月をめざした時代


この夏の幕張ワンフェスを皮切りに、ペーパーモデルに新企画を加えるコトにしたのです。
メイン・タイトルは「VIRTUAL THE 60'S」。
サブ・タイトルが「Age when it aimed at the moon」。
月へ行く事を目指してた1960年代を、日本の家屋でもって何とか再現してみようかとの試みで、まずはいきおい、4作品(家屋数としてはトータル19軒!)を登場させます。
アポロのロケットやら司令船の次にいきなり日本の建物ですか〜? 何で〜? とのクエスチョンを浮べる方もあろうかと思いますが、アポロ11号が月に降りた時にボクは高校生だったのだけども、その時、自分の周囲はどんなカタチだったんだろうか?… と、そのコトを検証したかったのですよ。
アポロもジェミニも、物体として確かにカッコいいし、その発射時のどでかい音も体感したいけども、空想の産物ではないワケで、それらがホンマに宇宙に向けて飛び立った瞬間… ボクはボクでチャ〜ンと呼吸してる同時代の生き物ですのでね… その瞬間の、自分を取り巻いていた空間を模型で切り取るコトで、湾曲ながら、また少しアポロ・サターンのフライトに近づけるのではないかと… ま〜、そのように思っての新展開なのです。
なるほど、ここ数年のアポロのペーパーモデルの製作やバンダイさんの超合金モデルの製作参加などなどでもって、アポロへの造詣はボクの中で一段と濃くなりましたけど、さっき書いた通り、同時代のものだから、アポロを"追う"ことは"自分を追っかける"ことでもあるんじゃないかと考えるのですね。
意外とね、忘れてるコトが多いっすよ。
例えば、アポロ11号の1969年に、何を唄ってたか? 何が流行ってたか?
そんな自分の足場、足元を見直す行為として、建物というカタチでもって当時を再構築しようと、ま〜、大胆にも思ってしまったワケです。
アポロと日本家屋をどう模型の中に結ぶか、あまりにかけ離れているカタチにどう接点をむすべばよいか… 正直、たやすくはないですけどもね。
ただ工作を進めると、具体的にア〜ダコ〜ダではないのだけども、今につながるもの、今とはもう隔絶しちゃったもの… とかとかの諸々がチョイと見えはするのですな。
40年も昔のモノを作っているつもりが、なんかとても新しいモノに触れてるような感触もあります。
なかなか面白いですぞ。
都合もよく、1/150スケールで作ってますから、これはNゲージの鉄道模型にピッタシ適合なのです。
この「VIRTUAL THE 60'S」がシリーズ化出来てもう少し家屋を並べられるようなら… 思いきって、列車が駈けるディオラマも悪くないな… とも感じます。当然にそれは架空の小さな町というコトになろうかと思いますが、時代は1960年代ですね。
天文台のある屋敷が一番高い所にあって、山の手の屋敷が幾つかあって、小さな町と駅がある。線路はまだ電化されていないローカルなのがいいね。だからディーゼルな車輌が似合います。

ちなみに、1969年に何が流行ってたか?
デビューまもない森進一さんの「港町ブルース」がミリオンセラーです。
この唄を当時の若いボクは、
「演歌なんか聴けるかよ〜!」
だったけど、あらためて聴きなおすと、なんだかすさまじい歌ですぞ。
『背伸びしてみる海峡も〜♪』ではじまる歌詞。
北海道は函館の港からはじまって全国の港町を渡り、四国にも出向き、最後には九州は鹿児島港まで女のヒトが男のヒトを追っかける内容… 函館の港町で遊ばれたか何かあった女性が、おそらくは船員らしき男性を追って全国の港町に出没するという… 早いハナシが女ストーカーだ。怖い歌ですぞ。
これを切々と森さんが女の立場でもって唄うのですが、なんで最果てが九州かと思えば… 実は69年にはまだ沖縄は日本に返還されていないワケで。
このことを知覚させられただけでも、この「VIRTUAL THE 60'S」をはじめたカイがあったというもんです。
アポロと森進一さんって… なんかシュールリアリズムの標語「こうもり傘とミシン」みたいな感もありますけど、それがま〜、現実というものなのでしょう。時代というのは、何だか不思議なレイヤー構造になっているんですね。