ユスラウメのジャム

今朝の4時半頃、コンビニにシガレットを買いに出向くさいに、用水路の壁面にアメリカン・ザリガニが一匹へばりついてるのを見た。
ボクは夜の暗がりを好む方だから、夏場近くのこのシーズンの、朝の4時にはもう明るくなっているという視界具合をあんまり好きではないんだけども、ザリガニの目撃は嬉しかった。
久しく紅いザリガニを見ていなかったので、
「おや? ご健在で何より…」
足を停め、破顔させられた。
さてと本題。

1週間前、小庭に大きくおごったユスラウメの実をセッセッ・セッセッともぎ取ったら、なんと3キロを越える収穫であった。
なので、せっかくの収穫でもあるしと… 近場に越して来た若い友人宅の披露パーティに、その内の500グラムばかしを持ち込んでみたら、意外なほどに好評だった。
Aさん、Bさん、Cさん、ことごとくが、
「これは良い」
と、賞賛してくれて、わけても、愛媛出身の某女医なんぞは、
「おいしい! うまい!」
何粒も何粒も何粒も口にし、ボクが実と一緒に持ち込んでた枝葉を欲しがった。
「うちに持って帰って挿し木にしたい」
とのコトなのだった。

人工の甘味に馴れ親しんだボクの舌は、このユスラウメの甘さは物足りないモノと思っていたのだけども… そうではないのだと気づかされた。
「本来、メチャに甘いシロモノではないんですよ、自然のものは…」
の一語を耳にして、何やら痛烈で鮮烈な、忘れきっていた感覚を揺さぶられたのだった。
ほんのちょっと前に、レイ・ブラッドベリの訃報に接してボクは… よろしくないコトではあるけれど、
「えっ! 彼っ、まだ生きてたんだ!!」
そういう感想を最初に浮かせた。
不謹慎ながら、そういう感想だったんだ…。
で、直後に、彼の傑作「タンポポのお酒」なんぞを思い出したりもしたのだけども、ユスラウメが大量に収穫出来たコトだし、果実酒にしてみようかしらとも考えた。
でも時期同じくして、知人から、これまた大量の梅が届いてしまったから、お酒はその青い梅で造るコトにし… ユスラウメはジャムにしようと、決めた。
決めたら、実行に移す…。
台所に、立つ。
ジャムを造ろうとしつつ、念頭にはブラッドベリの小説が浮いていた…。中学生の時にはじめて接した彼の「火星年代記」は、その後、何度も読み直したもんだ。
で。
ともあれ、作業の開始。

およそ1キロをグツグツ煮込み、シュガーを混ぜ、さらにフツフツ煮る。
頃合い見計らって裏ごしして種を取ってみたら、あらあらあら…。 
量はグ〜〜ッと少なくなってしまった。
アタマで最初に描いてた分量は半分以下になってしまったのだった。
いささかガックリな気分もあったけど… しかたない。
小瓶を幾つか見繕い、煮沸させ、そこに出来たてを小分けした。

ついでゆえ、ラベルも造っちゃった。
ユスラウメは山桜桃と漢字では書かれ、英語ではDowny Cherryと綴るらしい。
ダウニ〜と読むのか、ドウニ〜と読むのか、よく判らないけれども、英語表記のラベルを、シルバーの反射率の高いペーパーに刷って造って、ペタリ貼った。

ま〜、これは自己満足の極地なのではあるけれど、小瓶を並べて眺めると、やはり何だか頬っぺの筋肉がゆるんで、
「うふふ」
と、1人こっそり微笑んだり出来るのだった。
タンポポのお酒」ではなくって、「ユスラウメのジャム」が出来ちゃったのだけども… これをもって、我が青春時代の良き方向性を提示してくれたブラッドベリに捧げるコトとする。
良い作品をいっぱい。ありがとうございました。