火星のノーチラス


四畳半に満たない菜園の諸々がおごって葉を茂らせると、お天気が気になってしかたない。

ここ一週間ほどはず〜っと曇り空ゆえ、余計に気になる。

が、それでも、トマトにナスにキュウリが実り、わけてもトマトは初めての経験でもあったから、最初の収穫時はいささか嬉しかった。

いまだ、実は栽培法がよく判っていない。

葉が茂り出す頃にどこぞとどこぞの枝は切る、という法則めいたものがあるようで、それがうまく出来ないと実らない… そうな。

幸いかな、実ったのだけど、偶然にうまくいったとしか思えない。

もぎたてを食べてみると、酸味が弱い。

クセがなく、ど〜ってコトもない味だった。

日照不足か、先の枝の伐採か… その辺りの消息もよく判らない。

けど、それでも、育って茂ったトマトの枝やら葉やらに触れると、いかにもトマトでございな匂いが手のひらにつく。

蒼臭い、ともいえる匂いなんだけども、その蒼臭い感じがとてもイイ。


数日前にみた夢がなかなか面白かった。

舞台が火星なのだ。

で、なんとノーチラス号に乗ってるのだから、面白くないハズがない。

といっても、このノーチラス号… どう見ても、列車の食堂車なのだ。

じっさい、ゴトンゴトンという列車特有の走行音もしているのだ。

だけどもボクは仲間にその事を質問するのはイケナイな〜と思い、ダンマリを決めて乗っかってる。

地上すれすれをノーチラス号で飛行しているのだ… と思い決める。

窓の外の紅っぽい大地の向こうの空は、淡い青色だったから、火星時刻の朝方と判る。

夜明けの時間だ。
まもなく夜が明けて、空も紅くなると思うと、ボクは火星にいる事をシミジミ味わって喜色を浮かべるのだけど、地球に連絡して欲しいと仲間に頼まれる。

外に出たいという人がいて、その許可を地球に尋ねてくれとの事なのだ。

極めて脆弱な宇宙服しかない事を夢の中のボクは知っていて、直感として、

「それは危ない。やめた方がいい」

とは云うのだけど、説得できない。

「気圧が地球に較べて1/100くらいしかない。地球では沸点は100度だけども、火星は気圧が低いから1度で沸騰してしまう。なので、ここ火星では外に出た途端に水が自然に煮える。人間の身体も水みたいなもんだから、当然に、出た途端に沸いちゃう、あの宇宙服では危ない。あれは月旅行用のもので火星には適さない」

と、実に凛々しく、正しい科学知識を夢の中で述べるのだけど、説得できない。

それで地球に直ぐに連絡、という事になったんだけど、なぜか、電話番号が出てこない。

iPhoneの連絡先には膨大なアドレスが入っていて、いくらスクロールさせても該当の電話が出てこない。

Siriを呼び出し、音声で、番号を尋ねると、なぜかメールアドレスを教えてくれる…。

さて、こまったよわった。

「早くしてくれ〜」

と、仲間は我がテーブルの前で吠える。

それでいっそう焦る。
「もうすぐトンネルに入るから、そ〜したら余計に連絡がつかないぞ」

仲間も焦る。

「え? あれ? トンネル?」

それでとうとう、
「これ、ノーチラス号のフリをしてるけどホントは列車でしょ?」

仲間に訊いた。

すると、仲間は、

「それは云っちゃ〜いけないんだ」

真顔で答えた。

…そんな夢だ。

最近取り組んでる仕事が濃厚に反映しているのだけども、可笑しくもあり、やや不穏でもありで、久々に目覚めてもクッキリ覚えてた。
ボクは、ノーチラスと書くよりはノウチラスと記すのを好むけども… ま、夢の話ゆえ、ここはノーチラスで。