画でそれは大きな意味でのスペースを取ってるはず。

 トットと返した方がいい。その空間を救済のためにも。

 ちなみに盗難は同作だけでなく、フェルメール作品も含め13作品もが、その時ごっそりやられてる。

 この事件に関してはマサチューセッツ州警察(ボストンは首都)やFBIの大捜査に関わらず犯人不明という次第で、米国では幾つかTVドラマになったり、ドキュメンタリー的映画『消えたフェルメールを探して』というのも作られたようだけど、残念ながら未見。これはDVDで市販されてるのだけど絶版だから中古市場に出るのを待つしかない。

 我が心の内には、その待ち時間としてのスペースや、有り。

 

ガリラヤの海の嵐』は、ガリラヤ湖という淡水の大きな湖をイエス使徒らが渡ってるさなか嵐がやってきて、往生した使徒らの前でイエスが奇跡をおこして嵐を静めるという、ま~、神さんの子は自然をも制御するというような、マルコの福音書第4章での話を絵にしてるようだけど、神の子は今はいないっぽいから……、嵐としてのコロナウィルス騒動をも静めてくれない。

 残念。

 

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           ガリラヤ湖。この写真はコチラからお借りした

 

 閻魔の大王さんなら、ウィルスと現政権、どっちが悪質かって~なお裁きじゃ、いささか面白い判決を下すような気がしないでもないけど、よく考えりゃ、閻魔は該当者が死亡してはじめてご登場だから、これもま~、現世じゃ役にたたんのぅ……、というわけで、ぁあ、また無駄な空想しちゃった。

 

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                  成相寺京都府宮津市)の閻魔像

 

 ともあれ、カラの額に絵が戻ってきますよう……、ここはやはり祈るっきゃ~ないか。

 祈願出来る対象という意味では、一神教多神教とわず神さんは機能してるなぁ。

 

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 マックス・フォン・シドーが亡くなったそうだ。90歳。

エクソシスト』で老神父を演じた時はまだ44歳……。大阪南の映画館で当時観たさいは、そんなに若い人とはまったく知らなかった。以後いろいろな映画で愉しませてくれた。彼が出てくるとその映画に必ず重みが生じてた。ラッセル・クロウの『ロビン・フッド』でのウォルター卿に扮した彼がとりわけに。

 合掌。

 

 

 

 

 

 

病院はしご

 昨日は雨降りのさなか、眼科へ。

 術後1ヶ月経っての検診、という次第。

 例によって待合室は受診者でいっぱい。この眼科にゃスタッフも20人くらいいて、人気を物語ってもいるのだけど、ウィルス騒動のさなかゆえ、この密集っぽさは好感しない。待合室で事前点眼をスタッフから受ける人もある。

 待ち時間およそ1時間弱。

「経過良好です~」

 で、診察1分。

 ぅ~~ん。

 

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 そのあと、別場所、別の医院にゴ~。

 マイ・マザ~殿の定期薬をば1ヶ月分ばかり処方してもらう。

 こちらは眼科ほどに人はいないけど、病院のハシゴって、面白くもない。

 けど、どちらの医院にも共通なのは、医院にしっかり馴染み、受付でしっかりタメグチ云って笑い、日常の生活パターンの中に病院通いを組み込んでる方もいるという事実。

 通いがうっとうしいものでなくて、あったりまえの日常というワケね。

ジェネラル・ルージュの凱旋』という映画で不定哀訴の外来者を担当の主人公に、「グチ外来の医者と救急医療にたずさわる医者とでは大違い……」と堺雅人演じる救急医療センター長がグチるシーンがあったけど、ま~、そんな感じも含め、病院に行くのを、文字通りな"生き甲斐"というか、楽しみにしている方もいるワケなんだから、世の中おもしろいと云っちゃえば失礼だけども、

「なるほどねぇ」

 とは感心する。

 

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 ま~、誰にだって楽しみは、あるさ。

 かくいうワタクシだって、近頃は、ファミチキ買って、これをば食パンにのせ、さらにイチゴ2粒ばかりをのっけて練りカラシ塗り、上から食パンでおさえ、バクッと頬張る前に指でジワジワとイチゴを潰して馴染ませ、やっとパクリ。ビールで流し込む。

 そんな痴戯っぽいお食事に密かな萌えを感じちゃってたり、する。

 べつだんファミリーマート製でなくっても、いい。

 ヤマザキ・ディリーのやら、セブンイレブンのやら、ローソンのやら、でもいいのだけど、歩いて数分のところに店があるんで、利用頻度が高いだけ。

 こだわってるワケもない。

 ワケもないけど、そのお手軽でもって楽しみが充足されるんだから、ワタクシの楽しみって……、とても底浅い

 カラシとイチゴが口の中で互いに、何じゃ〜オマエはとケンカするのが、面白い。そこをファミチキがマ〜マ〜、ま〜ま〜となだめてるって感触がお・い・し・い。

 

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 一斉休校がはじまって早や数日。

 うちの近所にゃ小学生が10人くらい生息し、休みともなればよく外に出て遊び、うち複数はチャンと挨拶も出来る子らなのだけど、いっこうに姿を見ない。

 皆な、鳥カゴの中の小鳥みたいに家の中に置かれてるんだろか? それとも疎開してんのか?

