木種変更

樹木の旺盛な成長力をマノアタリにすると人体なんぞの活力は実にひ弱いもんだと… つい思ってしまう。
道路との境界ぎわに生け垣としてコニファー(ゴールドクレスト)が植わり、そのそばに金木犀があるのだけど、近年、両者とも春ともなれば、枝葉の成長が著しい。
両者ともども伸びることに専念して遠慮をしらない。
いささかの力関係あって金木犀がまずは空間を占有する。
それゆえコニファーは、植樹者の気持ちとは関係もなく、金木犀が広げた空間の前へ前へと出ることになる。

図示の通りの想定外、まっすぐじゃなくって枝は道路側に伸び、そこに葉がつく。
車も通れば人も歩くのだから、これは大変なお邪魔むし…。
ここ数年はチョメチョメと葉をカットしてしのいでいたけど、コニファーにしてみれば、カットされたらされただけ、いっそう伸びようとする。
もはや対処な刈り込みじゃ済まない程に道路側に枝葉が突出したもんだから、通行のAさん、Bさん、Cさん、皆な迷惑げ。
よって、やむなし。
伐採することとした。
3年ほど前に同じ並びに紅カナメを植えてもいるから、このさい、それに"木種変更"しようと… 目論んだ。

枝や幹は容易に切れる。
けども、根が大変だ。
映画『シェーン』の中で、シェーンと良き農業家スターレットが2人で庭先の大きな古株に挑んで、時間をかけつつも何とかそれを引っこ抜くという象徴的で実に感動的名シーン(この映画は全て名シーンじゃあるけど)があって、木の根っこを土から取り出したことのある人なら、その御苦労はヒシヒシ伝わると思う。

映画に較べてこちらは随分と小さな根っこじゃあるけど、これがどうして、なかなか… 手強い。
おまけに、狭い範囲での密集ゆえ、金木犀の根と、勝手に生えてきた椿の根とがコニファーのそれにからんでる。
金木犀の根を傷めるワケにはいかないから、ヘタに断ち切れない。
勝手に生えてしまった椿もそこそこに大きくなってるから、これを殺してしまうのもしのびないんで鉢に移し換えてやろうと思う…。
なワケゆえある程度まで掘り下げ堀り広げたら、化石の発掘みたいに小さなスコップで露出した根の周辺を探り堀り、どれがアレでそれがコレと見極めなきゃイカン。
蔦のように巻きついているんじゃないけど、互いの根が上になり下になりして交錯しているから、大変に面倒。

コニファーと金木犀と椿の、我れも我れもの勢いを見せている根の伸長を眺めて、いささか驚愕する。
椿の根は絵に描いたように四方にほぼ真っ直ぐに伸びるタイプだけど、金木犀は縮れたモヤシがごとくに繊細で多毛、コニファーのは太くトグロを巻くようなアンバイ。この3つ3種の饗宴。
掘れど広げど、根どもはビクともしないんだから、たいしたもんだ。
トグロを巻きつつもコニファーの根はただの1本じゃないんで、太いラインが地中の思わぬ方向に伸び、そこでまたトグロを巻きつつあるというような、まさに一筋縄じゃござんせんな強靱さ。大地にしがみついて生きる、というカタチを炯々と見せてくれる。


以前にも書いたかな〜? B・W・オールディスの『地球の長い午後』に登場の地球を支配する植物たちのことを。
人類をはじめ大小の動物たちが衰退のあと、地表の王者となった植物たちの凄まじい進化と発展の顛末は、読んで空恐ろしくもあり美しくもあるけど、根に苦闘しつつ、なんだかたえず、この小説が念頭に浮きあがる。
地球の長い午後 (ハヤカワ文庫 SF 224)
地表から何千メートルもの高さにまで成長した植物で覆われた緑の惑星の、その何千メートルだかの高みの巨大な木にかろうじての住処を作って生きてる人類の小さな群れ。地表に降りた事もなく、また降りようと試みるのは死と隣り合わせ、危険な植物が多々に跋扈する世界。そして、この植物生態系の頂点にいるのが、クモの糸のように網を張り巡らすヤツ。その太い糸はすでに月にまで到達しているという壮大さ…。
が、また一方で、植物たちの命の糧たる太陽は既に終末期を迎え、大きく膨張していて、いずれ地球をものんでしまうだろうという… 遠い未来の、けれど確実にやってくるであろう太陽系の終わりの頃の話。


"生命"の深淵…… 小説の壮大さと自分の眼の前のコニファーの根のギャップが、面白くもあったんだけども、道路の上に伸びちゃうのがお邪魔むし、というのはあくまでこちらの勝手な気持ちなのであって、コニファーにとっては金木犀よりも優位なポジションを獲るための必然な位置にたまたま道路があったというに過ぎないワケで、今のところ… コニファーは生態系の頂上にいないから、さぞやこの伐採は口惜しいだろう、ね。
かの小説では、己のが身にふりかかる敵対者に向けて刃向かうべき処方を身につけてる樹木がいて、かなり怖いのだけど… 今はまだコニファーとて、こちとら人間の"根こそぎしちゃうぞ"な根気を前にしちゃ弱きな存在だ。
すまんな〜。

作業は2日かかって終了。
初日の様子は撮影していないけど、伐採した枝葉を軽トラックに積むと山盛りいっぱいでなかなか壮観だった。
で、2日めにこの根堀り作業となったワケなのだ。

どうにかコニファー4本を取り除き、腐葉土を混ぜて土を起こし直し、紅カナメを5本植えて、特典なしの"木種変更"の作業終了。
これで道路上への進出は失せたけど、おかげでさっそく筋肉痛。
まったく、人間さまは… ひ弱です。
ちなみに紅カナメは1本478円。これが何とか生け垣のカタチにまで育つには3年かかるだろうけど、以前、3年前に買った時は410円くらいだったから… お値段も成長してるのね。