43年を経過して

貯めたお金の使い方が、時に米国人はとてもカッコよくみえるコトがあって、
「ほ〜っ」
と、ボクは溜息をつく。
米国アマゾンがアポロ11号の第1段ロケットを回収するというニュースに接して、だよ。
ご承知の通り、アポロ計画で使ったサターン5型ロケット(以下サターンVと書く)は今もって人類が作り出した最大にして最強のものだ。
この第1段めにF-1という名のエンジンが5つある。
総称としてのアポロは、全長が110mを越えた高層ビルのようなもので、燃料を含む重量はおよそ3000トン。
これを地球から宇宙に放り上げるワケで、そのためには何がナンでもパワーが要る。
地球から宇宙に出ていくためには"脱出速度"という地球が持っている重力から逃げ出すための"早さ"がなくちゃ、出ていけないのだから… そのための"装置"として必然としてロケットはエネルギーが凝縮されて、でっかくなる。
サターンVは先端部のアポロ司令船と着陸船を宇宙に連れ出すために、3段のロケットブースターを持ってた。
順次に点火され、先端部をドンドン宇宙にいざなう。
ちなみにこの場合、大気圏から空気のない場所に至るまでの合間に秒速で7.5Kmを進まないと… アポロ司令船と着陸船は宇宙に出られない。
(むろん、これは第1〜2段階で、宇宙に出たあと、アポロは地球の周回軌道に乗るや第3段ロケットを使ってさらに加速。秒速11.2Kmという凄い速度でもって地球を離れて月へと向かう)
この第1段階で使われるロケットが、F-1エンジンを5つ搭載したS-ICという部分だ。
5つのF-1は、重さ3000トンのアポロを発射から僅か2分30秒くらいで高さにして60Km付近にまで運んじゃう。
それで1段目に内蔵した680トンの燃料を使いきる。
字で書くと、なんだかたいしたコトがないけども… 3分とかからず60Km向こうに移動するというのは… ものすごいコトだ。
680トンは、文字通りアッという間に費やされる。
1トンのトラック車680台が2分30秒で消え失せるみたいなもんだ。
でもって、燃料を使いきったS-ICはこれでお役目終了。
切り離される。
同時に第2段めのS-IIのエンジンが点火されて、アポロはより速度を上げて宇宙に向けて突き進む。
その頃には、第1段のS-ICは海に落ちている。
落ちて海に突っ込むのは誰も当然、見ていない。落下は危険だから想定された地域は船舶の航行は禁止だ。
(でも、ドイツだかスペインの商船に部品があたったという事件が発生した。幸いケガした人ナシ)
アマゾンはこの栄えあるアポロ11号で使った第1段の回収をしようというワケだ。
歴史の1ページを刻んだ大いなるパーツの1つ、だ。
回収して儲けようというワケではない。
NASAも協力して、回収出来たら博物館にはいる。

4000mを越えた深海に沈んだロケットを探すだけでも、実は相当に経費がかかっているハズ。
43年前のかの日に打ち上げられたアポロのロケットブースターは、だいたい、どの辺りに落下してるというコトは判ってはいたけど、場所は特定されていなかった。
半径にして500Kmとか800Kmといった程度のもんだ。
大きな池の中に沈んでる極小の針一本を探すよりシンドイ作業と、思う。
その場所を特定出来たということは、当然に、時間も要した筈だし、経費も甚大だったろうと、思う。
初速だの自転速度だの重さだのだのを、掛けたり割ったりの計算も膨大にやったハズだ。
第1段目のS-ICの模型映像をご覧あれ。


このyoutubeでは、アポロ12号のものだけども、ほぼ11号と同じ概要のS-ICだ。
模型情報はこちら

………………
同様な事例があって、それはマーキュリー計画の第2回目、ガス・グリソムのマーキュリー・カプセルの回収がある。
(こっちにも書いてるんで、興ある方はどうぞ
これはディスカバリーチャンネルが出資しての、いわば難事業で、これまた深いぞ… 深海4500mという場所からの回収作業だった。
映画「ライトスタッフ」に描かれている通り、グリソムの乗ったカプセル(リバティベルセブン)は1961年の7月、帰還して大西洋に着水。
が、すぐにハッチが吹っ飛んでしまう。
当然に海水がドド〜ッと入る。
グリソムは救出されたけどリバティベルセブンは沈んでしまった。
何故にハッチが吹き飛んだかが謎だった。
マーキュリーはジェミニやアポロのそれのように飛行士が開けれるようには作られておらず、発射前にはボルトで締められ、着水後、回収されて外からボルトが外される。
ただ、何ぞのための緊急用として実はハッチには火薬が仕込まれていて、これは飛行士の操作によって点火が出来る。
点火すると、ハッチは外に向けてブッ飛ぶ。
それがリバティベルセブンで起きた…。
着水時にグリソムが慌ててスイッチを入れたという見解と、事故としてそれが起きたという見解が二分した…
グリソムはだから帰還直後には針のムシロに座らされたような苦境にあった。でも、数年後には、アポロ1号のクルーに選ばれた。
NASAにおいては信頼が非常に厚い人物だった。
彼を知る人は、「着水で慌てるような人物ではダンコない」と異口同音だった。
(すごく悲しいけれど、そのアポロ1号の発射リハーサル時にグリソムは命を落とすコトになる)
謎は謎のままに横たわっていたけど、時間が経ち、GPSという重宝な道具を使えるようになった。これを駆使して、沈下して38年後に、ディスカバリーチャンネルが出資して、回収した。
日本ではほとんどニュースにもならなかったけど、回収の報で米国ではちょっとしたお祭り。
フッ飛んだハッチは回収出来ずで、事故の真相は今も不明(何度かの実証実験で勝手に点火するコトも判った)だけれども、建国にまつわる大事な名でもあるリバティ・ベルは帰ってきた。
回収され、米国内を巡回展示された後、今は、カンサス州立の宇宙博物館に永久展示されてる。
余談だけども… 巡回展示中、カプセルには背後に強靱な送風機がつけられていて、38年の海中での塩分を除去するための作業をしつつの一般披露だった。ちょっと、日本では考えられないシワザだ。
…………
ともあれだ。
こういう"文化的事業"を率先してヤッちゃう米国の企業のカタチなりその支援のつながりを、ボクは密かに羨ましく思ってるワケだ。
当然にそれが自社の広報にもつながるのだけども、それを上廻って、何か良性な『気分』が垣間見えるから、ボクは羨ましく思うのだ。
いまだ天皇陵の発掘すら出来ない日本というカタチの歪つを思うと、土壌の厚さに溜息が出るワケ。
リバティベルセブンの模型映像も、どうぞ。

模型詳細はここ