 疎開ったって~、どこも同じく感染が危惧されてるんだから、意味ないけど。

 子供らの声が街路に聞こえない奇妙。

 たぶん次第に緊張が溶ろけて、ダイジョブだろうってなコトになって、やがて子供たちはゾロゾロ街路に出て来るだろうけど、逆説的な、

ハーメルンの笛吹

 みたいな状況に今は困惑しきりだろう。

 

 

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 しかしイチバンに困ってるのは、大人だわさ。

 ライブハウスを含め、個人商店や飲食店は大変だよ。

 密集集団による感染は忌避はしたいし、といって何ぞあったら、とやかく云われるし。

 ライブハウスに自粛要請はないけど、花見は自粛して欲しいというのは……、どうなの? (結局は国として何ぞのさいの商業的経費補填を回避してるんだね〜)

 香港のように全世帯に1万香港ドルを特例支給というようなこともない。台湾ではもう2月初旬には休校処置を終え、次段階での対応をやっている。そんな素早さもない我が国では……、他国との違いも含め、どう踏ん張っていいのやら、かなり困る

 判らないコトだらけなのが、とにかくも厄介。

 極微なウィルスがニンゲンという巨体を今は土俵のキワに追い込んでるワケで、ある意味、すごい……。

 

 けど、それもイットキでしょうよ。

 ちょい昔、ナチスがパリを占領し、優越にホホを紅潮させてカフェに居座り、我が世の春来たりとふるまったものの、やがてシッペ返されてションボリ萎んでったみたいになるのを、期待。

 

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直き聖火リレーですが

 ちょいと観たい映画があったけど、何だか出向けなかったのは、やはりニュータイプなウィルスのせいだろう。

 この岡山ではまだ感染者のニュースもないんだけど、人ごみを避けたい気分濃厚。

 躊躇する内、ありゃりゃ、2/27日で上映終了となっちゃった。

 半年もすりゃDVDだかで観られるから、ま~、映画館行ってヒトが咳するのを気にしつつよりはラクだ~ね……、などと云ってもみるけど、内実はちょっと怯えてるワケだ。

 

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住まい近場。運動公園横手の水路。広いグランドは放課後ともなれば高校の野球部が練習に使ってそれなりに賑やかだけど、誰もいない。もう既に自粛してるのかな?

 

 ヒトに来てもらってはじめて機能する病院やら介護施設やらやらは、どこも大変な思いでしょうな。とくに病院はウィルスや細菌でやられたヒトがやって来るんだから、今回のことにかぎらず、ホントに大変な場所であり仕事だわいと、あらためて痛感させられる。

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 ウィルスと、バイキンは、まったく違う。

 人体に影響をあたえるバイキン(これは通称ね)を含め、細菌はいずれも生物で、梅毒やらコレラやら赤痢をもたらす。百日咳菌は百日咳を引き起こす。最近じゃマイコプラズマ肺炎というのがあるね。

 細菌はタンパク質を合成できる能力があるから、我々の身体と同様、老化もする。

 一方、ウィルスは生物と言い切れない。なんせ細胞がない。自らのカタチはタンパク質だけどそれを合成しない。なので生き物と断定しきれない。

 それゆえウィルスは1人で自炊生活できない。自力で動けない。常に旅館なりホテルといった整った施設がいる。

 その整ったお宿が人体であったり鳥であったりする。自力で動けないから宿主に徹底依存する。宿主の細胞を大いに活用して自分の複製を造っては生存(いきながら)える。

 ヒトの肺の中では概ねで170種ほどのウィルスが家賃払わず住んでいるらしい。宿主に何ら影響をあたえないもの多数であるけれど、そうでないのもいる。

 こたびのヤツがその悪しきなウィルスであることは間違いないけど……、さ~、いつ、この騒ぎは消えてくんだろう?

 

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 この312日にはギリシャで聖火が灯され、海を渡って、3月26日からは福島から国内リレーだよ。いいのかなぁ? ダイジョブなのかなぁ。

 

 日本に限らずこれは、超ちっこいヤカラから人類全体のイベント感に向けての抜き打ち挑戦、という感がなくもない。

 ボクはオリンピックと万国博覧会はもうとっくにその役割を終えているとのマイノリティーな見解でいるけど、オリンピックに全体重をかけて活きてらっしゃる方々にはかなりな心労モンでしょうなぁ、この騒動は。(ま~、中止はないだろうし、極端に病気拡大というのもないだろうけど)

 根治方法さえ解明出来たら、何て~こともない病気の1つにされてくんだろうけど、今はまだそうでない。

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 ポオの『赤い死の仮面』に似た隔離遮蔽の不味さと、ポオの時代にゃなかった情報過多でゴチャゴチャな不味さとが相まい、さらには、ある種な情報は秘匿し検査数を抑えて陽性反応の実数を増加させないような配慮やら、”医療じゃない政治的”流れが見え隠れし、結局は現政権での行政手腕じゃ~ヤバイから、個々人自衛で乗り切るっきゃ~ないというなさけない状況にもってかれ、ポオの時代以前に落下したような感もあって、ただもう……、収束がはやく来ることを願うばかり。

 なにより自分が外に出るさい、マスク着けなきゃ何やら落ち着かない気になってるのが、1番にいかん。

 でもって2番に、そのマスクが気休めなモノでしかないという事実が、いかん。

 が、そうであってもマスクに頼りたい、内なる頼りなさが3番にくるのが、いかん。

 

 この数週、やたらカミュの『ペスト』が売れてるらしいけど、不条理に流されるしかない読後のグッタリ感を思うと……、おぞましい伝染病の浸透をゴシックな詩編に昇華させたE.A.ポオの手腕をボクは持ち上げたいなぁ。わずか数ページの小編なのに、すごいね。

     収録されてる本はこれ。ポオ小説全集 3 (創元推理文庫 522-3)

 ボクらもまた、彼が描いた仮面同様にマスクの中に逃げ、けども同時にそれで退路を断たれていると気づきつつ束の間の安息にしがみついてるわけで、ポオの時代は過ぎた過去でなく今に継続しているんだなッ、とも思わないでもない。

