赤いのでも買うか

サバのサンドイッチを全世界に発信できる機会を失ったトルコに同情しつつ、2024年に期待をつなごうよとエールを送りつつ、暑さもチビッと和らいだようでもあるし、この夏は儲かって金もあるし… 車でも買うかという気持ちになって、適当なのをみつくろう。
着座すると、今のってるMINIより40cmばかし地面に近い感覚。
左ハンドルはBMWの528i 以来だな。

80年代末の製造ながらコンディションよし。
なんといっても名車中の名車。
ためしに、高速を駆けてみると、左車線にゃいられない…。
遅いんだよな、前の車…。
アッ、ちゅ〜間もなく追いつく。
エッ、ちゅ〜間に後方でみえなくなる。
ほとんどアクセル踏んでないのに。
そうか、これが特性か。
他で聴けない甲高く乾いたエンジン音。
しかし燃料計は眼にもハッキリ降下してく。
しかも、クーラーないんだ。
そんなエコカー減税たっぷりお得… じゃない、ただ駆けるための短パンとランニングシャツのみの剥き出し。


戻ってショールーム内の綺麗なのに眼をとめる。
1950年代後半に産まれた華麗。
ほんと、惚れ惚れする。
艶(なま)めかしい。

これにゃ短パンでのれないと即座に感じる。
やはりスーツだろうな。
車が人を優雅な方向に押し上げる…。
また助手席にも、相応ふさわしいレディ〜でなきゃいかん。
20代のコじゃダメだね。
30も半ば過ぎてからでないと、のせてやんない…。
「ラーメン喰いに行こうよ」
みたいなコはダメだな。
喰いに、とは何たる品性。食べにだろ、その場合っ。
ダッシュボードからサバ缶取り出したら、ニコッと薄い笑みを浮かべて、
「あなたが望むなら」
黙して、前方を見る肩も顕わなブラックなドレス着たのが、いいな。
そういうのは… 50代くらいのレディ〜でないとちょっと醸せないな。


「ほら、あなたがこの前云ってた本。内田さんの百鬼園百物語… わたし、読んだよ」
なんて〜コト云ってくれりゃ嬉しいな。
「あの後半に、2編、あなたのおうちがある場所が出てくるね。明治の時代には蛍の名所ですって」
「らしいな。当時の夜は真っ暗。でも、今は蛍のホの字もない。プラッツとかパチンコ・バージンとかマルナカとか、ごちゃごちゃしてショ〜もないな」
「暗い夜…。ねっ、おぼえてる?」
「んっ?」
「天の川」
「ぁあ、おぼえてる。高校生の頃までは、今時分は… 空は星でいっぱいだった」
「そうね」
「そうだよ」
「もう遠いね」
「…遠く、なったな」
「ねっ…、今夜は連れてってくれる。どこか… 星の郷にっ」
てなハイブローな会話は出来んわな〜、20代じゃ。
と、彼女の方を向いたら、
「ギョ!」
活字中毒悦ちゃんやないけ!


というところで眼がさめる。
「ヤ〜モトさ〜ん。MINIのクーラー修理終わりましたよ〜。あのね〜、勝手にショーカーに乗りこんで寝ないでくださいよ、もうっ」


※ ジャガー Mk2のある店は、こちら
ロータスを中心にした英国車専門ながら、288GTOも在り。わずか272台のみの製造に関わらず今もってフェラーリ人気ナンバー5の1つがこのマシン。