はやぶさと水車


毎年、この6月の梅雨の頃になると、ボクの住まっている近隣の用水路の水かさが増してくる。
田に水を入れるために水路の水が調整されて、それで量が増えているワケだけど、陽光に水面がきらめいているのを見ると、なかなか気持ちがいい。
近隣を自転車で散歩するようになって、早や、7年か8年になる。
スポーツとしてではなく、健康のそれとしてでもなく、ポタリングっぽい自転車での散歩なワケだけど、だいたい1時間から2時間はそうやって自転車に乗っていると、四季を直かに肌で感じられるから、これまた気持ちがよいのだった。
自営業だから、ま〜、時間は割り合いと自由だから、乗りたいな〜ジテンシャと思ったら、仕事を中断して外に出るワケだ。
行って帰るまで、およそ10キロくらいを駈けるのだけど、幾つかコースがある。
そのコースの一つに、写真の水路があって、小さな水車がある。
まだ田への小さな水門は閉じられてはいるけれど、水かさが増したから、水車にも水がめぐっていて、水車はなんだか活き活きとして水をはね、音をたてている。
7年前に、かのはやぶさイトカワに向かったワケだが、むろん、その頃にもこの水車はあって、やはり6月になると水のチカラでもって廻り出していたのだった。
かなりくたびれていて、水が少ないシーズンにこれを見ると、アチコチが朽ちていて、もう使われていない古い小さなかつて水車だったモノ… くらいにしか見えないのだけども… どっこい、チャ〜ンと活きている。
水を受けたことで、水車の肌は乾き切った荒れた不毛から、黒艶のある精悍さを取り戻して、
「なんぼでも水をくみますぜ!」
みたいな顔つきになっているのだから、頼もしいのだ。
そうやって、少なくとも7年以上… 時期がくると回転しているワケだ。
一方、その頃、はやぶさは猛烈な速度でもって宙を飛んでイトカワにまで出向き、えらい苦労を重ねつつも、このたび戻ってきた…。
水車とはやぶさを同じとはいわないけれど、少なくともボクにとってみれば、同列に並べてよい随分と立派なものなのだった。
黙々と仕事をした… というところも同列だろうし、日常の中ではほとんど目立たなかったというコトもちょっと同じだ。
なワケで、ボクはこの水車に宇宙から戻ったはやぶさをだぶらせて、「ごくろうさん」と密かに口にしているのだった。