潜水艦を見にいく 〜陸上篇〜

遠路。呉市に出向く。
目的は潜水艦の見学。
以前に出向いたのは大和ミュージアムがオープンした2005年だから、かれこれ9年ぶり。
この国で実物の潜水艦展示は『海上自衛隊呉資料館』のみなのだから、これが「てつのくじら館」なる愛称でオープンした2007年以後、ず〜〜っと出向きたいとは思っちゃいたけど、なかなかね… 足を運べずで今回ようやく実現だ。

山陽高速道路の途中で危うく事故に巻き込まれそうになったけど… 何とか通過。たぶんこの後、救急車やレッカーやパトカー登場で高速下りはしばしの停滞となったろう…。
4時間弱で呉に着。

「あきしお」。
全長76.2m。幅は9.9m。
見上げる形で展示されているから、印象1番は、
「でかい!」
だな。
実は『海底二万里』のノウチラス号の全長が70m。最大幅は9mとヴェルヌは書いている。
だから「あきしお」は形こそ違え、ほぼノウチラス・サイズ。
呉まで出向いた理由は、要は「あきしお」にノウチラス号の輪郭をトレースしたかったというような… ことなのだ。
「あきしお」には申し訳ないけども、ノウチラス号の金属感を直かに感じてみたかった… というわけなのだ。
いわば、幻影をオーバーラップさせるための『2014年 幻視の旅』。

とはいえ、はじめて金属の筒に入ってみると、実に単純に、
「あら、狭いのね、ここ」
だの、
「おっ、あんがい広いじゃん、トイレ」
だの、ショボな感想のみが浮いて、とてものことカッコ良く幻視なんて〜もんじゃない。

居住空間としての鉄壁性は潜水艦と宇宙船の2つが気密というところでもって他のどんな乗り物よりも優ってはいて、そこが魅力の照射点じゃあるけれど、その気密な凝縮は閉所恐怖なボクには、たぶんホントはそぐわない。
夢想としての"閉じた秘密の部屋"をすこぶる嗜好するし、艦内を眺めるに、なるほどここは特殊な空間とどこを指してもそう感じるけど、窓のない「あきしお」の、やはり、鉄壁の裏側に隣接してる脱出出来ない閉じ方に、怖じ気づいてしまうのだった。

思った以上に低い天井にくわえ、あちこちに器機があってレバーが突出して、たえず注意してなきゃ必ず頭なり肩なりをどこかにぶつけそう…。そんなので潜水するのだから閉所感が濃い。
だから、ノウチラス号のあの豪奢なサロンにある2つの展望窓は、密閉の恐怖を緩和させる大事な装置なのだな、とあらためて感じた。
ネモ船長とその仲間は人間界を嫌悪してノウチラス号に閉じこもったものの、けれど、閉じ籠もりつつも"外を見る"という処は放棄しなかったわけなのだ。



海底二万里』が書かれた14年後の1884年に刊行の、ユイスマンの『さかしま』では、主人公デ・ゼッサントは外界との接触を断ち、丸窓の外側に水槽を置いた船内に見たてた室内に閉じ籠もって、読書三昧にして夢想の連鎖を繰り返し、果てに口からの食事を嫌悪して、栄養浣腸によって"食事"するというデカダンの極みを実践する。
2人の召使いによって海の香りがする空気が送り込まれる室内(船内)。
気分によって水槽内の水に色を混ぜ合わせ、時に夕陽を受ける海の色やら晴天の海色やらを創りだし、そこを泳ぐ機械仕掛けの魚や海藻の揺れに気分をおどらせて、気苦労や疲れを感じることなく、くつろいだままに夢想界を満喫という愉悦に浸る。
ネモ船長とは方向が違う閉じこもり。
自己嫌悪で裏打ちされた厭世気分が下敷きという点で両者は一致するけど、かたや邸宅の中の個人の営み、かたや城砦としての潜水艦の中、20数名の部下を率いる組織。
「あきしお」内部に入った途端、おバカな話じゃあるけれど、
「ノウチラスは1人で動かしてなかったな…」
と、あらためて実感させられた。



「あきしお」には漫遊的旅情も私情も浸透する隙は当然ない。バトルシップとしてのサブマリン。確固たる目的ゆえの機能に満ちて精悍。
いかんせん見学出来るのはごく1部分で、ドイツはキールのラボー岬の砂浜にあるUボート展示のような、ほぼ艦内全てを見せてくれて、かつ、照明は当時のまま、潜航中での実際の灯り(だからとても暗い)というワケでもない。
見学はコントロールルーム周辺に限られ、その階下の魚雷室やエンジンルーム界隈などは見られない。

でもやはり、実物の迫力は縮尺模型じゃ醸せないもんだ。こういう展示はありがたい。
しかも無料だ。
国防を広報する窓口として海上自衛隊自身が運営しているわけだから、艦内案内も現役自衛艦
でもね〜、わずか40数年後に国民の半数が高齢者の国になることが既に判っているから… はたしていつまで無料を維持出来るのか?
ましてや潜水艦の乗り手としての若者が減少した国家というのは、国防もままならないというアンバイじゃなかろうか… そも、国防として、武装が本当に最適なのか? 現憲法9条の特異性こそが抑止としての大きな防波堤じゃないかしら… 世界に向けて輸出出来る特異じゃなかろうか… などと心配をしてもしゃ〜ない。
今回はあくまでもノウチラス号幻視の旅。
理屈は置いて、足元の金属音の硬さを確認する。

士官用3段ベッドの最下部に寝そべってみる。
せ、狭い!
眼を閉じて眠ったつもりになる。
マイケル・ジャクソン東京ディズニーランドを1日借り切って1人っきりを堪能し、エジプト遠征のポナパルドは某日某夜、クフの大ピラミッド内でただ1人っきりの夜を過ごして、ご両者ともに何かを感じようとされたらしいけど… たとえばこの「あきしお」内で1晩1人で過ごしたら、ボクは何を得るんだろうか。
詩的な寂寥か、おびただしい退屈か。やはり、このあまりの狭さに窮屈をおぼえ窓を欲しがり… 外を気にするんだろうな〜。