東京ラストナイト


東京での最後の夜。
結局、ツリーには近づかず終いだったなと… ホテルそばの隅田川沿いから1枚パチリ。
いまもって、このカタチが好きになりきれないんだけど、存在感は認めなきゃいけない。
そぞろ歩きの夜の徘徊時、ランドマークとして実に役だってくれた。
明治期の岡山にあったタワー(集成閣)のことをここ数年かけて探求している身としても、この存在は心理的にもランドマークたり得てる。

常宿としたホテルの、部屋の浴衣。
浅草寺すぐそばの立地ゆえお客の大半は海外の人。
よって、このようなオシャレな浴衣。
しかし誰かと同宿してるワケでなく、着て嬉しくもない。
ススキのかんざし、熱燗とっくりの首摘んで蕩(とろ)けていっぱい… というには遠い。
シャワーを浴びたら、また部屋を出て、そこいらをテクテク歩く。

ただ1人ではじめての店に入るのを、ボクは苦手とする。
けども、お宿の周辺の少路に入ってみると、「おや?」てな店が幾つかあって、気になる。
飛び込むべきか、素通りするか… 密かに苦悶する。
これは小さな悶えなんだけど、後をひく。
「あ〜、あの時入ってりゃな〜」
な、後悔が先延ばし的につきまとうコトが見えてるから余計。
そこで勇気をだし、ラストなナイト、どうにも不思議な店名のそこの引き戸をガララと開けてみた。

なんのことはない。
「らっしゃいッ」
い、の抜けたパシッと勢いあるウェルカムが届く。
何でだろね? そうなると予測出来るのに、ガララと戸を開けるまでの… 行きつ戻りつな逡巡。
数多の選択肢をこれに決めちゃっていいのかの迷いなのか、それとも、ただ単に気恥ずかしいのか…。
焼き鳥屋。
店主寡黙。奧さん(?)溌剌。
カウンターの端に身を寄せて、手羽先がうまかった。
けど、やっぱり1人じゃつまんないワケだ…。
間がもたないというか、キョロキョロするのもみっともないし、中ジョッキのビールはアッちゅう間に空になる。
わずかな時間に追加オーダーしてしまう。
旅馴れてないな〜、俺… と思ったり、でも、入って腰掛けて呑んでるじゃんな悦びもあり… これでしばし、東京とはお別れと思うと、不思議と酔いも早いわい。
出ての夜道、店名の由来を聞くのを忘れたコトに気づく。

帰省して翌日。岡山の夜。
MIHOちゃんのお父さんと席同じくして呑む。
あの子にこの父あり。好漢だった。
遺品、形見分けとして彼女が読んだ北村薫を頂戴する。
ボクが接したことのない作家。よって… MIHOちゃんに案内してもらう心積もり。


さてと明日から10月。ジャズフェスのシーズン。