 たぶん、こたびのウィルスだけでなく、温暖化とも相まって、今後も悪しきなウィルスは定番季節商品みたいに続々と登場してくるに違いなく、さらには無策で場当たりなボクちゃんが1番大事っぽい政権が国の要めにあったりすると……、我々は常に「怯える存在」に置かれ続けるのだと再認識してよろしいかとも。

 

 実際、今日日曜のお昼、近場のスーパーに行くと、マスクどころか、トイレットペーパーにティッシュまったく在庫なしで商品棚ガラ〜〜ン。いかんなぁ。

 皆さんパニックに踊ってるねぇ……。でもきっと、2週間も経てばケロ〜ッとして、「そんなコトあったねぇ」なんて〜顔も見せるんだろね。

 

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キムタク大会

 過日の週末、某BARにてY先生と合流。アレコレ歓談。同氏が『ネモ船長と海底都市』という激レア映画に言及したのでビックラこいた。

 観る人少ない同作は以前にココで触れてるけど、思いがけないところに同好者がいたのに面食らうやら嬉しくなるやらで、アラララという間に日付かわって朝2時を過ぎてたぞ。

 で、タクシー帰宅で車道から玄関まで歩くに、肉離れの足が痛いのなんの。

 もっとも、歩かなきゃ痛くも痒くもないわけで。

 要はジッとしてろ~、というワケだね。

 なら、ジッとしときましょう。某医院で処方の鎮静消炎剤を両足ヌリヌリ。

 

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 夜はともあれ、日中は奇妙なほどの陽気が続いた連休。

 感染力が強っぽいウィルス蔓延と、たいしたこっちゃないと検査の拡張もせず、要は数字的に従来の風邪やらインフルエンザに見せかけてオリンピックやらの開催に注力したがってるらしきな政府と、それに同調っぽいマスコミの報じ方を横目にしつつ……、この数日の、露骨なまでの温かさに、お・ん・だ・ん・か、の5文字がチラチラし、映画『地球の危機』が念頭に浮く。

 

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 原子力潜水艦シービュー号の活躍を描いたかのTVシリーズの前に創られた、いわば初代のシービュー号の姿が見られる”特撮映画”。

 ヴァン・アレン帯が燃え出して地球は焼かれた鉄板みたいになって、温暖化どころでない熱チチチな状況。それをシービュー号が国連の意向を無視して単独行動に出、燃えるヴァン・アレン帯にミサイル撃ち込んで一気に燃焼させて地球を救うという……、メチャな展開ながらもシービュー号のカッコ良さだけが最大にして最高に良くって、登場人物たちよりこの潜水艦がキャラクターとして凛々と屹立している珍しい映画。

 巻頭、氷が幾つと浮いた北極の海が長々と映り、さて……、と思った途端に海中から急速浮上したシービュー号がドドド~ンと登場でドギモを抜かれたのは、おそらく若い頃のジョージ・ルーカスもそうだったろネッ。巻頭でもって一発ノックアウトは、かの『スターウォーズ』のスターデストロイヤーで踏襲してるところからも、そう確信的に思える。

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 ジッとしてる代償として、上記映画を久しぶりに観、この映画ではシービュー号の展望窓は8つだけど、後のTV版は4つに変更されているのを「正しい判断」だわい…… などと改めて認識したりする。

 

 次いで、突然の……、『キムタク大会』。

 amazon primeで『マスカレード・ホテル』(チョイ前に1度みたけど)を皮切りに、DVDで『MR.BRAIN(ミスター.ブレイン)』シリーズ。とどめにブルーレイ買ったものの観るチャンスがなかった『検察側の罪人』。

 続けてみましたとさ。

 

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                『MR.BRAIN』のスチール

 

 なんでそうなったかと云えば、BARのハチェガワ・キモノヴィジンちゃんが、

「マスカレード・ホテル、どこにサンチャン出てましたぁ?」

 と、問うてきたから、

「それボクちゃんも判ってね~の」

 その確認をしようと観始めたら、停らなくなったという次第。

 サンチャンとは明石家さんまの愛称らしいが、べつだんこちとら好きでない。観始めるやもう彼を探すの忘れてらぁ。 

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 いっそ、上のスチールに見るように、後ろの俳優さん、『てなもんや三度笠』時代の藤田まことにそっくりじゃん……、みたいな所を可笑しがったり。

 注視してるのはキムタクだぁ。長澤まさみ演じるホテル・フロントの女史から歩き方を注意され、がに股歩きからス~ッと通常歩きに変えてくシーンの絶妙など、まったくイケてる。この写真でも背筋伸ばしてホテルマンらしく居住まい正しくて良い良い。ここのシーンでキムタクはセリフはないけど、右背景の黒ブレザーの男の肩の落とし方とはまったく別の佇まい。無言の演技でホテルマンたらんと集中してるワケでね。

 

 シンガーとしての彼をボクはほぼ知らないし興味もないけど、アクターとしての彼はかなり好きな方。

 山田洋次監督の『武士の一分』での盲いたカタチに、「おっ」と思ったのがスタートだ。

 といって、追っかけてみたりしない。

 

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検察側の罪人』はもっと早くに観てもよかったけど、なんせボクにとって原田眞人監督作品は御馳走だから、ご馳走はイチバン最後に食うべきもの、こちらのコンディションと合致した時こそに味わうべきもの。

 そういうスタンスで、その時がやって来たという次第。肉離れが起きなきゃ、もっと後になったかも知れないけど、ま~、いいのだ。動かざることヤマのごとしで、逆に集中して観られた。

