磯田道史先生と備中足守藩木下家資料を語る

上記表題のトークショーを聴きに山陽新聞社のさん太ホールに出向いた。
実に直球な… タイトルだけど、ま〜いいや。
岡山シティミュージアムで1/9から2/8まで開催の『岡山に生きた豊臣家 〜備中足守藩 木下家資料〜』展の関連イベント。岡山シティミュージアム山陽新聞社の共同主催。
ミュージアムが用意したスライド灯影にあわせてNHKの歴史番組でお馴染みの磯田氏がコメントするというカタチ。


豊臣秀吉の妻の実家たる木下家がなぜかくも小藩だったのか、ボクはうっすら疑問に思っていたけど、こたびの磯田氏の話で合点がいった。
要は、おねぃ(ねね)と秀吉の結婚話が持ち上がったさい、頑くなに反対したのがおねぇの父親で、その兄弟は賛成し… それゆえ、大出世した秀吉の気分が親戚となった木下家への対応にでているというワケなのだ。
兄弟系の方々の"家"には何万石もの領地をあたえたけど、肝心要めの本家木下家たるおねいの父の家は足守川そばの小さな面積に留め置いたのは… 秀吉にしてみれば、かつて反対され、そのさい本気で哀しかったんだろう気分の、これは反映なのだ。
木下家の禄をあえて小さくしたのは、意趣返しというより、いっそ秀吉流の哀しさの表明であったのかも知れない。
そこを汲むと、ボクは従来さほどに秀吉という人物を好まなかったけど、いささか人間の顔が立体として浮きあがって、少し嫌いが緩和した。

磯田氏は、史実にどう足を踏み入れ、どう切っていくか、その辺りがやはりうまい。
ミュージアム側が用意したスライドは、通り一辺倒ぎみで、いってみりゃ情報が薄い。
その薄い情報、すなわち用意された多くはない写真1枚1枚に、磯田氏は厚い量の言葉情報を開示してくれる。それが半端でない。
その上で、なんといっても語りが熱い。いかにも"学芸"でございな雰囲気をいっさい除外して遠ざけ、聴いて愉しくワクワクさせる技量が頼もしい。
なによりあきらかに対象との距離が近い。対象への"愛"の深みが際立つ。
なので、おもしろかった。
秀吉という途方もない猿似の醜男(指が6本あるというのはどうやら本当のようだ)で、でも法外な度量を持った男を迎え入れたがための… 足守の木下家は、豊臣家没落後にも、歓び以上に苦悩と苦労が大きかったということを基点にして磯田氏は語ってくれ、
「なるほどな〜」
頷くことしばしであった。
2009年に木下家(家老杉原家の土蔵)で見つかった、割られた硯箱(おねぇが使用していた秀吉が贈った強烈なほどに豪華なもの)への磯田氏の、なぜかくも貴重なものが割られて破壊され、なおそれを隠すように持っていた事の考察などなど…、新鮮な驚きの連打だった。
さすがは『武士の家計簿』の作者だけのことはあって、諸々知見が深い。考察もまた切れ込み深い。なにより権威的な空気感が薄いのがいい。
ともすれば、ミュージアム展示では主催側の"見せてあげる"的上から目線がしばし見え隠れてたりする空気があるけれど、氏にはない。いっそガラスで隔てられた展示物の中に分け入って、
「ほらほら、この部分、すごいでしょう」
でな感じな、展示対象と聴講者への距離の圧縮がいい。
感服した。

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と、それにしても… 満席満員の会場にいるのはジジとババだらけ。ま〜、ボクもその年齢の一員じゃあるけれど、こういうオモシロイお話は若い人にこそ聴いてもらいたいと残念に思う。
むろん、そんな残念が浮くことこそが老いたる証しでもあるんだけど、やっぱりね、若い時分にあれこれ吸収していた方がエエぞ〜という、これは反省であったりしますデス、な。もう取り返しようがないけど。
昔、「若さだよ〜ヤマちゃ〜ん」というフレーズのビールのCMがあったな〜。