うそ大明神


岡山県のほぼど真ん中に旭川ダムがあって、その巨大な貯水池の北のほとりに、三休(みやすみ)公園というのがある。
貯水の池を見下ろす山1つが桜で埋まっていて、1000本を越える量という。
シーズン中には2万人くらいの人がここへ出向く。
山の頂上まで車で登れるから便利といえば便利だけども、あまりに急斜な山だから眺望として確かにダムの水面は眺められるが、肝心の桜はといえば、その斜面が弊害となって、1000本も植わっているようにはチッとも見えない。
むしろ、三休公園に登らず、ふもとから山を見上げる方がよっぽどな豪奢を味わえる。
でだ。その公園の中に、「うそ鳥大明神」というのがある。
大明神というくらいだから神サンだ。
けど、歴史はメチャに浅い。
10年ほど前に、ここの1000本の桜が開花の前にツボミを全部、鳥に食べられちゃうという事件があった。
食べたのは、この地域に住まう"ウソ"という鳥だ。
その年はよほどに食べ物がなかったに違いない。
ツボミを食べられちゃうと当然に花は咲かない…。
なので、三休公園を管理する人間の側としては、来客者がいないのでは収入にもならずで大変に困ったのだった…。
で、ウソを駆除するとか、桜にカバーをかけるとか諸々な案が出た末で、"自然界との共存を願う"というカタチに落ち着いて、公園の高台に"うそ鳥大明神"なるを作ったそうなのだ。
"うそ"に引っかけた、いわばシャレに基点を置いたような神サンをデッチ上げたんだ。
ウソという実在の鳥との共存を願いつつ、そのウソに嘘をかけあわせ、
「今年も来年も、全部、ツボミを食べてください」
と、願(がん)かけたワケだ。
ウソ鳥に嘘をついて、ホントは食べて欲しくね〜ぞ! といってるワケだ。
…なかなか複雑な、いわば言霊(ことだま)な祈願だから、キリスト一途な方やイスラム世界の宗教概念に身を置いた人にはまったくワカラン概念だと思う。だいたい… 神サンを新たに創出するというのがワカランと思う…。
でも、多くの日本人はこれがストレートにワカルンだから、なんだかすごい。
で、以後、この大明神発行の願掛けの絵馬というか絵鳥には、『逆説なコトバ』が記されるというアンバイに収まったんだ。
幾つか、写真でお見せしましょ。
ね。
こんなアンバイ。
桜を見ずとも、この絵鳥の願掛けの数々を眺める方がよほどに… おもしろい。
基本としては、書いたコトの逆をお願いしているワケ。
でもだよ… 逆説として書いてるように見せかけ、実際は、そこに記したコトを本気で願ってるんではね〜のかしら… と訝しみを交えて思ったりすると、日本人の不思議な感性をまざまざと見せられているようで、それもまた脇腹をくすぐられるような面白味と感じられるんだ。