 で、やはり、御馳走でした。

 キムタクとニノから素晴らしいのを引き出した監督の力量はでっかい。

 

 本作を加えて、原田作品の順位付けをするなら……

 1位ないし2位 クライマーズ・ハイ

         駆込み女と駆出し男

         突入せよ!あさま山荘事件

         検察側の罪人

 2位      日本のいちばん長い日

 3位      関ヶ原

         我が母の記

 実にまったく順番を決められないのだった。

 映画館で観たきりで以後接していない『ガンヘッド』も上位にあるけど、再見してないから、これは除外で、でも、以上7作品をも優秀としてあげられる監督って、まず、いないわさ。

 

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            ありゃ、1本、別監督作品が写ってら……。

 

 原田作品は最初に観た時は、ほぼ必ず拒絶反応が体内に浮き出る。

 拒絶というのはキツイが、居心地悪さみたいな妙な緊張テーストがからまる。

 が、2度目3度目と繰り返して観るうち、それが実は隠し味としてではなく、ほかと較べようのない独自な味覚だと察っせられてくる。

 不味いと最初は思ったニンジンやネギが、今はもうそれがなきゃ~やってらんないモノに変わったように、原田監督作品はどれもが素材の選定と調理の程合いがそこいらの監督さんとは一線をかす。

 1回観たきりで原田作品にレッテル貼ってはいけない。口当たりの良いお子様仕様じゃない。

 たぶん、その極みが『クライマーズ・ハイ』であり『駆込み女と駆出し男』なんだろうけど、『検察側の罪人』にも調理の腕が冴え渡ってらっしゃる。

 多層化した夢世界を描いたクリストファー・ノーランの『インセプション』の映像表現にも似る巻頭の見事に反転したビルの映像といい、松重豊扮する驚くべき人物像といい、4重5重の眩む程の複雑構造は1回観て了解できるものでない……。

 この先、何度となく本作をボクは観るだろう。そのたびに新たな滋味滋養をボクは得るであろう。愉しみが継続するのが原田作品だ。

 

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 で、キムタクさんですがね、髪の長いのも良いし、短いのもイイっすね。

 年齢が増してヤヤ眼の下あたりがくたびれてるアンバイも『検察側の罪人』や『マスカレード・ホテル』ではプラスになってた。

 ニンゲン、じわじわと、くたびれてくもんですよ。それを劣化と思うか進化と思うかが、ものの見方の別れ際。

 本質は劣化なんじゃ~あるけれど、その劣化自体を新たな魅惑に見せるには、ニンゲンはどう振る舞えばいいか……、というのがニンゲンの、生きるテーマの1つかもだね。

 そういうコトは20代とか30代とか40代は考えなくていい。考えなきゃいけなくなるのは50代の半ばから……。

 キムタクさんは47歳だか48歳らしいから、まだ深刻劣化は7~8年先じゃ~あるけど、この先を、彼がどう、うっちゃっていけるか興味津々。少なくとも『検察側の罪人』での彼はアクターとして最高だった。

 吉野家に行くたび、ツユダクをボクはお願いするけど、キムタクもまた今後の活躍としてツユダクな人でありますよう願う。

 

 ま~、ヒトサマのことより我が身のことを。

 足さすりサスリしつつ、ボンヤリ考え、鼻かんでツユダク……、なんて〜コトいってるのが早や、爺イ。

 あら? 風邪ひいたか……。

 

ウィルスとアポロ時代の隔離室

 過日、自転車で眼科通院中、左ふくらぎがゲキに痛たたた……。

 複数個所の微細な筋肉断裂らしきで、この数日、今度は眼じゃなく足で難儀してる今日この頃。いわゆる「肉ばなれ」のヤヤひどいやつ。

 メチャにペダルを廻したワケでもなく、何ででしょ?

 眼の安静に次いで今度はアンヨかよ〜〜。でも週末にゃ呑みに出るっ気ジュウブン。

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 以下の記事はもうだいぶんと前に一度書いたというか、とある製品のための解説文の一部として使ったものだけど、中国発の新たなウィルスでテンヤワンヤの今日このごろ、「感染」やら「隔離」という単語がヒンパンに登場で、ちょっと連想され思いおこされ、再録するコトにした。

 とはいえ再録じゃ~つまんないから、アレンジを加えるけど。

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 まず最初に、アポロ計画だ。

 アポロ計画では、11号から14号までの4回は、地球に戻ってきた宇宙飛行士は隔離された。

(アポロ13号は着陸せず戻ってきたので隔離なし)

 当時、月がどのようなアンバイなものかさっぱり判ってなかった。ヘンテコな菌とかがいて、それを持って帰ってきたら、えらいこっちゃ……

 というわけでアポロ計画では大規模な予算投じて、大がかりな隔離医療施設(LRL:Lunar Receiving Laboratory)を造った。

 

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1968年。建造中のLRL

 

 飛行士も月の石も、そこに隔離し、テッテ的に調べあげて、オッケ~なら地球の空気に触れさせましょうというプランだった。

 月から帰った3人の飛行士はそこで21日間、隔離検疫され、いわば潜伏期間と発症の状況をチェックされる。

 ただ、そこはアメリカ。狭っ苦しくない。

 最近の映画『アポロ11』でLRL内のガラス越しの面会室が描写された通り、ラウンジとか食堂とか、隔離される人は居間くらい広い個室とか、「閉じこめ感」はまったくない。

 部屋という単位でなくビルという単位での弩弓な隔離施設だった。

 

