サンシャイン2057

桜の開花と同時に今年は雨となって、なのでネコもシャクシも川沿い(岡山・後楽園そばの)で焼肉しちゃってメガネが油分で曇るがや… 桜の樹皮もきっと苦痛に思ってるぜ… という迷惑行為が少なかったのは有り難いけど、桜がほぼ散った今も梅雨みたいにまだ降ってるのはいただけない。
おかげでいささかスケジュール変更など強いられもして、出かけるのをよしたり、外作業を我慢したりを繰り返してる。

それでちょっと太陽の目映さを思い、昨日の雨の夜半、買ったものの観ずに放置してた映画を観る。
『サンシャイン2057』。
バットマン』リターンズ・シリーズのキリアン・マーフィーが主役で、真田広之も出てるし、ボンド・ガールも演ったミシェル・ヨーも出てる。
監督ダニー・ボイルのイギリス映画。
死にかけた太陽を"再起動"させるべくマンハッタン島サイズの核爆弾を太陽に投下するため8人のエキスパートが太陽に向かうというSF。
かつてあがた森魚は名盤『噫無情 (レ・ミゼラブル)』で「キネマ館に雨が降る」とフイルムの傷を持ち出して昭和初期のセルロイド感覚を唄ったけど、21世紀の今、映画はデジタル、雨は降らない。

太陽に向かう宇宙船。真田広之が船長だ。存在感があって厚みがある。『たそがれ清兵衛』をまた猛烈に観たくもなる。『ラスト・サムライ』での彼はほぼセリフまったくなしだったけど他を徹底的に圧倒する武者っぷりはご承知の通りでしょ。それゆえにトム・クルーズ演じる主役との絆が際立って、なんでこのように日本人の"美しい心情"を米国人が描けたんだろうかとビックリしたわけだけども、その寡黙ながら… の良性がこの映画にもうまく発揮されてるから実に嬉しく頼もしい。常態として眼は伏し目がちなんだけどスワ何かというさい、それが上向いて強い光彩を放すのは他の役者にはない特性だ。ここ、ポイントね。

で。キャプテン真田率いる巨大宇宙船は粛々と太陽に向かう。
こういう場合にのみ"粛々"は使えるのだけど、余談はさておき、よくよく考えるに、宇宙SFは数多あるけど太陽を主題にしたのは実はほとんどないのだね。
灼熱。炎だらけ。アンガイと描きにくい。
そこにダニー・ボイル監督は挑んだ。
きっと『2001年宇宙の旅』と『エイリアン』を監督は繰り返し観ては良い所を学び、その上で太陽というキューブリックもスコットもチャレンジしなかった高みに挑んだのだろう。
たぶんにこの映画はDVDじゃなくって、でっかいでっかいスクリーンの劇場で観るのがいいと思う。
なんせ太陽、でっかいのだ。そのでかさと目映さ、すなわち熱こそが命だろう。
それゆえタイトルは『SUNSHINE』なのだ。
映画の前半で画面中が太陽というシーンがあって、その手前を黒いシルエットの黒点が右から左へゆっくり移動するんだけど、水星だ。
そのでかさと明るさの比較が素晴らしい。視野いっぱいの広がりで見るべきな映像だ。

邦題の『サンシャイン2057』はよろしくない。
2057は余計で過剰でジャマというより、SUNSHINEの一語に含めたテーマの深淵を減速させて卑小化してる。ギャラクシー・サイズに地球の西暦を組み合わせて何が得られよう。その程度のタイトルならどこかの県や市が催す"フラワー博2016"などと変わらない。
『ゼロ・グラビティ』もそうだったけど、邦題は時に絶妙に原題の中に含む良性を殺菌してしまって一元なペッタンコにしちゃう傾向にあるのが… どうもいけない。
これは国民性なんかしら?
コーヒー屋さんの入り口近くにわざわざノボリを立て、「アイス珈琲」なんぞとデカデカ表示する神経は、入り口の小さな店名看板だけじゃ不安なのか、それとも親切のつもりなのか? ましてや「かき氷はじめました」や「冷やし中華あります」に至っては…。
なんかそういう光景と邦題の在り方は似てる、ぞ…。


けどともあれ、そのような邦題がついてしまったんだからそれを使うけど、この『サンシャイン2057』は良いところと良くないところ、明暗があって、いささか難物だ。

『シャーロック ホームズ』でロバート・ダウニー・Jr.とジュード・ロウをくっちゃう怪演で一躍ボクの中で注目度がどえらくアップした悪役最高のマーク・ストロングを起用しながら、ほとんど彼と判らないシーンの続出が、これはまったくいただけない。
前半から中盤にかけて味わえるかなりのゾクゾク感が最後のあたりで、薄っぺらになるのもいただけない。
ラストクライマックスで突如として発生したかのような"対決"の描き方にボクは不満だ。おそらく監督はキリスト教的史観として天使と悪魔の闘争というカタチでもって本作の山場を括ろうとしたに違いないけど、これまた突発的で鼻白む。描写も妙で… そこまでガンガンとヘビーメタルに鳴らしてたのがフイに歌謡曲な旋律が前面に来ちゃったよ〜みたいで、
「ぅうう」
と、気まずくなる。
けどもそれら弱点を含みつつも、根っこの主題となる太陽の強靱さはうまく描かれているよう感じられ、この1点がこの映画を映画として屹立させ、フッと、劇場の大画面で観られなかったことを悔やめるのだった。



もちろん映画は熱は放射しないから熱くないけど、少なくともより大画面なら、その灼熱と、またそれと同時並列な宇宙空間のマイナス300度に近い体感しようもない冷暗をもう少しは引き寄せるだろうと思う。
ただ前記の通り、顕らかに…、この作品はその最後で、実の太陽のでかさと熱に負けている。監督はスタッフと役者引き連れてその熱波の高みに登ろうとしたけども、負けて失速し、まさにイカロスのあの翼状になってしまう。なので、真田船長の宇宙船の名がイカロス2号というのが皮肉なんだけど…、いや、ひょっとしてボイル監督は自身の失速を予見してその名をつけていたかも知れない。そうであるなら、シャレてるし、太陽という素材を踏破出来なかったけども6〜7合目あたりまでは行けた感もある。
Aクラスながら山頂征服に至らなかったという次第。B級の駄作ではない。束の間、外の雨を忘れさせてくれ、いやむしろ、雨の降る環境にいるコトを有り難く思ったりは出来る。
6月の梅雨期になったらまた観てみよう。

サンシャイン2057<特別編> [DVD]