犬島・維新派『MAREBITO』

ジャズフェスを終えて翌々日、維新派の芝居『MAREBITO』を観に犬島へ。
終日すごす。
サンダーバード展やジャズフェスとイベントが続いて、その1つの区切りというか、句読点としてマルを1つうって、行替えするための、自分にとっては大きな安息の日と、この日を決めていたもんだから、島についたら、この芝居のための特設ステージサイドに、これまた特設された"屋台村"での飲食をふくめて、大いに愉しんじゃうな心積もりなのだった。
しかも、公演最終日。
台風の到来が1日早かったらかなりシンドイことになっていたろうと思うと、この日の快晴(夜は寒い)は実にありがたかった。
でもま〜、問屋はそう易々に卸して安息させちゃくれない…。終わりがけ、夜の闇の中に、ふいな鬱屈がわいて、虚ろが身辺にやってきたりもした。
ま〜、それは置き、維新派の芝居はいつも驚かされ、愉しませてくれる。



海水浴場に現出したステージと客席の、作りの規模にまず眼が向かう。
意識されて創られたであろうアジアン風味な偽装が秀逸。芝居のワクワク気分を昂ぶらせてくれる。
開演序盤で、ステージ上に水が流れ出す。
静かだけで急速にそれは浸透して、背景の海と混在するような感触を受けるのがいい。
たちまちに広大な水面が現出し、その中で馴染みの帽子と白い服の"男子と女子"がズブ濡れて演技する。
水が跳ね、照明に煌めいて、その躍動が演技に厚みをくわえる。



舞台上の真っ白い複数の椅子が、時に島になり、陸になり、人になり、飛行機になり… ストイックな象徴として手際もよく使われて、それも秀逸。
犬島海水浴場のカタチを実にうまく取り込んで、法外な奥行きも現出する。
見事な照明。
メリエス映画の書き割りのような巨大な鯨が、ほんの束の間、下手から上手へ泳ぎ去る。
そして、これまたお馴染みの、"維新派節"としか云いようがない、波のようなリズムとコトバの呪縛めくな"音"の豊穣をまのあたりにする…。
過去の芝居で濃く印象づけられた、「遠や・遠や」は今回はなく、かわって、「海へ・海へ」だか「海に・海に」だかが繰り返される。



開演前、"屋台村"でけっこう呑んでるんで、その酔いに「海へ・海へ」のリズムがさらに「酔え・酔え」と押し寄せる。
それで、前半、ボクは知らず、心地よさに身を委ねるままにコックリコックリともしちゃったけど、いやさ、これが芝居の醍醐味。
眠るもまた芝居体感。
亜細亜の、その混沌たるを時空を越えたカタチで紡ぐ松本雄吉演出の妙味、冴えは今回1つの頂点に達したようにも思うが、観ていて、ボクはいっさいを理解しているワケもない。
ほとんど判っちゃいないのだ。
判っちゃいないけど、大掛かりな装置と演出と演技とサウンドの妙味にただもう全肢体を投げ出して、その波に揺られ通す内に芝居は終わってた… というアンバイなのだった。
海で連なる亜細亜の地理的歴史と人的歴史と今その瞬間の犬島での芝居観覧とが、ジョルジュ・メリエス的装置と展開の中、ゴッチャ煮の鍋となって煮えて、その中に観覧のボクらも"具"としてある… という風なのだった。



終演後にまた、"屋台村"に向かい、唯一、そこのみ日本酒をおいてる店に陣取る。
ハタと気づくと、松本さんがのんでらっしゃる。
先方も気づいて、しばし岡山市内の療養中の某ママのことを話し、いざや芝居のことを話さんと狂喜してたら、こちらの電話が鳴ったり切れたりで、松本さんはもういない。
芝居の主題に即したかのような、いや事実そう意識して創られた亜細亜的混沌な"屋台村"。
その混沌の中の自身の混沌。
犬島はdocomoの電波は均一のようだけどsoft bankはかなり弱い。同じ場にいても圏外になったりフイにアンテナ線が最高になったりと… 不安定。それが余計に混沌の輪を嵩ませる。
見上げると、喜色と悲色の混ざる鯖色のかぐや月。



   

"屋台村"の中。呑んでる店の前には美容室まである。
同行者笑っていわく、
「ここに来てわざわざ… カットするか」
されど眺めるに、客足たえず。

「思い出作り?」
「う〜〜ん、わからん。安いから?」
「違うと思う」
苦笑しつつも亜細亜的な雑多な混沌をまた垣間見るようで、それはそれでオモシロイ。
日本酒とビールどんどん。



ヤキソバ、たこやき、天かすうどんに、おでんに辛子たっぷりソーセージ、イカ焼き、焼きとうもろこし。
色味としての紅いしょうがに青いのり…。
いわゆる、そこいら屋台になら必ずあるハズのフードがなくって、亜細亜っぽい"何か"はあるけど、"定番"のないコトに小さくショックをおぼえたりする。
正直に申せば、食としてとってもソソラレ♪… るものがない。亜細亜をテーマとするなら最果ての和国のもあってイイじゃないのかと… 2人共々残念がる。口惜しがる。



その次第あって、岡山に戻るや、まよわず即座で居酒屋へ。それも飛び込み、初めての店。
犬島で食べられなかった串やらヤキソバやらな"和的なの"を平らげる。
「なんか、やはり、これだよな」
「だよね〜」
ってなアンバイで、岡山でもう一度、呑みなおしの遅い夜。
月もやむなく、苦笑した… か?