市民会館〜市民快感

コンクリートというものは古代ローマの時代に既にあって、大きな建造物、神殿やら競技場で存分に使われてる。
火山灰と石灰を混ぜて造る。ナポリ西部方面には火山灰が堆積していて、これが原料のようだ。
以上は2000年前の話。
その2000年前の建物たちは今もチャ〜ンとあって多くの見物客が訪れる。
一方で、現在のコンクリートは、概ねで寿命が100年くらいらしい…。
たったの100年。
古代ローマのそれとは原材料も製法もが違って、廉価という大きなメリットがあるけど、放っておくとカルシウム成分が溶け出してしまう… らしい。
なので、たったの100年。
だから、これをさらに使い続けるには、たえず補修が必然だ。
正直に申せば、こと現代のコンクリートに関しては、古代ローマよりはるかに劣るというわけだ。
こんな100年モノで、今の社会インフラは出来上がってる。
昨日の、トンネルの天井崩落はその典型だ…。
鹿島建設あたりでは5000〜1万年クラスの耐久力を持つコンクリートが造られつつあるそうだけども、これはつい最近なので、まだまだローマの永続性に及ばない。
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岡山には岡山市民会館というホールがある。
これが来年で、建造されて50周年になる。
構造は当然、もはや古い。
コンサート用の大型のミキサー卓を運び入れるだけでも大変な労力がいる。以前、森山良子さんを招いてのコンサートをOJF(ジャズフェスだ)で主催したさいは、7〜8名のスタッフでヤッコラサ、息をあわせて卓を持ち上げて汗かいて運び入れたもんだ…。
席数も多くはない。
されど、知らず、50年の経過による、郷愁的味わいがこの建物にはあって、たとえば1階と2階部分を結ぶ待合空間などには、よそには見られない風格が刻まれて、よそでは味わえない、"岡山市民会館だけの味"を見いだせる。
色ガラスをふんだんに使って不思議な色彩を見せる、その待合空間の壁面には歴代の市長の肖像画がズラ〜ッと並んでいて、これがまた古風な味わいをみせてくれる。
威圧といった感じは皆無で、奇妙な懐かしさと、一種の良性な重みめいた、"岡山の歴史っぽい"感じの風が、そこに吹く。
色ガラスのデザインが50年前のテーストだから、それが余計に、良い風味を醸し出す。
なので、使いがっては悪いけども、岡山にしかない岡山のみの良い感じのホールであり続けて欲しいな〜… そう願ってたんだけども、先週だかに岡山市より発表があって、
「これを取り潰し、現在、空き家になってる後楽館高校の場所に新たに新・市民会館を建てる」
とのコトなのだった。
50年の経年でコンクリートも傷み、これを修理する費用と新規に新たな場所に建て変える費用とを較べると、新たに造った方がお得という皮算用らしい。
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後楽館高校の場所には、かつての昔、大きなレジャーランドがあって、それを、この12/9の講演で話すワケだけども、こたびの新規建造の話は… 何やらウラ寂しい、ガッカリな気分をボクに植えてくれた。
感想を短く言えば、
オペラ座は、いつまで経っても出来はしないな」
なのだった。
パリのオペラ座は正しくはガルニエ宮だけども、1862年に建造が開始されて以来、もう150年も、連綿と使われ続けて今に至ってるワケで、「50年で古くなったんで捨てちゃう」じゃない。
当然、使いがっても良くはないだろう。維持のための補修にもお金がかかっているはずだ…。
けども、パリ市はこれを維持する。
文化は継続性の中に育まれる。
そう思うと、たかが50年で壊しちゃう、古いからと思ってしまう、この行政の方向性の貧しさに、腹立たしさをおぼえる。
そもそも、つい数年前だかに予算を費やし、内部のコンクリートを造り変え、トイレも新規にし、客席もすべて新たに作り直してるんだから… ね。
50年という歳月は、安物のコンクリート製の市民会館にすら程良く浸透して、それをそれなりの味わいにする"熟成時間"と、ボクは思う。
おでんの具に、やっと、お味がしみてきた… って頃合いだったのだ。
味覚としての"快感"が昂まりつつ、あったんだ。
その熟成をパ〜にする。
いいんですかな〜、それで。
イイとは、思えんな〜。

※ 市民会館にて森山良子さんと