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 アポロ11号の時は、彼らの写真やインタビューを得ようとしてNASAの制止をふりきって接近しちゃったマスコミ関連者10数名と、NASAの関連者若干名も汚染が疑われ、同施設に強制隔離された。(全部で16名が隔離)

 たとえばNASAの写真技術者だったテリー・スレザークさんなどは、アームストロング船長が月面で使ったハスブロー・カメラからフイルムを出すさい、付着した謎の黒い物質(月面の塵)に触れたようだという事で、隔離されちまった。

 

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 一番気の毒だったのは、そのテリーさんの作業のためにLRLにカメラ機材を運び入れた人たち。テリーさんと一緒に隔離され、このアクシデントは当時の米国でわりと大きなニュースになってた。3週間の隔離を言い渡され、写真の通り表情さえない……。上の右写真は機材ともども、取り合えず隔離された直後のもの。

 

 そうやって14号までは隔離前提、検査漬けだったけど、何ら伝染する事がなかった。高熱出す人もなかった。

 それで、概ねダイジョウブという事で15号からは飛行士たちの隔離は廃止。

 

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 ただ、持ち帰った月の石や使った小道具なんぞは、その後のアポロでもこの施設で継続的に検査・研究され続けて今に至る。数年前、アポロ計画で持ち帰った月の岩石内から水分が発見されて大きな話題になったのも、この施設。

(来年2021年にLRLは、初期目的はすべて達成という事で取り壊し予定)

 

 アポロ司令船は海に着水した後、乗組員と持ち帰り物は上記施設に入るまでは「移動隔離室」に収用された。

 Mobile Quarantine Facilities.

 通称、MQFという。

 

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MQFのペーパモデル。

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帰還後、MQFの窓越しでワイフたちと面会のアポロ11のクルー

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模型。回収直後の隔離の情景イメージ。いったんMQFに入った宇宙飛行士は防護服に防護マスクに着替え、横付けされたアポロ機内から、月で使った宇宙服を含め諸々の持ち帰り物を取り出してMQFに移す

 

 MQFは米国人には馴染みの大型キャンピング・カーのボディ2台分をつなぎ合わせ、大改造したもの。

 タイヤは外され床下部分も大改造。自走しない。内部はやや減圧された密閉空間になっており、頑丈な基盤にそえられ、外部には諸々の装置が取りついてる。

 

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元は豪華なキャンピングカー。仕様違いで何種類も市販されてた。

 

 MQF-移動隔離室は4台造られた。

 内部は2段ベッドの4人分寝室(医師1人も同乗)、リビング、キッチン、トイレとシャワー室に判れ、移動中の食事は専用の遮蔽ボックスから内部に運び入れる。

 ボディにはダクト管や電話船を含むケーブルが取り付き、乗ってる飛行士の排泄物や呼吸した空気は外部に漏れないようなっている。

 

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右は模型再現の内装。

 

 当時新進気鋭の医者でSF作家のマイケル・クライトンなんかは、「それじゃ充分でない」と批難ゴ~ゴ~し、結果、彼は『アンドロメダ病原体』という未知のウィルスと隔離施設をテーマにした小説書いて大ヒットさせ、その映画『アンドロメダ』も秀逸な傑作としてヒットする。

 

 さて、ここからハナシが転換する。

 アポロ11号の月着陸と時同じくしての1969年。ナイジェリアのラッサ村で出血を伴う熱疾患患者が発生。治療にあたった医師も死亡した。

 たちまち隣国のギニアシエラレオネ共和国やガーナでも発病例が出た。

 それで米国は1970年、エボラ出血熱に匹敵する凶悪なウィルスと疑念し、医師団をシエラレオネ共和国に派遣した。

 医師をウィルスから防御するためにNASAから「移動隔離室」を1台借り出した。

 前年11月のアポロ12号で、ピート・コンラッド船長、アラン・ビーン・ディック・ゴードンの3人を隔離するという歴史的な重務をはたした車輌が、今度は外部から医師を保護するという逆転でもっての急遽の使用だった。

 

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19691124日。空母ヨークタウンに回収されMQFに入った12号の飛行士3人に海軍大将がねぎらいの声をかけるの図

 この車輌(車じゃないけど)は、MFQ-002という名で呼ばれてた。

 ちょうどその時、これは博物館展示を目的に海軍の整備基地に運び込まれた直後だったので都合が良かった。

 シエラレオネに空輸されたMFQ-002は現地で米国医師たちの防御ルームとして活用され、貢献した。そこでの研究で、ウィルス性感染症である事が確認され、ラッサ・ウィルスという名が決まった。

(今も毎年発症者が出るけどワクチンが開発されてるんで、もうさほど怖くない)

 

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ラッサウイルス

 

 大任はたして、医療チームの引き揚げと共にMFQ-002も米国に帰ってきた。

 でも、未知の悪しき菌がウヨウヨいる地域に持ってっちゃったので、すぐにミュージアム用にというワケに行かず、空輸されたアトランタの倉庫にひっそり置かれた。アトランタジョージア州北西部に位置した州都)

 そういう経緯があるんでビニール袋にくるまれたまま、誰も近寄らない……。ま~、気持ちは判る。

 

 そうこうする内、年数が経ってく。

 70年代は過ぎ、80年代も過ぎていく。

 当時の役人さんや担当者は部署が変わったり、退職したりで、どういう次第かチャンと引き継ぎが出来ていないまま、90年代アタマになってやっと、

12号の移動隔離室って、どうなってんの?」

 という声がNASAで、出る。

 

 アトランタの倉庫に入った事は判ってた。

 それでアトランタ市に連絡したら、

「そね~な古い記録、ありゃ~せんで」

 という答えで、事実、倉庫にない。

 

 その後の調査で、ジョージア州内で森林火災発生、同州の荒野消防士のための「移動司令室」として、流用された事がわかった。

「おいおい、勝手に使うなよ、それ政府の持ち物やで」

 初めて聞き知って、NASAの担当者は憮然とした。

 

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アトランタでは1996年にオリンピックが開催されてる

 

 けど追跡はそのあたりまで。そっから先、判んない。消防関係で「使い勝手が良くて司令室に最適」という事で、他州に貸し出したという話も出るが、追跡できない。

 物品管理の所轄が州をまたぎ、所轄が変わり物品入庫と抹消が書類上で繰り返され、担当者が変遷のたびに、このMFQ-002の所在は忘れられていく。

 これは行政の怠慢か? あるいは悪しき偶然か?

