アンパン


アンパンだ。
東岡山駅の北側にあるコンビニのヤマザキ・ディリーストア東岡山店でしか売ってない。
この小さな店はパンを店の奥で作ってる。
そこで作られ店頭に並ぶのが、"東岡山"の焼き印が押されたアンパンだ。
国内で毎日作られているだか食べられているだかのアンパンは800万ケだか1000万だったか… 何かの統計で見たよう記憶するけど、固有性を帯びたアンパンというのはアンガイと少ないもんだ。なのでパッと見たメには木村屋なのか木村家なのか判らない。
けども、ど〜よコレ、よもやこの文字を読んで埼玉の東8区とか青山の某所とかいう人はおりますまい…。

ホワイトなホィップクリームがアンと一緒に入っていて、ややクリームが多すぎるきらいはあるけど、なかなか濃厚な滋味で悪くなく満足感が高い。
アンとホィップだからアンパンじゃなくって、アンホィップパンかホィップクリ〜ミ〜アンパンじゃ〜ないか… という見解もあろうけど、これに関してはただアンパンと呼べばいい。名はそのままにポイントアップ。
けどもその滋味にも増してボクは、"東岡山"の刻印が好きなのだ。
なぜって… このロゴは我が母校たる『東岡山工業高校』のかつての帽章に似通うテーストがあって、いわゆる愛校気分、それが延長しての郷土愛的な、固有性に裏打たれた、誰もが感受は出来ないけどボクには特別な感じといった郷愁と新鮮が同時に疼くというアンバイがあって、それでいっそうこのアンパンはスペシャルな逸品になるのだった。


ヤマザキ・ディリーストアは岡山市内のアチャコチャに展開しているパン工房をかねた店に、それぞれ固有の名を刻印するアンパンを毎日限定数でこの春から販売しているようで、その詳細はボクにはどうでもいいけども、何だかいささか喜色が浮いてしまう"東岡山"なのだった。
ちょっと色々なパンを思い浮かべて、焼き印で固有特殊化されたクリームパンやらメロンパンやらを思い浮かべたりもしたけど、でもやはり、アンパンのみにこの印が入るというのが1番にオシャレで有効かもな… などと思うのだった。

次いでゆえ一言しておくと… アンパンに薄くスライスしたタクアン(スーパーで売ってる黄色いのでよい)をはさみ込むと、その塩味とアンの甘みが絶妙でアンガイいける。
魯山人は『味覚馬鹿』で「飽きるところから新しい料理はうまれる」と書いて、そうそう確かに飽きるがゆえ新たを求めるんだわさ… というアタリマエな事を教えてくれるけど、この場合はただの組み合わせに過ぎないし、焼きそばパン以上に外道なのでコッパズカシイ…。
でもアンガイ良い。
アンパンのくせにバリボリ… 歯応えも楽しめるという1艘の舟なのに2艘を所有してるような贅をおぼえる。
ツボはあくまでも薄くスライスという所で、やや厚みあるタクアンだと噛み応えが不協和音になる上に、アン方面のみが先にのみ込まれ口の中にタクアンだけが残るというコトになるんで、あんまり良くない。
いうまでもなく魯山人は見向きもしないだろう。下には下があると苦い顔をするだろう。
けど一方、彼が書き遺した夥しい随筆を一望するに、意外や、お茶漬けを題材にした小品もまた多く…、そこを斟酌すると、食だの陶器だの極上を追求する日々に内実は自身もうんざりしていたのでないかと、つい愚考したくなる。彼が拒めば拒むほどにファストフード的お手軽が裾野を拡げて常に忍び寄っていたような感もあって、なので、ひょっとしてごくごく数パーセントの可能性で、
「アンとタクアンは相性が良い」
とモノ申したかもしれない。
ま〜、彼がどう言及しようが彼の部下でも配下でもないんでどうでもよろしいが、アンパンが持ってる可能性はけっこう大きいかなと思う次第。