amazonがMGMを買収したというニュースを聞いて、
「いいのかなぁ?」
やや複雑な気分がなくはないのだった。
あれこれの買い物で恩恵はかなり大きいけれど、万人に向けての映画というものを、amazonの客のためだけの“モノ”にされても困ると危惧したワケで。
買い物客の会員化に向けての取り込みの方便として映画を使わないよう願いたいもんだけど……、amazonのamazonによるamazonのためのmovieじゃ~、よろしくない。
この先の動向に期待と不安が交錯する。
さてと、5月に観た映画たち。
『アノン』ANON 2018 米国・ドイツ・英国の合作 amazon Prime
AmazonのPrimeで観る。
この監督はどの作品でもは舞台となる場所が少なく、シーンが限定された低予算っぽい空気感を纏いながら、モダンな描写がうまい。
反面、高名な役者さんを起用するんで、そこのバランスもちょい面白い。結局は低予算映画の作り手じゃ~ないわけだ。『ガタカ』もそうだった。
その舞台装置がこの作品ではいよいよ洗練味が増し、単純にいえばスタイリッシュに決めちゃってる。ごく一般的通念なら階段の踊り場でしかないような空間を会議室に見立てたりもして、視座と発想が新鮮。
ま~、オシャレなんだね、監督のアンドリュー・ニコルは。
人間の脳内記憶と視覚情報が徹底的デジタル活用で抽出され、権力者はそれを”共有”でき、当然に”管理”できる近未来でのハナシ。
犯罪における被害者と加害者の見た情景が記録されているので、加害者は嘘をつけないから犯罪抑止になるという次第ながら、そうは問屋が卸さない。
なかなか興味深かったけど、かなりな無理もある描写もあって、グッドとバッドが交錯する。
クライヴ・オーエンとアマンダ・サイフリッドのセックス・シーンでの、クライヴの腰の活用がなかなかヨイ。その生身の人間リアルと視覚情報としてのデジタライズのバランスが、はたしてどうか……、というところを観るべきな映画だったな。
『天空の城ラピュタ』1986 Blu-ray
久々に観る。あえて云うことなしの名作。
宮崎作品に共通する雲の描写を堪能。宮崎駿と雲……、ここポイントね。
『風の谷のナウシカ』1984 DVD
これまた久々。
厚くて重厚で色々な色彩に変化する雲の描写が素晴らしい。
ユパが怒りに我を忘れたナウシカとトルメキア兵の間に入り、ナウシカの剣で出血しつつ、双方をいさめるシーンは何度観ても溜息がでる。
出血をナウシカに見せまいとサッとマントで隠すが、既に彼女はユパの流血を知っているワケで、彼女は彼女でそれで衝撃を受けている。クシャナも身を挺したユパの諫言に矛をおさめる。数秒のシーンながら3層多重な心理描写の配分が素晴らしい。
こたび自分の持っているDVDがコメンテーター音声バージョン入りであることに初めて気づく。
庵野秀明が解説してた。
その解説を聞くに、なるほど庵野が優れた人材であることは了解できる。アニメーション表現という技法についての彼の熱情と感覚には感服した。
けども、なにか……、宮崎とはまったく別な感性のヒトのような感触が濃い。正直、好感しないのだ……。
なので解説音声でこの映画を観るのはやめた。
と、それにしても、マスクなしでは生存出来ない腐海の大気とマスク姿のナウシカ達……。“今”を連想しないではないが、はるか以前、この映画を初めて観たさいには、ナウシカよりも腐海の描写というか、その浄化能力にかなり衝撃させられたのを思い出す。
ただ、そのサイクルが人のサイクルと違うわけで、この映画はそこは描かれない。宮崎駿はそこの消息はコミックス版で描く。人の一生と腐海の循環のあまりの速度の違いにどう対処するか……。結論はないながら、ナウシカのその後は興味深い。映画版を凌駕するコミックス版こそが名作と思われるのは、その深淵にまで宮崎が足を踏み入れて「人としてのナウシカを描こう」とした一点にあるんだろう。
『ハウルの動く城』 2004 DVD
こちらも久々。なんだか宮崎駿月間みたいだけど、キムタクを嫌いでないんでイイのだ、何度観ても。
『シルバラード』 Silverado 1985 DVD
80年代に撮られた数少ない西部劇。2年に1度くらい見返したくなる。
悪しきヤカラと良きヤカラの配分が昔の西部劇同様に明白で、その上で主役を4人と複数にし、人間関係の幅をワイドにしちゃってる。
脚本と監督がローレンス・カスダン(『スターウォーズ/帝国の逆襲』や『レイダース /失われた聖櫃』脚本。近年では『ハン・ソロ/スターウォーズ・ストーリー』の脚本と製作総指揮)。
かなりの傑作だと思う。
この当時はまだ無名だったケビン・コスナーのはしゃいだ演技を含め、スコット・グレン、ケヴィン・クライン、ダニー・グローヴァー、ジョン・クリーズ、リンダ・ハント、ブライアン・デネビー……、とボク好みな役者の揃い踏み。
で、2年に1度の観たいモードになって、久々に拝見。
コメディ味のコスナーにクライン。シリアス味のグレン。主役4人の1人で西部劇という範疇では初となる黒人男優のグローヴァーの重量さ……、いずれもイイぞ、ハマッてる。
なにより、ブライアン・デネビーの悪漢がヨロシイね。
この悪者あっての4人の活躍だぁ。知恵あり権力あり腕っぷしも良好で、この悪漢の笑顔が圧巻だ。こういう悪いヤツが出る映画はたいがい面白くなる。彼こそが円の中心。いわば黒い点、ブラックホールとして中央に彼が置かれ、4人の主人公はこの悪者の外周を廻る惑星みたいなもんだけど、それが次第にブラックホールの磁場に引かれて物語のクライマックスが生じる。
さぁ、どうなる?