 NASAも途方にくれた。

 で、また10数年ほどが過ぎてく。謎は謎のまま、謎そのものが忘れかけられつつあった。

 

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 今からたった13年前の事……

 2007年の3月に、アラバマのスペース&ロケットセンターに、

「ペレー郡の西アラバマ魚卵孵化場にある建物は、ひょっとしてMQFでは?」

 とのメールが届く。

アラバマ州ジョージア州の隣り。河川面積は米国第1位で自然の植物・動物の多様性でも第1位)

 半信半疑でスペース&ロケットセンターのスタッフが、樹木覆い繁った小さな村に調査に出向くと、ビックリ仰天。上の写真ね ↑ 

 まさしく本物のそれだった。当時の内装も残り、製造当時のオリジナル・プレートも残ってる。

 スタッフは顔みあわせ、

「何でやねん?」

「何でこないなトコにあるねん」

 英語で言うた。

 

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 魚卵孵化場の人も、まさかそんな出自のモノとは知らなかった。

 行政の払い下げ品とかで、実に安いネダンで購入したらしい。

 作業の休憩用にとそこの従業員が内装なんかを手作りしちゃって、ちょっと居心地良い環境になるべく工夫されてたりもする。

 転々とさせられたという意味では、Mobile Quarantine Facilities……、モバイル・移動という所とファシリティ・施設という所だけは活かされ続けてたワケだけど、不遇というか、奇妙で数奇、よく見つかったもんだ……

 

 という次第で今は、レストアされ、ちゃんとミュージアム(通報を受けたアラバマのスペース&ロケットセンター)に展示されて余生をおくってる。

 このロケットセンターの土産店ではいっとき、うちのアポロの模型MQFを含む)を売ってたようだ。ようだ、というのは発注者が別名だったんで、そのときはよく判らなかったんだ、妙にたくさん買い付けてくれたなぁとは思ったけど。スーベニア・ショップの出入り業者が仕入れたんかしら? これまた、もはや追跡できない。

 

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アラバマのスペース&ロケットセンター内のミュージアム


 ちなみに他のMQFスミソニアンをはじめに、いずれも博物館に入ってるよ。(アポロ13号で未使用になったものは未展示)

 

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これは空母ヨークタウン・ミュージアム内に展示のアポロ14号で使ったMQF

 

 以上、かつての顛末を長々と紹介。

 新しいウィルスが出てくるたび、ヒトはドタバタしちゃう。ま~、それはしかたない事としても、アレコレ巻き込んでく内に、副次的に妙な事も起こしちゃうんだね。

 そんな昔話を持ち出しつつ、今の騒動……。

 対応の混迷も深刻のようで、バイオとモラルの2重のハザード。ウィルスの伝染速度と人間側の速度。

 その上に種々アレコレな情報の錯綜で、真実に価いするものがサッパリ見えないワケで、せっかく眼を手術したというに……、うまく直視できない難儀というか、やたらもどかしいですなッ。

 

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アラジンの魔法のランプ

 左メダマの手術から、早や10日ほど経過。……いや、まだ10日って感じかなっ。

 次は4日後の午前中に診察。これで一応は術後診察から開放される。

 通院って、面倒で、き・ら・い。

 

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 アクリル製水晶体レンズは保険適用のものは2種あって、右眼の時と同様に「遠くがよく見えるレンズ」を装着してもらってる。

 なので0.1以下のさっぱりワヤな状態から、今は裸眼で1.0~1.1というところまで回復しちゃってる。

 けど大喜びというわけでもない。

 逆にそれで、今度は近いものが見えにくい。今までは0.1以下であれど小さい文字の識別はかろうじて出来てたんだけど、それがもはや見えない。

 老眼を使用しなくちゃいけない。ま~、すでにしっかり老メガネは使ってるんでベツダン困るワケでもないけど、ちょっとガッカリという感じがしなくもない。

 

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  昨年末にKosakaちゃんに天井によじ登ってもらって(土間構造なので)取っ換えた部屋の照明を、ちょいと前さらに光量のでかいのに換え、文字を見る環境として申し分ない”明るさ”は現出してるから、ひどく困るというコトでもないんだけど、「得したような損したような」絶妙な淡い気分ありあり。いっそ、「近くがよく見えるレンズ」を入れてもらった方が良かったかなぁ、とも思ったり。

 その場合は、右眼側が遠く用で、左眼側が近く用、ということになるのだろうけど、チョイとアンバランスかも知れないと思って結局、「遠くがよく見えるレンズ」にしちゃったわけだ。

 こういうのは装着しなきゃ~感じ感覚がさっぱり判らんので、ま~、悪しくいえば「後の祭り」という次第なのかな?

