奇譚 車と自転車

市内某ミュージアムの前館長が自転車を譲りたいと、そう申し出た。
この御仁、ハイパー・レベルの自転車マニア。
他県某所で開催の"自転車を大事に乗ろう"といったイベントに講師として招かれるようなウラワザありの人。
申し出あったのは、数年前よりボクが、
「いいな〜」
と思ってた彼の、ピンクも眩いBon Vivantのフレームに、ブレーキワイヤーに至るまで全パーツを好みな豪奢に取っ替えてるミニベロ。
あちゃこちゃにカーボン・パーツ。安かろうはずもない。
それを○○万円で譲るというのだから、
「わお〜!」
なのだった。



が、しかし… まさにその時、同じ週、車が故障しちゃったのである。
すでに20年越えで乗ってるMINI。
さすがにこの歳月ともなると、毎年どこかに不具合が生じる。
つい数ヶ月前にも、エンジンそのものが脱落しそうなボルト1本外れました… を経験して修復したばかり…。
こたびはラジエーターがおかしくなった。
冷却水を注入しても、ものの20分でほぼ空っぽになる。当然エンジンは止まる。
1部で漏れが出たかと思いきや、超懇意にしてる英国車専門ガレージクラフトで見てもらうに、
「こりゃ漏水じゃなく老衰。ラジエーター系全体がイッちゃってるな〜。ホースにいたるまで全部取っ替えなきゃイカン」
というワケで、けっこうな大手術。
見積もり総額は15万に近い。
たぶん現在の国産車でこれくらいの修理費かかるなら、もう中古でよいから新しい車を… というコトになる人が多かろうが、ボクは… ヒストリック・カーと別れる気はない。



ただそうなると… バイシクルとカー、どちらを取るかという、悲しい選択を余儀なくされるワケなのだ。
お小遣いには上限があるんだ。月と火星は同時に買えないのだ。
ちなみに今もよく憶えてるけど、小学4年のボクの小遣いは月300円だった。当時は100円札というのがあって、この3枚は、子供のボクには巨額であり少額でもあって、なので80円の少年サンデーを買おうか買うまいか… 本屋(文房具が大半だった)の店先でいったりきたり… 動物園の檻の中の小熊みたいに、ものすご〜く逡巡したもんだ。
で、結局勇気をふるえず、次の日の放課後に本屋に行くともう少年サンデーはない。それで何か20円くらいの、甘い匂いのする半透明な消しゴムをフラフラ買って…、
「ボクは何をしてんだろう」
子供ながら哀しい自己分析をしつつ、消しゴムの匂いを嗅ぎつつ、背中が痒かったから家の柱に背をつけて、上下左右にふったりして痒みを緩和させたりしてた。
なんか… 感じがその時に似るこたびのバイシクルとカーの"騒動"…。



けども、上記の写真がiPhoneに届いたまさにその夜、偶然バッタリあったYUKKI-が、
「それ、欲しい!」
たちまち写真の自転車に惚れたのだ。
ちょうど彼女はスポーティなバイシクルを探そうかという矢先なのだった。
実に渡りに舟というか、いいタイミングで彗星のように尾を光らせて登場したのだった。
この展開をTVドラマにしたら、またぞろ、
「そんなご都合主義って有るもんかい」
なブーイングが起きるだろうけど、でも、これが事実なんだから、まさに奇譚というワケなんだ。



という次第で、MINIは車屋さんの工場へ運ばれ、変わりに代車が我がガレージに入った。
(ハッキリ申して近頃の軽4はデカイ。どこが軽かと訝しむ。ドアは4枚もあってハンドルは軽くてあれこれ至れりつくせりで、もう… まったくオモシロクない移動するがためのボックスだ。窓は自動で上がったり下がったりで、ハンドルくるくる廻して下げる必要もなくって、もはやまったくクダラナイ…。)


そして数日後、ピンクキャディラックなバイシクルは、YUKKI-に譲渡が、きまった。



めでたさと、多少のガックリとが、左右からからんで来るような不思議な顛末。
けどま〜、某ミュージアムのスタッフ出入り口界隈で試乗するYUKKI-の溌剌としたカッコ良さは、彼女に譲渡がきまったコトを大いに祝福すべきなイイ感じなのであった。
やはりこのボディカラーは女性に、それも彼女YUKKI-にピッタシキンコンカンに合う。



では、ボクの自転車はどうか?
いつものアシとして使ってるプジョーのミニベロ。
つい数日前のフライデーナイト、今年のジャズフェスのための会合を某所でやって、むろんお酒も大いにたしなむという集い。





20数名でガッツリ盛り上がり、日付けが変わろうという刻限で店を出たら、
「あ〜、カギがぁ〜!」
自転車のキーを含む鍵束をポッケに入れたつもりが、それは代車の軽4の… 鍵束なのだった。
大失態。大失敗。
よって、自転車は放置。店に預けるしか手がない。
トホホな面持ち。
そのあと、OH君たちと若干名で2次会で夜を煮えさせ、やむなくもタクシーで帰還。
乗車料金3000円弱… ぁああ、口惜しや。



翌朝というか仮眠後、まだ何となくお酒の感触が残る胃をかかえ、昨夜の店へ出向くべく、バスに乗っかる。
今度はホントの鍵束をポッケに。
解錠し、雨が落ちそうな雲空のもと、自転車回収して帰りましたとさ。


※ ピンクのバイシクルは1部のパーツをYUKKI-仕様に変更、サスペンション・システム付きのサドルポストなどに換えて、今週末に納車だ。
MINIも治って、大きな軽4は退場。
どこかで祝賀会をやろうと、ひそかに思わないでもない。