秋の昼間の海底二万里 part.2

ノーチラス号の最良の形はディズニーのそれだと思うね。
ノーチラスの名であれこれと映画やコミックスやらに登場するものの、どれもヨロシクない。
過剰であったり、不足であったりする。
それはないでしょ〜〜なカタチのものも多々……。「海底二万里・ディープシー2000」という米国映画(元はテレビ映画)があるのだけど、これのノーチラス号なんぞはチ〜〜〜ッとも良かぁない。
その点、ディズニー版ノーチラス号は原作の雰囲気を見事に咀嚼してカタチにしてあって、文句のつけようがない。なんでこれほどにうまいデザインなのかしら? と訝しむくらいに秀逸だ。アミアン(パリから車で1時間くらい)にある「ジュール・ヴェルヌ資料センター」には、内部構造までがしっかり作られた、このディズニー版の精緻な模型がある。

では、原作に描かれたカタチを忠実に模型にするとどうなるか・・。
そんな模型があるのか?
といえば・・ これがあるのだ。
ヴェルヌの国フランスで少量ながら作られた。
「DIXIE'ME PLANE'TE」という模型誌がフランスにあって、誌面を飾るべく、ヴェルヌの100年祭だか150年祭だかのさい、作った。
なんせ本に記載がための模型ゆえ、フルスクラッチで一つだけ作られたのだけども、ちょっともったいないので少量の複製が作られた。
この「DIXIE'ME PLANE'TE」誌に日本の模型情報をボクは書いていた時期があって(ムロン、フランス語は出来ないので英文で送って翻訳文が載る)、そのご縁でもって、ある日、フランスからお荷物が届いたので何やろ? と思ったら、その原作版ノーチラス号だった。
嬉しい悲鳴というのはこういう時にあげなくちゃイカン。
キット、になっている。
組立模型だ。
ポリウレタン樹脂の本体と、簡易インシェクションモールド(すなわちプラスチック)の小パーツとで構成されている。全長は40センチを超えるからけっこう、でっかい。
もったいなくって…… というよりは『工作をばメチャンコ愉しみたいので』未だにこれをボクは作ってはいないけど、作れば、写真がごときになる。
いい雰囲気でしょ。
余談だけど、ディズニー版の模型としては、写真(左下の写真だよ)のモノが良い雰囲気を醸している。
窓の部分に模造宝石が入っていて、これがキララと光って実に頼もしくも美しい。
重量もあって、持つとホクホク嬉しくなる。

だいぶんと前に、これは岡田斗司夫氏から頂戴した。まだ彼がデブちゃん全盛期の頃だ(笑)。
おデブでお悩みの向きは… 氏の近作を読んであげてね。
さらに余談なから、後年、氏とは濃ゆ〜い関係にある「ふしぎな海のナディア」に出て来たN-ノーチラス号がツクダから模型化されたさい、ボク個人としては、このN-ノーチラス号にはあまり興味をおぼえなかったのだけど(すまん)、それを「DIXIE'ME PLANE'TE」の編集長に送ったら、ズイブン悦ばれた。日本のアニメがフランスで流行りはじめた頃だったせいもあったろうけど、ノーチラスのバリエーションに変わりはない。きっと、Jean-Marc編集氏も嬉しい悲鳴をば、ヒ〜〜コラあげたと思いたい。
話を戻す。
原作版のノーチラスを一つの模型としてしげしげと眺めるに、実に理にかなったカタチをしているな〜との感嘆と、ちょっとした物足りなさを同時におぼえる。
ディズニー版があまりに秀逸なので、比較として見劣りがしてしまうのだ。(ディズニーのノーチラス模型の最良は、たぶん、X-PLUSさんが販売したソフビ製品だと思うが、一つ難を申せば、艦に搭載の小ボートのモールド部分の造形が… ゆるい)
だけどもだ、だけども、やはり原作版なのだ。
1870年にヴェルヌが刊行した『海底二万里』のノーチラス号は、「DIXIE'ME PLANE'TE」の連中が作った通り、ほぼ、こうだったのだ……。
1870年の日本は明治維新だ。チョンマゲを維持する人達とマゲをおとした人達が二分してテンヤワンヤの頃だ。翌年にお馴染みの廃藩置県がある。
そんな頃にこれを考案したヴェルヌのイマジネーションは、やはり圧倒的に素晴らしい。
1776年に登場の1人乗り足こぎ方式なモノが最初の現実の潜水艦らしく、潜水艦という発想そのものはヴェルヌがスタートではないけれど、内部に豪奢なサロンがある潜水艦なんて〜のは実用ウンヌン以上に良性の趣きがあって、ボカぁ、大好きだ。

ずっと後年になってソ連の大型潜水艦の一部には、内部に森に見立てた部屋やプール(小規模な風呂屋さんくらいの大きさ)があるのを知り、またそれを映像としてディスカバリー・チャンネルだかで見て、戦略として海中に潜まにゃならん不幸があるのを得心し、森に見立てた部屋もそりゃ必要やな〜とおぼろに思いはしたけれど、ソ連のソレには夢想の対象となるべく術も魅惑もない。
ノーチラス号はイマジネーションの中に生息する船だ。
何だか”隠れ家”はこ〜ありたいな…… ってな感触でコーティングされた船なのだ。だから、飽きない。鮮度がいつもイキイキなのだよ〜ん。
て〜〜〜〜なワケで、前記の通り、これをば作ってみたいと常に思ってはいるのだけど、なかなか気運が結ばれない。
しなくちゃイカン諸々が多々あり過ぎて、着手出来ない……。
でも、模型工作ってのはね〜、ア〜しょコ〜しょ、と着手前にアレソレと妄想するのもまた愉しいのだよ、な。
その意味でボクは、お愉しみをずっと継続させているという幸福者でもあるのだった。