 遠くも近くもバッチリの遠近両用レンズがあると奨められはしたけど、保険適用外、片目46万円っていうの……。

 46万って……、ビッグマック1200ケ買えるじゃん。1日1ケで3年以上食べ続けだぞ。

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 視界と部屋の明るさ。これは大事なポイントだ。

 たまさか、明治の「亜公園」がらみでアレコレ調べてるんで、灯りについても掌握しなきゃ~いけない。

 赤煉瓦にガス燈が灯った銀座の華麗だけが明治じゃない。

 むしろ、行灯から西洋式ランプ、さらにガス燈やらアーク燈に変わり、さらにまた電球と発電による灯火へと、めまぐるしく変わったのが明治だから、その移行時期としての当時の感覚をば、知覚したいと思ってアレコレ調べてる。

 通り一遍な表層は直ぐに判るけど、ちょっと深く知ろうとすると、もう霧がかかったみたいになって、何冊か本を渡ってやっと、おぼろな輪郭を掴むというようなテイタラク

 

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 たとえば、これは明治の話じゃないけど、「アラジンの魔法のランプ」ってあるでしょ。

 このアラジンのランプは、何を燃してるの?

 あんがい即座にわからない。

 アラビアン・ナイトというくらいだから、きっとあの油だろう。オイル・マネーでおなじみのあの油だろうと……、思いがちだけど実は違う。

 オリーブ油だ。

 地中海界隈の風土はオリーブをよく育ませてる。

 利用法はいっぱいで、食用になるし、肌に塗る美容剤になるし、燃料にもなった。

 ただ、あんまり強くは燃えない。

 アラビアン・ランプの細い指し口の中にはちゃんと灯心が入ってて、これがオリーブ油に沁み、細い先端部に火が灯もる。だから、手元を照らす程度の明るさだ。

 なので、夜の部屋から部屋へ移動することに使うのが前提、大きなトッテがついてるワケなのだった。

 

 一方でヨーロッパの北部方面じゃオリーブは、採れない。

 しゃ~ないんで、牛の脂を燃やし灯りにした。脂(油)にヒモ状の芯を漬け、これに火を灯す。

 けど、牛脂だからすごく匂う。

 やがて鯨の頭の中にある白い脂(鯨蝋)が冷えると固まるのに気づき、これを固めて圧縮して芯を入れ、ロウソクにした。

 アラビアン・ランプに較べずいぶん明るい。

 それで捕鯨が盛んになる。

 乱獲だ。頭の脂部分だけ採って後は海に捨てた……。

 牛脂より匂いはきつくないけど、それでも独特の匂いがあり、カーテンや絨毯や壁紙に匂いが沁みた。

 

 地下に埋まった「燃える水」のことは大昔から知られてるけど、それを燃料として取り出すようになるのは1885年。日本風にいえば嘉永7年。ペリー艦隊再訪で日米和親条約を結ばされた年だよ。

 

 で、明治前期の日本の灯り事情は、江戸時代と同じくロウソクと行灯が全盛だ。

 行灯は廉価な魚油がほとんどで、イワシやサンマの脂分だ。

 武家やちょっとした料亭なんぞは菜種油を使う。

 発生する匂いが随分違う。

 魚脂の悪酔いするような匂いと植物性の匂いとじゃ、当然に菜種の方が居心地がいい。でもま~、値段が違うから一般家庭じゃあんまり使えない。

 でも、石と漆喰で固めて空気の対流がよろしくない家屋じゃない。僅かな木材に紙をはった襖(ふすま)が主なんで、風はス~ス~、使ってるさいはかなり匂うが、匂いが部屋に沁みて籠らない……、のは利点だったかな。

 

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 日本のロウソクはハゼノキやウルシの実を蒸して脂肪分を抽出して造ってた。いわゆる和ろうそく。鯨のそれより蝋が溶ける融点が低い。

 

 明治前期の日本を旅したイザベル・ルーシー・バードの『日本奥地紀行』は、当時のリアルを強烈に伝えてくれる第一級の資料本、その観察力に圧倒される。

 あれこれな人の紀行文を読んできたけどイザベル女史の記述はダントツに素晴らしく、いまだこれを越える”旅の記録”はないようにも思える。

 このブログみたいにグダグダ長々な記述じゃなく、事の本質が好けるように短く文章を刈り込んでらっしゃる。

 その中で、彼女も日本の灯りに言及してる。それがリアルに満ちて、メチャ参考になる。

 

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日本奥地紀行 (平凡社ライブラリー)

 

 聖書の教義を身に沁ませ、宗教的布教活動もやってた女史だから、その史観と私感を最上に置いて、時に上から目線も含まれるが、極力公平に眺め、リアルをリアルのままに伝えようと務めているのが、何より素晴らしい。

 47歳の彼女の眼に映る旅の同伴者、横浜で雇いいれた伊藤という19歳だか20歳の英語が出来る青年、従僕であり通訳でありの真面目で向上心ありながら、旅の道中では事あるごとに金銭的チョロマカシもやってるその姿、彼女の旅券が持つ”威力”をかさに旅先方々で時に偉そうに振る舞うその姿を、批難としてでなく、第三者の眼差しで見詰めてるのも圧巻。

(イザベラ女史の旅券は英国公使経由で’日本政府が発行のほぼ無制限なスペシャルなもので、当然にこれを発行した以上、日本政府は彼女の旅先での安全と保護を保証する義務を担ってた。予約を入れて旅してるわけでなく、辿り着いた町々村々で彼女と伊藤君は宿をとる。そこでこの旅券が圧倒的な力を発揮する)

