Advanced Style

左ききの仲間が集まっての"たにや"での食事会。
たにやというのはおでんの店。
関東系な例えば竹輪麩とかはないけども、大きな厚揚げ、大根、じゃがいも、豆腐… どれもよく煮え、よく味がしみて、申し分なし。
左の奥歯を2本と半分、抜歯した翌々日という悪しきな状況で口の中も腫れているから、この食事会はキャンセルしようかな〜と思ってたら、首謀者のNobee Ohmuraが、
「おでんで行きましょ〜よ。それならダイジョブでしょ?」
と、いたわり含みでの選択をしてくれたから、参加となった次第。
ここのオーナーは旧知で気心知れているし、ボクは左ききじゃないんだけども、ま〜、場の演出としては… 1匹、右利きがいるというのは、アクセントとしてヨロシかろ〜という次第。
全部で6人。
いや〜、喰った食ったクッタ。

毎度ながら、ボクはタマゴは3つ…。
不思議だね、おでんのたまご。
外より中の黄身が熱ッツツツ、のうまさ。
人には云わないけどもいつもボクは"地球を食べる"みたいな気になる。外装より内が熱い事の連想じゃあるけど、壮大さを縮小させた極みとして、タマゴを地球にみたてて頂戴をする。
カラシ多めに黄身につけ、あえてそれを忘れたフリして口に含み入れ、
「おっ、マグマ溜まり遭遇っ!」
「ヒェ〜」
鼻に抜ける辛味に弄ばれる自分を、愉しむ。

ここの隠しメニューの1つたる○ッ○を中盤にオーダー。
脂ののったむっちりな旨さに、仲間はヒャ〜ヒャ〜大喜び。
即座で追加。
生から日本酒に変え。


でも、ボクは奥歯2本と半分抜いた直後だからね。今回は仲間が喜ぶのもまたご馳走とわきまえ、食べるよりも呑みに重み。
半分というのは、随分と昔に欠けたのがあって、それのネッコを取ったいうコトだよ。
なので2本半。
この先、しばし歯科通いとなるから、面倒なんじゃあるけど…。

おでんじゃないけど、日生の生カキもうまかったな。
ついで、ニュウメン。
これの食べ頃は、天かすがフニャけていささかに膨れた刹那がイイぞ。
写真はその食べ頃の瞬間、だ。お汁と麺と天かすの三位一体の刻限を逃しちゃイカン。
それ食べろ。急いで口で吸え。


飲み会というより左ききの食事会。それもコンパ的エエカッコの必要もない遠慮する間柄じゃない連中ゆえ、もうナンボでも箸が踊る。
締めは茶漬けで、これまたゴハンおかわりタラフクの昂揚。



さてと、このおでん仲間の1人が持参の『Advanced Style』なる写真集。
たにやから某所へ移動して、それをば眺めみる。
60代から100歳までのニューヨーク在住の高齢な女性を街角でスナップしての写真集。
高齢者のファッションじゃなくて、"上級者のスタイル"と名付けてるトコロが、よろしい。
気のきいたタイトルだと、まずそれに感じいった。
でもって、当然というか、眺めるに、我らが日本での日常の中の60歳代から上の女性たちとは、まったくもって一線を化すファッションの方々が登場するから、
「あらま〜!」
感嘆するやら嬉しくなるやら… ビックリ箱みたいに驚いた。
目前の進行形の流行なんぞには眼もくれない堂々の自己主張、それもトビッキリな個性がページごとに登場する、まさに"上級者"たちの饗宴なのだから、
「へ〜!」
ひたすら感服させられて、ギャフンと云わされた。

ニューヨークの方々がすべて、そうなのではあるまいとも思うけども、老いても炯々悠々と自らのカタチを主張している様子が素晴らしく、いい。
流行りなんぞに流されず、己のが身を装う布の使い方、まとめかた、きこなしかた、そして、メガネの徹底した演出法。
その強殻な精神が、人口比として何パーセントくらいになるかも計れないけど、少なくともこういった写真集が出るホドに、かのニューヨークには老いて尚活き活きな女性が多々いらっしゃるというのは… 凄いというか、羨ましいというか… さすがだなニューヨークは…、と思ってしまうのだった。
文化の厚み、というのはこういうトコロから滲んでくる。

写真に映るその顔、首筋、などなど、70代、80代の高齢なのだから、当然にシワ深きな年輪が否応もなく見えちゃいるけど、それを包むファッションと彼女たちの表情が語るのは、"瑞々しい精神性"というか"若さ"というか、とにかく日常の日本じゃ遭遇できないカラフルな豊穣なのだった。
既製なものから出来るだけ遠くに離れて、そこで個を輝かすみたいな、いわば老女たちそれぞれが独自な"星"たらんとする、その勢いに鮮烈させられるんだ。
彼女達には、「自分はもうお婆ちゃんだから…」の自己規制がない。もう、そこだけでも素晴らしい。
無自覚に周辺に同化しなくちゃな縛りがなくって、いっそ、「わたしに廻りが同化しちゃえば、ど〜よ」な勢いに、のまれるんだ。

なによりも、カメラを向けられた彼女たちの眼。
堂々として揺るぎなくカメラに向かう、その眼。
その自信はどこから来るんだろうと、そう逆に訝しむくらいの堂々の落ち着きにボクは、
「1本とられた」
と、いうか、日本の精神風土はこういう婆さんをむしろ… 許さない… と、そんな対比を考えてしまうのだった。
この国ではきっと、「ええトシして、ナニ考えてんの」的嘲笑か罵詈めく哄笑でもって疎外してしまうハズなのだ。
たぶんにそれほどに、この国は横並びに安住するコトでしか自分と他者の距離を計れないんだろうし、そも、計るべきな主体が自己の中に固着していないんだろうから… きっと、こういう女性とバスの中で遭遇したりすると、冷ややかさがついつい染み出してしまうのだろうと… 感じるわけだ。
他者のコトを申しているんではなく、自分の中にある感想としてこれは云ってる…。知らず、自分もまたこの国の精神風土にカタチを形成されているんだなと、実感させられる。

この本に登場する女性達の生活環境は判らない。
ある種の収入水準に達している方々とも感じられるけれど、それだけで括れようもない。
奇抜ゆえにカメラが向けられたというワケでもない。
ニューヨークという場所が加味されてか… その場所が彼女達を育んだのか、それとも彼女達がニューヨークを育んだか…。
それゆえ、繰り返すけども、日本じゃこれは難しい、という感想が渦のように逆巻くのだ。
歯痛じゃないけど、何か疼くような… 文化の違いを見せられて、ちょっと、ボクは羨ましいのだ。
ご列席いただきましての宴会ではなくって、自己主体を貫くべくなパーティ文化土壌がもたらすカタチとしてのファッション差か… とも思うけど、どうあがこうともニューヨークのマミ〜達がこの国の都市のどこかで発生するとは、ちょっと思えない。

Advanced Style--ニューヨークで見つけた上級者のおしゃれスナップ
アマゾンでも扱ってるね、この本。意外と分厚いけどボリュームに較べてイガイと値頃な2625円。


でも、おでんは日本だな。
ま〜、裾野が広いニューヨークだから、おでん屋も2〜3軒あるのかもしれないけどさ、たにやの味は岡山でなきゃ味わえない。
旨味は、読んで眺めて判るようなもんじゃないしね。
麗しのニューヨーカーも、これの良さ旨さは、ちょっと想像がつくまいて。