小石を拾って

作業中の大型模型。
その一部のやや広い面積は岩で覆われる。そこをペーパーで再現とも考えたし、石膏でとも考えたけど、本物を使うのがより効果的と決め、それで、小石を拾いに近所の山裾をほっつき歩く。
自転車で数分、龍ノ口山の裾元の岩場というか宇野バス駐留所界隈でしゃがみ込み、これと思えるものを見繕う。
けど、結果としてこれらは使えなかった。
表層を覆うだけとはいえ重すぎる…。
なので方針を少し変え、より小さな砕石を使うこととした。より小さなものだからどこかに出かける必要もない。我が作業場の外に幾らでも転がってる。
造成地ゆえ、いわゆる砂利の類いに加え、玄武岩石灰石御影石流紋岩安山岩花崗岩、マーブルっぽいもの、ボクには分別のつかない種々が玉石混淆だ。

石、というのはあらためて眺めるに、ずいぶんと色々な顔があってオモシロイ。
それぞれに個性があって、意識して眺めると、見飽きないようなトコロがある。
その昔の中国では奇岩怪石を愛でる趣味趣向があって、このテーストはつげ義春の『無能の人』や諸星大二郎の『諸怪志異』にも見られるけど、石を核としたドラマを1本あげるなら、トム・ハンクスがプロデュースのTVシリーズ『From The Earth To The Moon』の第10話「ガリレオは正しかった」が秀逸だと、思う。
アポロ15号の搭乗員たちと地質学者の物語なのだけど、地質学者リー・シルバー教授を演じるデビッド・クレノン(David Clennon)が圧倒的に良くって、惚れ惚れさせられるんだ。

この人は82年の『遊星からの物体X』じゃマリファナを吸う学者として登場してるけど、存在が妙に印象に残る役者さんだ。
史実としてのリー・シルバー教授(カリフォルニア工科大学)は、"学習は教室で得るもんじゃない"と、アポロ・クルーを連れてカリフォルニアのオロコピア山脈に幾度かキャンプし、宇宙パイロット達を地質学者に変身させるという実に大きな仕事をした人で、それをクレノンが活き活きと演じてらっしゃる。
石っころなれども、1つ1つに悠久めく歴史があることを教授はアポロ・クルーに教え、ただの知識じゃなく、手にとって思考し、想像をめぐらすこと可能なアクティブなものとしての地質学を植えていく… 月に行く目的の大きな柱の1つを磨きあげていく。その結果として、アポロ15号のあの「ジェネシス・ロック」の発見にとつなげていくワケだ。

庭先に転がる砕石を拾い集めつつ、なので、ボクもちょっとだけ、アポロな気分を味わった…。
左写真:上は映画のスチール。下はホンモノのシルバー教授と飛行士たち。
でもって、石たちを洗い、乾かし、布っきれにのせて広げつつ、ちょっとだけ… 『無能の人』の、あの巻頭の侘びしい光景も思い出してニタリとした。
「おれはとうとう石屋になってしまった」というスットボケタ、あのくだりだ。


石で思い出したのだけど、ボクはダムの歴史は浅い… と思ってたんだ。でも、それは誤り。実はずいぶんに古いもんだった。
な〜〜んと、エジプト文明の、ピラミッド構築よりはるか以前の最初期に既にその痕跡があるらしい。それも大規模。
カイロに近いヘルワンという場所にある谷。
高さ13m。長さにして100mくらいのダム。
使われた石は11万4千トン。
数百人の集団で膨大な石を切り出し、えんえん10年をかけて積み上げ、水を留め置こうとしたようだ…。
したようだ、というのは、この今に残る遺跡は、完成前に試しに水を入れてみるや、水の圧力に負けて決壊し、アッという間に全体倒壊して易々と流されてしまったからだ。
なので10年の苦労が瞬時にパ〜になっちゃった。
はるか5000年も前の話じゃあるけれど、この瞬間を目撃したダム造りに従事の人たちの、落成間近の昂揚が、
「今日までの苦労は何だったの」
な、落胆、驚愕、失望… ガッチョ〜〜ンな感じに転じるのが、目に見えるようじゃないか。
怒って、泣いて、叫んで、その後ではもう… 笑うしかないみたいな感じになったんじゃなかろうか。
水を貯めるという"科学"は、ダムを造るという"技術"に応用されたまでは良かったけど、水圧という強靱なチカラは人間の技術をはるかに上廻ってたワケだ。
なんか… これ、示唆されるわな〜。

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