日本宇宙食

祖母宅の開けっ放しの玄関には天井部にツバメが巣をはっていて、シーズンともなれば雌だか雄だかのそれが出たり入ったりと慌ただしい日々を送ってた。
むかしむか〜しの話だよ。
それを眺めつつ三和土(たたき)の界隈に腰を降ろして、幼いボクはヨウカンだのカステラだのといった3時のおやつを頬張っていたワケだ。
今から40年くらい前にまで遡ると、子供のおやつというのは午後の3時でないともらえないものだった。
1時でもなく2時でもなく、3時でしかもらえないのだ。今のお子は朝から夕までお好みな時間におやつを頬張れるのだろけど、40年以上前は、とにかく、おやつは3時でしか与えてもらえなかったのだ。ま、それによって、「我慢する」というコトの意味を身体でしつけられたのだと思うが・・。
50を過ぎるとヨウカンもカステラも欲しくなくって、ここに著しい成長というものを見る次第なのだが、つい最近、ヤマザキのコンビニに、とっても小さいけど100円もするヨウカンが登場したので、
「おんや?」
と、訝しんだ。
みれば、日本宇宙食、と書いてある。
『実際の宇宙日本食とは保存方法などの点で異なります』とことわりが記されているけれど、『宇宙航空研究開発機構JAXA)が認証した製法により製造・・』との記述もあって、小倉YOHKANが認証ナンバー・JD003で、栗YOHKANの方が認証ナンバー・JD004、というコトらしい。
保存方法やらやらが異なるのだから、そのまんまでは宇宙の高みにゃこれは連れてってもらえないシロモノなんだろうけど、大きさの割りに100円と高額なところが、なんだか奇異にも思え、好感という次第はないけれど、な〜んだか、ぽくって興をもたされる。
美味っぽいのか、嘘っぽいのか、ヘンテコっぽいのか、ホンマもんぽいなのか・・ どう、ぽくいで、っぽいのかは、手にしたアトもよ〜わからんヨウカンなれど、なにか触発されるから手にしたんで、
「何が・・ っぽいんだろ?」
と、また訝しむ。
だいたいにおいて、コンビニで誰がこの100円もする小さなヨウカンを買うのであろうか?
子供は買わんだろ、子供は・・。
高校生でも買わんな。
22歳の女のコも買わんし、36歳の工員も買わん。
じゃ、誰が買うんだろ?
「あ、オレか・・」
ボクね。ボクなのね。
ボクみたいなアポロの時代を生きて、な〜〜んだか「宇宙食」っていう語感とその実体にそこはかとなく近親をおぼえる人が・・ これを、つい・・ 手にしちゃうんだね。
そっか〜。
何たらっぽいなぁと知覚しちゃったのは、それだな。
要は「宇宙食」って書かれたトコロに国民の何パーセントだか知らんけど反応するという図式がたぶんにあって、それをターゲットととらえれば、小さくて100円もするけど買うヤツは買う・・ なのだ。
確かになぁ、「宇宙食」というオコトバがなかったら、もうね、ゼッタイにね、これは手にもしませんわ。
50歳を越えたらもうヨウカン喰わんですよ。
いや、ムロン、嗜好として喰われる御方も多々ありましょうが・・ あたしゃ喰わんの〜〜な〜〜み〜〜だ〜〜。
なワケで、そりゃスワンの涙だと気づいたあなたはもういい年齢ですなと、ボクはにっこり微笑んでますが、とにかくだ・・ その喰わん人が手にして、宇宙から見る地球の写真と日本宇宙食のその5文字だけで反応しちまって、まんまと乗せられ、知らず、200円(小倉と栗だ)支払ったワケだ。
ヨウカンゆえによう考えやぁ・・ ってワケ。
だから、まだ食べてない。
実は、一部の日本酒にゃヨウカンの味覚はうまく合うのだ。
酒の肴になりうるのだ。
ツバメの早い動きを見上げながらパクパクとヨウカンを頬張ってた美少年の頃にゃ、酒なんて興味の対象外の外の外にあるものに過ぎなかったけど、経年と積年の相乗効果の狭間でそれは錬磨され、今やはるかにヨウカンをしのいで、日々それなくしてはヤッてられませんワ〜な大きくてご立派な存在となって・・ すでに久しい。
だから、甘すぎず辛すぎず、一滴が輝くような、喉を越す瞬間に、
「お、この酒はイケてる!」
と思われる日本酒を口にする日まで、この2つのお品はとっておきましょう。
そう思いまして、ここに長々と、ヤマザキの『日本宇宙食-YOHKAN』をば御紹介させていただきました。
(o^_^o)