バトル・オブ・ブリテン

お盆の帰省時期に九州から若い知友が戻って来て、久しぶり〜と我が宅にやってきたので一緒になって「トラ・トラ・トラ!」を観た。
あんがいとボクはこの映画を好む所があり、巻頭の、兵員がきちりと整列した戦艦長門のシーンは映画史に残る名場面でござると吹聴してきた次第なんだけど、おことわりしておくが戦争が好きなワケではない。
この巻頭に出て来るのは、人と軍船と戦闘機と青い空と海なのだが、それらが奇妙なまでの静けさの中に佇んでいる雰囲気がとても好きなのであった。
整然と艦上に並び、キヲツケの姿勢でもって多数の兵が待っているのは山本五十六だ。微動だにせず総員が山本の乗艦を待っている。
この静謐な雰囲気がしばらく続いた後に、複数のゼロ戦長門の上空を低くよぎっていく。
その機影が画面の右から左へと移動する絶妙なタイミングに、突然、獣の咆哮めく大きな音が三つ轟いて、トラ・トラ・トラ!の赤い文字によるタイトルが飛び出してくる。
海も空も静穏だけれども、不吉な予兆としての人の動向が見事に集約されていて、この巻頭部は何度観ても溜息が出る。
巻頭で濃く衝撃をおぼえたといえば、「2001年宇宙の旅」のそれがあり、「スターウオーズ」のあのスターデストロイヤーの強靱で壮大な飛行シーンなどが彷彿されるけれど、「トラトラトラ」もまさにそうだ…。一挙に物語に引き込まれる。
で。
話は「バトル・オブ・ブリテン」だ。
邦題は「空軍大戦略」というショボい名がついてしまったが、ナチスの英国への爆撃に抗するイギリスの飛行隊の話だ。
九州在住の若き友に、この映画をボクは高校の頃だかに観たんだけど、内容の記憶がないんだという話をしたら、お盆も過ぎた某日、九州から小包が届いて、わざわざ、この映画のDVDを送ってくれたから嬉しいじゃないか。
九州の友は、今を去る20年近く前に、彼がまだ中学生だった頃より、模型界のアレやらコレやらを指南してきたから、いわば、ワガハイは師でありヤツめは弟子といったアンバイの仲なのだが、いつのまにかコヤツめは師の教えに刃向き、師が手を出さなかったラジコンの、そのマニアになっているという次第なのだったが、師も全能ではなく、実は飛行機ものは弱いのだった・・。ゆえにラジコンも遠い存在なのであった。
灯台に登ると螺旋階段の途中で足が竦んで動けなくなり、観覧車に乗れば悲鳴をあげて床に這いつくばるといったていたらくな高所恐怖症ゆえ、おのず、飛行機はダメなのだ。
そんなワケが根底にあって、当然にそれは模型への嗜好にも反映して、飛行機は作れないのだった。
そこのトコロを弟子たるヤツめはしっかりと見ておったに違いなく、九州に渡ってヨメをとり子息をば作ったノチ、ふいに飛行機のラジコンをば作る人間になった。
師匠たるワガハイはそれを禁じていたワケでもないけれど、知らぬうちに弟子は一人で研鑚にはげんでエアプレーンのジェダイ・マスターになっていたのだった・・。
既存のラジコンを作るんじゃないよ。
設計して、手作りするのだ。
バトル・オブ・ブリテン」にはイギリスの名機スピット・ファイアが出てくる。
映画はこれが主役といって、イイ。
ヤツめは、いま、その大型のラジコン機をコツコツコツ・・ 作っているのである。
そこで帰岡時、「トラ・トラ・トラ!」の話で盛り上がってるさなかに「「バトル・オブ・ブリテン」も出てきて、ボクにはそれが記憶にないというコトになって、後日にDVDを送ってくれたというワケなのだ。
もはや師弟は逆転し、弟子が師匠に教えるというコトになっちまったのだ。手をひかれ弟子より未知を学ばされるのである。
師匠座して、黙して飛行機映画を見る。
巻頭には、あまり魅かれる要素はない。
すなわち、「トラ・トラ・トラ!」やら「スターウオーズ」に観られる、おっ! おっ! がない。
な〜〜んだ・・ と思ってたら、どっこい、続々、ホンモノのスピット・ファイアが出てくる。
CGではない、実写ゆえのディティール。物体としてのスピット・ファイアはこんなんだったんか・・ と感心した。
高校生の頃だかに映画館で観たのに記憶がなかったのは、この映画がさほどに単純な作りではなかったからだというコトも再見して判ってきた。
ドイツによる空からの攻撃と、それを阻止せんとする英軍の話ではあるのだけど、スピット・ファイアに搭乗する部隊は英軍だけではなくって、チェコパイロットやらポーランドの部隊やらもいて、その辺りがややこしく、かつ空中戦で誰が誰で、誰が何して、どれが墜落したのやら、よく見ていないと判らなくなる・・。ドイツに占領された国の人が義勇兵として英軍に参加しているワケだ。
数年の出来事を2時間あまりに凝縮してもいるワケだから、よけいに大変でもある。なもんで理解力に乏しかった高校生の頃のボクには、これは実に難解な複雑系な映画であって、それで、ぜんぜん記憶の中にとどまらなかったのだろうと、あらためて悟り知って、ちょっと安心もした。
で。
で。
こたびの再見では、いっぱい発見があって、なにやら嬉しくもなった。
まずもって、スピット・ファイアというのは細身でスマートな飛行機だったと思い込んでたのが、アンガイとズングリしたお腹をしているんだなァの再発見が大きかった。
窓の上にチョコンとバックミラーがあったりもして、「おんや〜?」と新鮮をおぼえる。
このスピット・ファイアが緑の牧草の上をヨタヨタ這うのがイイ。
乾いた地面じゃなく、牧草だか芝の上を這い廻るのがイイ。
CGじゃなくって、やはり実機だというのがダントツにいいワケで、カッコいいとかワリ〜とかを超えて、活き活きとして素晴らしい。
メーキングのDVDを見ると、博物館入りして、しかも屋外展示だったものを、20年近く経って整備して使ったというコトがわかって、あらためて驚いた。スピット・ファイア以外も多数の実機が出る。
よく飛んだな〜、と感心したら、メーキングにも「ハラハラした・・」なんてことがいっぱい撮影のエピソードとして出てきて、安心したりあらためて唸ったりした。
映画は「トラ・トラ・トラ!」と同じく、割りと史実通りに描かれてもいるようなのでこれもポイントが高い。
あらま〜、そうだったのかァ、とこたびは、かなりお勉強になった。「スターウォーズ」の『レッド3 ステンバイ』なんていう辺りの、機体名やら部隊単位の動きなどなどは、おや? この映画が元になってたんか・・ とも思った。
待機と出動。待機と出動。
この繰り返しのストレスが伝わってくるようなシーンもあって、あんがいと、この映画は素敵な作品だった。じめじめした日本映画のそれのようなウエットなところがないのもイイ。監督が007シリーズのガイ・ハミルトンゆえ、その辺りはこなれたもんだ。ボクの大好きな監督でもある。
なもんで、見終わったアトの感想は、「これはちかい内にもう一度、観てみよう」だった。あいかわずの高所恐怖ではあるけれど映画の中だからダイジョウブだい。
この映画が公開されてほぼ38年が経つ。
いまやっと、この映画のコトをちょっと理解して嬉しくなったんで・・ 今回はそれを記す。
弟子のありがたみもまたしかり。