ザ・リガニーズ


夜中にベッドインして(むろんお一人で)、フッと歌の一節がよぎった。
「海はステキだな恋しているからさ〜♪」
と、ゆるやかなテンポ。


「ぁあ、加山雄三か〜」
ま〜、たいがいそれでオシマイ。寝て醒めたらもうそんなのは忘れてるけど、たまに憶えてることもあって、今回がそれ。
目覚めたら、
「海はステキだな〜♪」
がまた鳴った。
眠りが浅いのか?
が、この時は1番と2番の歌詞の合間にセリフがあるのを思い出してた。
「だって僕、泳げないんだもん」
というようなセリフが語尾にくる。
まさか海オトコの加山が泳げないわけはない。”だもん”などと… 甘ったるく結ぶはずもない。
それでたちまち、これが加山でなく、別の歌手だと気づいた。
記憶が混線してスリ換えがおきてた。


この曲が収録されたCDなら持っている。
これは… ザ・リガニーズさんであった。
『栄光のグループサウンズ総集篇』という、口にするのも羞ずかしいタイトルゆえ隠すように棚のすみに置かれたCDの中。
それで… ちょいと久しぶりに聴き、ネットで調べて見た。



ザ・リガニーズは早稲田大学フォークソング倶楽部にいた連中らしい。
在学中にスカウトされたか、売り込んだか… ともあれこのオリジナルはレコードになって全国に出てヒットした。
1968年のことだ。
アポロ11号月着陸の前年だ。
ビッグコミック」が創刊されてあのくだらない"ゴルゴ13"が登場し、川端康成ノーベル賞がおくられ、「出前一丁」と「サッポロ味噌ラーメン」が新発売され、ベトナムではソンミ村で米軍による大虐殺があり、米国内ではキング牧師が暗殺され、さらにロバート・F・ケネディが暗殺され、暗殺しにいったら逆に餡で殺されるかもな… 和田アキコがデビューし、民主党の鼻の大きいジョンソンにかわって保守の共和党で鼻がでっかいニクソンが大統領になり、タイガースは「花の首飾り」をヒットさせて加橋かつみが小さな鼻をピクピクさせ、青江三奈がアハ〜ンアハ〜ンと「伊勢佐木町ブルース」で悶えて、ビートルズが自分らの会社すなわちアップルを作って「ヘイ・ジュード」を出し、そのあまりの長さにラジオ局はどこで切るか大いに悩み、つげ義春の「ねじ式」に皆なビックリし、年末には「帰ってきたヨッパライ」が超大ヒットし、なぜか"アングラ"という一語が時代の先端と思われてしまった頃で、時の首相は佐藤栄作。この人に辟易して「少年サンデー」がこの人の顔を粘度で描いたような風刺画を表紙に刷ったりして… 出版社も元気に煮えてた時代。


バンド名は、ザリガニからとったそうである。
あの紅い大きなハサミを持ったアイツら。
ザ・リガニーズ。



いやはや、2本とられちゃったワ。やるじゃ〜ないか、47年前の早稲田大学フォークソング倶楽部。
後輩バンドにはエ・ビガニーズというのもあったそうで、こいつら… ぜったい当時ベンキョウしてね〜だろなの感想をニコニコ抱けるのだった。


ザ・リガニーズは3年ほど活動し、1970年に解散。
直後、レコード発売元の東芝(EMI)に卒業or中退で就職しちゃって、数年後には、「オフコース」という新人バンドのプロデューサー(この頃はまだプロデュースという単語がなくて"担当者")になったり、1部のメンバーは「猫」というバンドを作って吉田拓郎のバックを務めつつ、その吉田の書いた「雪」を唄ってこれも大ヒット、さらには、新たなレコード会社(フアンハウス)を作って、トワエモアやRCサクセッションや稲垣潤一館ひろしやらやらを見いだし… やがて後々、内1人は日本レコード協会の副会長だかになったりと、大いに活躍なさっておられるから、なかなかしぶとく生息する団塊エージのザリガニたちと、今、知った。


よしよし。
としか云いようもない。
Who's Who … というか、この音楽史がおもしろい。
と、などと書いて別にクスリになるわけもない。
けども、少しクスぐられるようなとこもある…。


ドーナツなレコード、CD、ついでデータ取得としてのiTunesのダウンロード。
音楽を聴く環境はすごく変化した。
でもって今、そのアップルがストリーミングによるApple Musicをスタートさせ、音楽の聴きよう、摂取方法に変革をもたらそうとする。
月額1000円ほどで10万曲ほどを提供するというが…。



う〜〜〜〜ん。
それ、いいのかな〜?
たいへんに何だか、それは"流れに組み込まれる"みたいで、ボクは警戒する。
月々1000円ほど払って、ただもう音楽をあたえられるダケなのかしら、と警戒する。


そも、ストリーミングゆえ、月々の支払いをおこたると、ボクの手元にはなにもないことになる。
楽曲いっさいは手元でなくアップルのサーバ上にあるきりだから、聴けても所有してるわけでない…。
かりにボクが死んでしまうなら、このボクの周辺には音楽はなかったというアンバイになる。
今日ここで取り上げた、ザ・リガニーズも… (Apple Musicにこれがあるかどうか知らんが)ないことになる。



遺品として、それは残らないんだから。
残るのはただクレジットの支払い額面とその時期明細、のみ。
生前のあの人が何を嗜好していたか… なんて〜ことはストリーミング視聴じゃ、もはや、わからなくなる。
なので、う〜〜〜〜ん、アタマをかいて否定感を濃くする。
いよいよ音楽に… 重さをかんじられなくなる。
いまだボクは、もはやLPを買わないにしろ、曲の背景にLPの重さや紙ジャケットを感じ、手の上の重みを好む。そのメカタそのものがまたボクの"音楽"という感がしないでもない。
Apple Musicにメカタはなくって、遠回しに云えば、毎月1000円で聴けるラヂオに過ぎない。
ラヂオに1000円?
あがた森魚じゃないけれど、
「ラヂオ? だって… ムセンだろ?」
と、首をすくめる。


いや別に、ザ・リガニーズの楽曲収録の『栄光のグループサウンズ総集篇』を持ってるのを自慢したいワケでなく、ましてや加山雄三のCDも隠し持ってることを、ことさら、ここで吐露したいわけじゃない。
要は、ベッドインで浮かんだフレーズをはばたかせ、今の音楽販売の前線に違和感を抱いております〜、なハナシ。Apple Musicは音楽をより身近にするモノと評価できない。むしろこれは音楽を雑音化させるダケのようだと… 心細い。