残らないカタチ

県庁前の県立図書館が10周年ということで、劇作家・坂手洋二が招かれ講演会。
県立図書館は云うまでもなく明治時代に創設され、ボクがここ数年、テーマの1つとして取り上げ続けてる岡山初の公立図書館『戦捷記念図書館』の現在形。
こたびの講演は「本は時空を越えた『舞台』」というタイトル。
鯨の話、沖縄の話、映画の話、などなどが本を軸に語られる。
「映画は残るが芝居は残らない。そこが面白い」
と、おっしゃる。
それはよく判る。

こちらも間もなく、この週末から次週末にかけてジャズフェス。舞台でいうトコロの仕込みの時期にかかって、なにかとせわしない。
数ヶ月前から諸々な準備を開始し、その夜に多数が集い、照明が煌めいても、ミュージシャンの演奏が済めば、仕込んだ装置も何もかもを片付ける。翌日に同じ場所を訪ねると、そんな賑やかなもんがあったの? と思ってしまうくらいに、ごくごく普通の日常があって、やはり、そこに面白みを感じる。
昼と夜の違いでなく、表と裏の違いでもなく、温度差でもなく、ただもう記憶の中に残るのみのライブなりコンサートなり芝居。
そんな次第ゆえ、だから「伝説のウッドストック」というアンバイなんだろう。


講演後に仲間と合流。市内某所の個人宅へ。
およそ岡山市内とは思えない場所。
樹木に覆われ、居間の真ん前が広大な池。広く設えられたウッドデッキに出れば、すぐ眼下に水面があって、アオサギが魚を狙ってる。
モズが啼いている。
この日の女主人は茶柿色の作務衣。
まるで閑静な日本旅館に出向いたような心持ち。
仏蘭西産と奈良産の鴨肉をよばれて堪能したけど、1番に美味かったのは、ジャガイモとタマネギとニンジン。

ジャガイモとタマネギはカットされない丸ごとで、ただボイルしただけらしい(?)のだが、素材そのものの旨味が活き活きで、それに岩塩をまぶして頂戴する。これが美味しくてたまらない。
余談ながら、その岩塩も仏蘭西産で、ボクにはちょっと眩い。こういった食材を日常的に使っているらしき処が羨ましくもあるけど、部屋の照明の具合も良くって美味しいものがいっそう引き立つ。
なんせどっさり作って下さってるもんだから、ついつい複数、1ケどころか数個をペロリと平らげた。
思えば、料理もまた舞台めくな一期一会。
機会あらば、池を眺めながらまたお呼ばれしたい。

翌々日の今日。播州赤穂駅でのこの10月あたま付近から11月お終いまでにかけてのちょっとした模型展示の、打ち合わせ。
姫路方面での地方紙の編集に携わる方より、帰り際、お土産1つを頂戴した。
ぁあ、塩味饅頭。
これを食べるのは15〜20年ぶりではあるまいか。なんだか妙に嬉しい。
懐かしい感慨が塩味と結ばれ、前々夜の岩塩を思いだしたりもする。ウッドデッキからの眼前の緑の池の佇まいの静かさに思いを馳せたりする。
"塩味饅頭"なのじゃあるけど、ボクは密かに"塩見饅頭"と書きたいような気も、チラリ。