当然、最後に悪者は滅びちゃう……。
その過程を大いに楽しめる仕掛け満載ゆえ、何度観ても、お・も・ち・ろ・い、んだなぁ。
『ポリー my love』 Along Came Polly 2004 amazon Prime
主役がベン・スティラーなんだからツマラナイわけがない。しかも故フィリップ・シーモア・ホフマンも出てる。
新婚早々に結婚が破綻したマジメ男と、かつての同級生だった奔放な女性とのラブ・コメディ。
こういうのも、時にいいね。ただま~、いささか軽るすぎで、も・の・た・り・な・い。
『千利休 本覺坊遺文』 1989 DVD
この作品も定期的に観たくなる1本。未だBlu-ray化されないのが残念。
かつて利休の側近だった本覺坊。そのストイックな暮らしを奥田瑛二が見事に演じきって、観るたび感嘆する。
雪に覆われて身を切る冷気の中、小さな庵の外へ素足に雪駄で出て水を汲むあたりの深閑と、彼の凜とした様子が好き。
その庵に久々訪ねてくる織田有楽斎。演じる萬屋錦之介がまた素晴らしくいい。彼が茶をたてるシーンでの所作はパーフェクト。カタチとしての茶の湯の映像として、たぶん最高にして最良の数分なのじゃないかしら。
意外や、利休を演じる三船敏郎は……、あんまり印象されない。どっしり構えすぎているよう見受けられ、利休を演じた役者としては、この熊井啓作品の三船ではなく、勅使河原宏監督『利休』での三國連太郎がはるかにいい。というか、ほぼ最高と思える。
ま~、しかし、三船以外がみんな良いので文句の声は小さい。
もちろん、その三船とて、この映画では霊的存在として本覺坊の前に登場するというカタチゆえ、あえて人間っぽくでなく、本覺坊の幻視の中での理想化された像として出ているという事での演技なのかもしれず、そうであるなら、どっしり構えすぎているという評はあたらなくなる。
その辺りのこちらの”見立て”が、観るたびに少し揺らぐのも、映画の愉しみだわさ。まっ、だから繰り返し観るワケだ。
『ヘイル、シーザー!』 HAIL,CAESAR! 2016 amazon Prime
実在した大プロデューサー、エディ・マニックスをモチーフにしたコメディ。
映写技師の女性が首に巻いたスカーフが映写機にからまって落命しそうになる所は、女流舞踏家のイサドラ・ダンカンの悲惨な死を彷彿させられ、ちょいとドキッとした。
双子の記者を演じるティルダ・スワンソンがいい味出してる。一方でスカーレット・ヨハンソンはどうかなぁ? モデルとなったエスター・ウィリアムズにはかなり遠いような……。
けどま~、映画への愛に満ちた映画として好感。再見の価値ありとみた。
『居眠り磐音』 2019 amazon Prime
松坂桃季やら奥田瑛二、柄本明、山本浩二などなど、数多のいい役者でいっぱいだけど、これ映画?
説明過多で予定調和のTVドラマにしか過ぎず、役者たちの熱演が気の毒。監督の本木克英は『超高速!参勤交代』で上手いと思ったけど、こりゃ駄作。途中で観るのヤメた。
『国士無双』1986(製作実年は1982) amazon Prime
1932年の無声映画でナンセンス時代劇の傑作と名高い『國士無双』のリメイク作品。中井貴一、原田美枝子、フランキー堺、原日出子、笠智衆、火野正平、岡本信人、江波杏子、中村嘉葎雄……。
奇妙な味わいが良い。その核となる中井貴一扮した”にせの伊勢伊勢守”が何者だか知れないところが特によく、登場時、どこから来た? と問われて空を指すあたり、なんだか宇宙人っぽくもあって妙な笑いもこみ上がる。中井は能面みたいに終始表情を変えず、けれどその行動は実にヒュ~マニスト、善意に充ちているという妙な演出をうまくこなしてる。歌舞伎やら人形浄瑠璃までが動員され、違和をおぼえつつもシュールでもあって、今月観た印象深い映画としては上位ランクな1本だった。
『パンク侍、斬られて候』 2018 DVD
監督・石井岳龍(聰亙)の時代劇での考証というか、舞台セット作りは実にうまい。リアルがひと味違う。製作予算規模ではたぶん本作よりも経費がかかっているだろうと思える『超高速!参勤交代』やらやらよりも、光景のリアルがはるかに優っている。巻頭の峠の茶店っぽいシーンの、その茶屋の佇まいなんぞは、絶品、申し分がない。
その上でのハチャでメチャ・ファンキーな、いやいやパンキーな展開。
コンラッドの原作をよくよく昇華あるいは消化してコッポラが『地獄の黙示録』としたように、石井は町田康原作を、キッチュで下品な狂乱と狂瀾の端境の中、日本というクニとヒトを見据えた”地獄の黙示録”を創り上げている……、ようにも思える。
話はいたってタンジュン。はなっから結末も読めたけど、そのタンジュンなコトどもをフクザツに見せているだけの、いわば「見かけのカラさわぎの世の中」をば、この映画では戯画的に描いて、そのテーストがよろしいね。
同監督の『五条霊戦記 GOJOE』でカッコ良く義経を演じた浅野忠信が一転、すっ飛んだメイクでフンドシ1本、素肌を晒し、弾けた演技で笑わせてくれた。
今月観た映画中、ダントツで1位かしらん、ゴムの金槌じゃなく金属金槌でカッツ~ンな強靱なインパクト。