開発~iPadと月の水~

正直なところ、ボクは「宇宙開発」という言葉が好きではない。
開拓は、ま〜、許容できるんだけども、開発となると… 土建屋さんではないのであって、
「それはいかがなもんでしょな〜」
な、感想を常に浮べていたんだ。
でも、月に水があるというニュースには、密かにニヤリと喜色ばみ、
「有効利用出来るじゃんか〜!」
などと思っていたのだった。
昨日、大阪の某所で明石天文科学館の方々とお昼を御一緒したさい、ふと話題が月になって、その水が出た。
学芸員のリーダーたるAさんが、お味噌汁を美味しそうに啜りつつ、
「あれを使うんですかね?」
と、申されたので、
「えっ?」
と、首を傾げると、氏いわく、
「あれは月のものだから、それを人類が勝手に使うというのはど〜かな〜。大事にしないとダメなんじゃないかしら」
との発言をされたので、当方は後頭部をしたたかに打たれたような戦慄と鮮烈をおぼえたのだった。
まさに、その通りだと愕然としたのだった。
月の水を使うプランこそが「開発」そのものじゃないか。「開発」の一語を嫌いつつ、知らぬうちにそれを受け入れてニヤリ北叟笑んでいた我が輩の不明に恥じ入るばかりなのだった。
ちょっとは使ってヨシとも思うけど、月の貴重な水なのだ。月のものは月に、なのであって「資源」とみなしてダンを下すのは、やはり、いかんな、
「うん! お説ごもっとも、まさにその通りでやんす」
世界遺産みたいなもんですな! 月の水も」
と、いささか興奮してゴハンを食べたのだった。
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そんなことがあった夜、岡山に帰還し、ネットのニュースでアップル社のiPadを見たのだった。
でっかいiPhone、という印象が最初にあり、すでにiPhoneを使っているがゆえ、あんまり大きくは感銘を受けなかったけど、このiPadを使うことを前提にした書籍の可能性を思うと、ちょっとした戦慄をおぼえるのだった。
本というカタチ、新聞というカタチ、を変えることが出来る大きな起爆剤だぞ、これは… と思い直したのだった。
ネット上ではニュースの中に動画も含まれているけれど、もっとコッた、もっと深化したカタチがこのiPadでは実現出来そうである。
いま多くのデジタルな書籍はFont(文字のカタチね)がとにかくつまらなくて、こんな文字じゃ読む気にもならないけど、"代用と利便"でもって、ときに読んだりもしてるけど、どこぞの、例えばマガジンハウスでも講談社でもよいから、iPadに特化させたデジタルな書籍をちゃんと作ってくれたら、ボクはこのiPadを是非にでも買うように思う。
いま、手元にちくま文庫の「詳注版・月世界旅行」があるんだけども、これをiPadで読めるカタチにと治すとすると、いったい、どんなカタチで画面に現れるかしら… と考えるとワクワクさせられるのだ。
ご承知のように、この本にはヴェルヌの本文と、その詳細な注釈と、図版がある。
これをデジタルで再構築し、ただ捲(めく)って読むというシロモノではない別次元の『読み方』が出来るのではないか… と考えるとドキドキする。
オリジナル(初版の)木版画を原寸のままに画面に出すことも可能でしょ。
文庫というサイズに多数の図版があって、ちくま文庫を愛でてはいるけれど、そのサイズゆえに本当の木版画の精度を伝えてはくれないんだ。でも、iPadでなら、iPad用に編集すれば、オリジナルはオリジナルのサイズのまま、親指と人さし指でもってクイッとやれば、オリジナルな大きさでもって線がつぶれていないカタチを画面に出せるワケだ。
だから… これは印刷物が飛躍する最初の大きな一歩、みたいな感想が湧いてくるんだ。
アップル社はあくまでも入れ物と、コンテンツを販売する仕掛けを作ってくれただけだから、そこから先は出版社の出方次第だ…。
小資本なれども、デザインも優れた『本』を出す"出版社"が出てくる可能性もある。
いや、きっと、出てくるに違いない。
印刷物の"代用"としてのデジタル書籍じゃダメだ。本の"新規なカタチ"として見せてくれなきゃダメなんだ。
こういう「開発」をボクは強く歓迎する。