ユスラウメのジャム


東京から戻って翌々日、懇意なBARのママちゃま乗っけて祗園(岡山市内の地域名)界隈をドライブしてみた。
ホタルを観たい、というワケだ。
川沿い、用水沿い、旭川荘の裏手あたりと、あちゃこちゃ巡ってみたけど、同様にホタルを求めて訪ね来た方複数と遭遇したきりで、ホタルの点滅はどこにもなかった。
どうやら遅すぎたようだ…。
ママちゃまは近々に入院だ。
その間の打ち合わせというワケでもないけども、諸々話すため、久しぶりにロイヤルホストに出向いてみると、メニューが変わり、味も美味くなっているのでチョット北叟笑んだ。
「ガード下を右折した時、そばの路地にホタルがいたよね」
「いたいた。おっちゃんが1人。暗がりの中でタバコ吸ってた」
このおっちゃんのタバコの火が唯一の… ホタルめく光点だった夜。


閑話休題
2週間ほど前か… 6月になってチョット経った某日、『サンダーバード博』のために東京方面に出張してしまう前に完了させようと… 大きくおごったユスラウメの木から紅い実を収穫したんだ。
およそ3時間弱ばかりかかったけど、今年は一気に全部の実を採った。
計ってみると、5キロある。

これをば全部、本年度はジャムにした。
昨年は収穫のおよそ1/3くらいをジャムにしたワケだけど、今年は徹底、全量だ。
5キロ採れたからといって、5キロのジャムは出来ない。
ユスラウメのルビーみたいな紅い身体の大半はタネだ。果肉部の大半は水分だ。

洗い、選別し、煮込み、アクをとり、金網にこすりつけるようにしてタネと実を別け… さらに煮込み、シュガーを入れてまだまだ煮込み、レモンを絞って、トロトロ煮込みつつ味見して、
「うん、もうイイかしら」
結論を早々にいえば、5キロの紅い実の内、タネは650グラムだった。
でもって最終的に、ユスラウメは1キロとチョットのジャムになった。
実に1/5。わずかゴブンノイチに"減っちゃった"。
絶対に焦げつかないお鍋を持っているワケではないし、5キロを一気に扱うお鍋も持っていないから、噴きこぼれない程度の分量を火にかける。
煮込みの間は眼が離せず、たえず攪拌、始終グルグル。嵩(かさ)が減った頃に実を継ぎ足しては煮続ける。
この最初の煮込み時にはアクをとらなきゃいけない。

手間がかかる。
せわしない。
時間がかかる。
森の奥の一軒家にて秘薬を作るがゆえに大釜に何やらアレコレ放り込み、煮たててエキスを抽出してる魔法使いのババだかジジは… だから実体は根気ある人と思わねばならない。
こちらは魔法は使えないしカギバナではないし黒い頭巾に黒マントでもないけど、根気よく忍耐深くナベの前に陣取って煮通すのは同じ。
…でもって、5キロが、ゴブンノイチ、1キロとチョットになっちゃうのだから、
「!」
なのだ。
アオハタとかソントンとかなスーパーで売ってるジャムの価格を思うと、
「?」
が浮いて、もしも、この1キロチョットを瓶に分けて売るなら、いったい、1瓶は幾らの値をつけたら、自分の"作業料"と釣り合うのかしら? 可笑しくって顔がほころぶ。
1瓶に100グラムなら、たった10瓶しかないワケだから、1瓶あたり、ずいぶんと高値をつけなきゃ見合わない。
だから、可笑しい。
そも、売り物じゃない。
育て(ホントは勝手にでかくなって実をつけてる)、収穫し、煮て煮て煮て… 煮沸した瓶に詰め合わせ、これまた手製なラベルを貼っての… 大いなる自己満足。セルフ・サティスファクション。
それで良いのだ。
極度に絶品的に美味しい、ブラボ〜! という次第でもないけども、甘味と酸味のバランスも、ま〜、よろしい。自分で作ったジャムに、プライスとか効率とかを付加させちゃいけない。
満足の"深度"は、合理とは別なもんだ。


煮立てている途中のユスラウメは淡いピンクな色になって、「おや? 色彩が失われたか…」と思えるけど、レモン汁を添加すると、また赤みが復帰してくる。
今度はどんどん赤くなる… どこで火を停めるか、逆に頃合いがむずかしい。
たぶん、さらに煮ちゃえば、赤はくすんだ黒になると思える。
だから、頃合いを見るには、やはり鍋の前に陣取ってなきゃいけない。
そんな、製作中のコトどもを思い返しつつ、パンに作ったジャムを塗るのは楽しいもんだ。


燭の火を燭にうつすや春の夕


もはや春とはいえないシーズンなので季違いじゃあるけれど、この句にあるような、ゆるやかな日々を自分にあたえる術(すべ)を忘れぬこと。
極意は…… ここかな。