岡山市民病院


場所を換え新造された岡山市民病院。
ボクが住まってる場所からは感覚としてズイブンに遠くに出来てしまったので、いささかペケな感じもあるけど…、行政が経営の大型病院が存続するのはイイことだ。
医療科学が発達するに連れて人間の寿命が延びて、けれどそれが財政負担になるという妙な構図ながら、生きうる市民すべてにオープンな市立病院は実にありがたい施設と、いまは言わねばならないだろう… な。



旧の市民病院に入院していた我が敬愛のアクター、福子さんも、この移転に伴い、ベッドの場所が変わった。
新オープンしてまだ数日。あんじょう、新造新築の匂いがあちらにもこちらにもあって、なんだか、旧の病舎から転移した入院者もリスタートの初々しさを帯びているかのようで、
「治癒も早まるんじゃないかしら」
な、錯覚すらおぼえる。
むろん、それは錯覚以外のナニモノでもなくって、傷病は病院の場所が変わったからといって即座に改善するものじゃ〜ゴザンセン。
けども院の場所が大きく変わり、病室の形も換気もが入れ替わって、何かÔ-NEWな感覚をおぼえるというのはマイナスでなくって大きなプラス感触ではあろう… と思う。



そのうえ福子さんはテッテ〜的に前向きな主義(タチ)。
即座の完治はいささか遠いかもな希有な症例とはいえ、
「ぁあ〜、脚がダメなの、もうダメダメッ」
とはならず、それならそれでと… 逆にいっそ車椅子生活を愉しむレベルで、スーパー・ポジティブ。
果敢に車椅子を操り、遊具をあたえられた少女みたいに炯々溌剌、共に乗り込んだエレベーターの中で回転してみせてくれたりもした。
当然に車椅子を押してもらおうなどとは、しない。



なんとも強い人。
同行のBARママとK君いわくの、
「福子さんは切り返しの速度が違う」
にまったく同感。この頼もしさにいっそ呆気にとられ、もしも自分が同じ境遇なら… こうはいくまい… あらためて戦慄に近い鮮烈をおぼえる。



病室から階下の食堂に移動し… ちょいとその場で、魔法使いの婆さまを演じてもらった… というのはウソだけども、なんだかこの写真に病人はいない。
我が友・悦チャンからもらったという安芸の宮島のシャモジ柄をうまく首に巻き、いるのは"悪い魔法使いのババ"ってな感じで、実に悪漢じゃなくって圧巻なパワフルウーマンなのだった。
脚を不自由にしたぶん、上半身の動きがいっそう女優的に成長してるような気もして、その身振りに、あ〜、いや、やはりこの人は魔女かも… と思わないわけでもなかった。
現状の日本映画界でボクが1番と思ってる原田眞人監督に、『狗神』という作品がある。
天海祐希のヌードが観られるのが得点ではなくって… 四国の山奥を舞台に日本の宗教観というか因習というか、濃く深い霧めいた日本特有の空気感を海外に向けて発信しようとした秀逸作(ベルリン映画祭で話題になった)。例の『犬神家の一族』(最初の版ね)と陰陽双璧をなす伝奇ロマンの傑作と思って久しい。
淡路恵子が出ていて、その因習あるいは因襲にどっぷりはまった血縁による差別構造の1つの典型ともいえる老女を演じているけれど… 我が福子さんがこの役を演じたら… いったいどれっくらいおぞましい感じが出せるだろうか、ひょっとして淡路恵子のそれを上廻るかも… などと、上の写真を眺めつつ大胆な空想を抱いたりするのだった。


ともあれ。
気がせく人でもあるから、いずれ車椅子も電気仕掛けでスピードが出せるタイプのモノを欲しがるんじゃなかろうか…。数週後にはさらに別な、これまた新造されてさほど年数が経っていないリハビリテーション病院に転院するけれど、その前向きさでもってブイブイやっていただきたい。



ちなみに。
大病院だの大デパートだのの食堂というのは、どうも気になる場所で… その存在じたいが好もしい。
ただ、それをレストランだのとは呼びたくない。
あくまで"食堂"と呼びたく、出来ればさらに"大食堂"とホントは呼びたいわけなんだけど、ま〜、新市民病院のそれは、そこまで広くはない。
なぜ惹かれるのか? 大病院や大デパートという特殊性がこの場合、食堂の名に光輝なコーティングを施しているんだろうか…。最近は1企業に過ぎないタニタの食堂がアレコレ話題になったりもしてるけど、タニタ・レストランではなくって、やはり食堂というトコロに何だか秘密があるようだけど、また長くなるんであえて追求しない。
けども、だいたいこういう施設の場合、"食券"と決まってる。
それがまた"食堂"を特性化してくれて好もしい。
ショクケンでなく、ショッケンと発音するのもオモシロイし、なんといっても販売機で券を購入した途端に大きな権利が保証されたみたいな安定と安心な感覚が生じるのも、好き。メチャに大袈裟にいえば、「もう支払い済ませてるんぞ」な王様気分がショッケンには、ある。
1つのクラスから上のクラスへの、いわば王冠、いわば通行手形みたいな、上昇志向を心地良く撫で撫でしてくれるようなトコロがある…。
それゆえこたび、イノイチバンで新造の食堂を利用してみたのだったけど、600円のリーズナブルなカレーはまぁ… 54点くらいかしら。
でも、せっかくの景色が眺められる場所なのにウインドウを全部ホワイトな不透明シールで覆っていて外界を遮断、すぐそばの岡山ドームの白いお椀も見られず、実に解放的でないのが残念なりであったからもう8点ほど引こう。
食堂に価いする程にメニューに幅がない(親子丼すらない)のがホントは1番ペケだったけど… ま〜、新規開店の祝いとしてこれは点引かない。