お正月に観てもイイ『東京原発』

2002年に公開された役所広司主演の映画『東京原発』は、広く知られていないんだけど、今観ても極めて鮮烈。
9年後の、2011年3月11日の東電福島第1原発の惨状が、黒いジョークとして描かれているようなもんで… いや、むろんに今も継続中のヒッチャカメッチャカを、映画製作者一同とて予想しちゃいなっかたんだろうけど… なにかと"自己規制"してしまいがちな日本で、これだけ堂々に、時流に反発し、かつ諸々が実名で登場する映画が造られていたというのは、めずらしい。
岡山じゃ映画館で封切られてもいないようだし、ボクはこの映画のことを最近になって知った…。

役所広司を主役に、平田満岸部一徳徳井優綾田俊樹や渡辺哲や吉田日出子といったヒトクセある方々が脇を固める。
原子力発電の話ながら、告発的堅苦しさはなくって、エンターティメントしていて、笑えるのがミソ。
わけても綾田俊樹扮するケッタイな衣装の科学者が都庁会議室で話し出して、都の課長達がこれを聴くという辺りは、圧巻にして抱腹。
低予算な映画じゃあるけれど、そこを逆手に、シドニー・ルメットの『12人の怒れる男』ばりに、会議室内だけの言葉のセッションでもってグイグイ引き込まれるのは、登場のヒトクセフタクセある役者達の琢磨の勝利。
うさんくさい雰囲気でもって大真面目かつ大すっとぼけな語りを行う綾田に、吉田日出子岸部一徳らが見事にからんで、緩急つけつつ波紋が大きな渦と巻いてく。

役所広司扮する都知事の、東京に原発を誘致するとの突然の発案を前に烏合の衆、右往左往の集団劇。
先に役者の勝利と記したけど、それには、"実態のおぞましさ"と、転じて、その"面白さ"が、根底にあるもんだから… 原子力発電の脆弱っぷりを、綾田俊樹のストレンジ・ラブに通底するおかしげな科学者の発言を通して、揺れてブレるこれまたおかしげな都庁の上級職の方々と共に、観客たる自分もまた、揺れてブレて観て知っていくという、おかしみ…。
博士の異常な愛情』のストレンジ・ラブは完璧にイッちゃってる存在だったけども、こちらの綾田扮する科学者はたぶんイッちゃ〜いないけども、変なところではピカイチに光って乾ききっていて強烈に人間的で、ある意味では知りすぎてしまってイクことも出来ないまま実は朦朧としているといった、危ういポジションの取り方がまた… おかしい、笑ってしまう。笑ってしまいつつこの人物に不気味さもおぼえさせられる。


映画『東京原発』は1つのリトマス試験紙みたいなもんで、これを受け入れるかNONなのかで、その人のカタチの方角が見えてくる。モンティ・パイソン作品に接しての人の反応みたいに。
あんのじょう、ネット上では原発容認の立場から、映画の中に複数の"マチガイあり"と指摘して、「事実に反するケシカラン」という声も載ってるのだけど、どうも、その辺りの反応も折り込み済みで作ったような気配があって、そこもまた、映画の中の、東京に原発を作るという都知事の本当の所の意図と… 被る仕掛けのような。


後半では予算少なき映画の悲哀も垣間見てしまうけれど、そこは眼をつむろう。トラック運転手役の俳優がオーバーアクションでヘタ過ぎるのも眼をつむろう。
そんな部分の不具合を許せる全体の意志の力強さが小気味よい。こういう映画も作れるんだという所も含めて、観て損しない、とボクは思う。
もちろん別な意味でこの映画は"強く原発依存"しているわけであって、その辺りの二重性、いわばリボンの表が裏にそのまま連なるメビウスの輪でもあるというループな構造もまた、面白がればイイのだと思う。

いかにも結末部が、「たぶん、そうなるな…」の予測がついてしまい、そこに強烈に不満を、映画としての不満を感じて、もっと別な、もっと啞然とさせてくれる仕掛けがなかったろうかとついつい考えてしまうのだけども、でもって、そう云いつつ、さほどの想像力も持ち合わせていない自分に気づいて、「あ〜、やっぱり」なのじゃあるけど、少なくとも何だか観て参加している気になれるのが映画って〜もんだから、その辺りは本を読むのとはちょっと違う。
たぶん、ボクはその結末部にもっと激しい"転調"を期待したのだろう。
たとえば、かつて昔の大映の『妖怪百物語』のように。いっそ唐突に、得体知れない百鬼が1つ目の小坊主に先導されて夜行しはじめてもイイではないかと。むろん、そこで彼らが担ぐ大きな丸い桧の棺桶にはプルトニュームが入ってるといったストレートなものではなくって、『2001年宇宙の旅』でのスターチャイルドの突然の現出めいたコペルニクスもひっくり返るような"転調"をだ…。
現実の頑強さに向けて映画が拮抗出来るのは解釈が千路(ちぢ)に別れるほどな想像力の跳躍しかなかろう、この場合。
ま〜、その辺りも含め、未見の方はぜひにリトマス試験にトライをば。


さてと年末…。行く年来る年。
初詣に何を祈念しましょうぞ。