サギとチヌ


実家の小さな庭池に金魚が1ダースばかりいるのだけど… 1番にでかいのと2番めにでかいのをやられた。
春前より1羽のサギがどうやら紅いベべに気づいて虎視眈々に狙っているようだとは気づいてはいたから、簡易にネットをはったりして一応の防護を図ってたんだけど、やられた。

ごく間近に見るサギはでっかい。
細い足に細い首ながら、むきだしの精悍さに満ちていて、たとえば3メートル四方程度な檻の中で1羽と1人のボクが対峙するとすれば… きっとボクは負けるんじゃ〜なかろうかと… 思ってしまえるだけどの野生の兇猛をサギは秘めている。
そのサギ野郎だかサギ夫人だかがいつ紅いオベベの我が金魚を捕ったのかは判らない。
たぶん、早朝であったろう。
ネットは役にたたなかったワケだ。
腹立たしい。
以後、目的達成という次第か、サギはやって来ない。
来たら一発ぶん殴ってやろうと、柄の長い庭箒を用意してるんだけど、やって来ない。
サギに遭った… と自嘲するっきゃない。

連休の某日。
KATAYAMA夫妻からチヌを頂戴した。
ダンナのHiroshigeどんが手漕ぎのボートで岩礁に向かい、潮風に濡れつつそこで釣ったもの。
ボクはチヌという名よりクロダイという名の方を好む。
なぜって、その方が美味しそうに聞こえるから。
Hiroshigeどんが海から引っ張りあげたクロダイ(チヌ)はでっかい。
竿がしなって格闘したさいの釣りのワクワクな醍醐味をボクは味わえないけど、少なくとも釣った本人は手応えをまだ身体におぼえてらっしゃるであろう。
水中のハリ先にふいに到来する無から有の、むっちりした重量と抵抗の衝撃。
それを思うと… あの首長いサギもまた、紅い金魚めがけクチバシを水中に突っ込み、見事しとめた刹那には、きっと電流のような、してやったりの快感を駆けさせたのではあるまいか。
うむむ。


ジョバンニとカムパネルラが列車の中で会話したとがった帽子の鳥獲りは、たしかサギ獲りだったかしら。
そのサギは何だかペチャンコで、チョコレート味の菓子に同化し、また砂粒に同化し、星に同化し、やがて天の十字にと… 賢治曰くの"三次空間"の奇妙をよくよく味わえたもんだったけど、もう久しく読み返していないなぁ、『銀河鉄道の夜』。
あの生と死の交錯をボクは本当は好きでないのかもしれない、と思ったりもしつつ、ともあれ今夜はクロダイ肴にいっぱいやらにゃいかんな。
うん。やろう。
Hiroshigeどんの釣果を有り難みつつサギをうらみつつで、やろう。