 伊藤君は旅装束とは別に羽織袴も持参しており、いざという時はそれにサッと着替えて、旅先の地元警官や宿主にちょっとえらそうに接する。

 読み進むうち、イザベラ女史よりも、我が同胞たる日本人・伊藤君に猛烈に興味がわいて来たりもする。

 要は彼のスガタカタチを描くことで、旅先の日本と伊藤君の中の日本とがぶつかったり融解したりの様相を通して、女史は自身の眼とをあわせ、2つのマナコでもって明治日本のリアルをステレオで描いてるんだから、素晴らしいというか、す・ご・い・んだ。

 

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 その彼女が見た当時の日本の灯りは、貧しい家になるほど貧相になっていく。

 彼女はそれを鯨油とも魚の油とも書いていないけど、異臭ありの小さな灯火の中、家族がその灯りの下にうずくまるように身を寄せ合い、けれどそんな乏しい明るさの中で、習字して文字上達に励む子供がいるのを見逃さない。亜公園が岡山に登場するわずか14年前の、洋化が浸透していない日本の姿……。

 そこに彼女は美しいものを感じてる。子供の墨による筆跡の逞しさを当時のパリ画壇の洋画家と較べ、礼賛したりもする。

 

 で、そこを読んだボクはといえば…… そんな暗いところで勉強してちゃ~、メダマ悪くするんでないかしら、視力落ちまくりだろう……、くだらない別次元リアルをおぼえてるという次第。

 生メダマはリニューアルながら、何をどう映してじっくり見るかという点じゃ、まだまだ旧態脱せず。

 

新眼

 メの手術して3日めに、S君やT君のバンド「ザ・リサイクル」のライブ観覧。

 眼帯はずし、保護メガネとマスク着けて出向く。

 5日ほどはジットしていろとのコトゆえ、ホントはよろしくない。事実、眼の左側界隈がときおり揺れる。埋めたレンズがまだ固定しきっていないワケだ。

 しかしライブの方はホントによろしく素晴らしかった。

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photo by Nobuya Kuyama

 

 春の牧場を4頭の馬がトットコ・トッコトと駆けては廻るみたいで、愉しく弾けた。

 後半ステージでキーボードと管楽器が加わり、駆けっこ馬は4頭から7頭になっていよいよ地響きたてた。ええぞエエゾ~。

 

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photo by Nobuya Kuyama 

 

 右端っこの管楽器嬢はリードボーカルにあわせ、唄ってらっしゃった。

 ぁ、そこにマイク欲しかったぁ~。

 眼帯はずして眺める光景は、ポポ~ンと手を打って喜ぶようなアンバイ。

 愉しいライブだったゆえ、余計よく見えた。

 

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photo by Nobuya Kuyama

 

 けどま~、ライブ堪能のあとは、K夫妻の車に乗っけてもらい直ぐに帰宅。

 安静だ。アンセイの大獄だ。

 

 中国でほぼ最初に新型ウィルスの警鐘をならし、そのコトで中国警察にとっちめられたりもした若い眼科医さんが、そのウィルスで死亡したとの報はいささかショック。

 眼科医という点が、ひっかかった。

 死亡に至るのは持病ありの高齢者という風に報じられてたから、

「えっ?」

 まだ元気な若い人でも……、訝しむことしきり。

 そういうハナシをば車中で。

 

 で今日は、術後5日め。

 まだあと2回通院しなきゃいけないのがメンド~だけど、それを過ぎれば保護メガネのない生活に復帰できそうなのは嬉しい。

 祝いにお肉を買い、もちろん祝うからって高いの買わない。霜降ってない赤身でいい。イッチャン安いのから数えて3番目に上等な150gを買い、焼き上げ、おいしくいただく。

 

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 お肉を食べるといつもきまって、登山家の三浦雄一郎の顔が浮く。

 なんかのコマーシャルで、「元気の秘訣は、週に何度か800グラムのステーキを食べる」みたいなコトをいってたのが耳にこびりつき、離れない。

 800グラムという大容量にトライしたことはないけど、一種の羨望があって、だから離れてくれない。

 800グラムの肉という存在と、それを平らげるパワーの、2艘の舟への憧れだ。

 でもトライしようとは思わない。

 全量食べきれなかったさいの、ガックシを味わいたくない。

 早いハナシ、食べきれる自信をもってない。

 だから羨望は羨望として、いつまでも三浦御大の顔としてアタマの中に造型され……、これは始末が悪い。

 

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 ちなみにこたびはステーキ食べつつ、あんパン食べた。

 イイじゃないか。三浦御大とてチャレンジしね~だろッ。

 ひそかに、「やったぁ!」と歓声あげる。もちろんこの場合、勝ち負けじゃ~ない。優位に立とうという気分はすべからずイカン。品位がさがる。

 あくまでもメダマ・リニューアル記念の、あんパンだ。品位が高い。糖度も高い。

 

 とはいえリニューアルは2度目。すでに片目のレンズ交換を3年前にやってるから、眼帯外した直後のえがたくデッカイ感動は、なかったな。奇妙に淡々と、

「ぁ、かなり復帰しましたなぁ」

 くらいの情感がわいただけで、ちょっと醍醐味薄かった。

 それに、従来のメガネがあわなくなってる。逆に度がさがる。

 メダマがほぼ安定するのは1ヶ月以上かかるらしい。事実、通院のたび視力検査で度数が変わってる。

 

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 なワケでメガネ交換まではまだ遠い。またボストン・タイプにするかな、それとも黒縁ぶ厚いのにするかな……。やんわり考えつつ、この前103歳でなくなったカーク・ダグラスをしのぶ。

海底二万里』も捨て難いが、まもなく公開の『1917 命をかけた伝令』(この邦題の陳腐さにウゲ~)を思うと、やはり『突撃』でしょうなぁ、キューブリック監督とダグラスが組んだ凄い映画……。

 

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