西方最大離角

朝4時頃から夜明けチョイ過ぎまで、東空で目立つ光点2つ。
金星と木星が隣接、眩いくらい輝いてる。
これはなかなか壮観というか、極上の宝石を眺める… って感じで豪奢を味わえる。
加えて多少の不思議もおぼえる。(右が金星-下写真ブレてますが)



金星は地球より太陽に近い位置で周回しているから、地球から眺めると太陽に寄り添ったカタチ。
なので真夜中の真っ暗闇の中で金星は見られない。明けと宵いの僅かな時間、太陽が没した頃合いでしか眼にできない。
すでに昨日になってしまったけど、この10月26日は、太陽と金星の位置関係が、ベチャっといえば、イチバンに離れる日であった。
西方最大離角、という。
サイホウサイダイリカクと読むのが正しいのだろうけど、ボクはニシガタサイダイハナレカクとおぼえてしまった…。
天文用語としてこれは比較的新しいらしいが、とにかく、金星がけっこう高いところにまで昇る、その現象をいう。
必見。
東から昇ってくるのが何で西方なのかというと、これは太陽からもっとも西側に離れる位置というコトなので、東方から昇る見かけと語彙はチャンと一致しているのだ。



※ 探査機マゼランからの映像 (C)NASA


で。
かたや遠方の木星
こちらは地球のはるか外側でもって太陽を廻っているから、真っ暗闇の夜中でも単独で見られる天界の王。
その、遠方の超巨大な木星と、やや近いところの小さな金星とが横並びになって、まるで同じショーケースの中に展示された宝石のように… 見えるのがオモシロイ。そこがなんだか不思議というわけだ。
太陽は東の地平下にあって御尊顔をお隠しになっているけれど、この両星を光らせているのが太陽なんだから、その光量のもの凄さったら… ありゃしない。



※ 上の金星写真と比率は同じでない (C)NASA


太陽の光量を表現する詩的な言葉を、たぶんボクら地球人はまだ持っていない。
1000名を越える客が入ったコンサート会場の照明の目映さは、ステージに出てみなきゃ判らない性質の眩しさだけど、実のところ、ステージから客席は照明の強い逆光ゆえほとんど見えない…。
スターは照らされ、スターからは客席が見えないという奇妙な現象だけど、そのステージに使った(たとえばついこの前の下石井公園でのJAZZ UNDER THE SKY)大量の照明装置を木星に向けたって、それで木星が反射して輝くワケはない。この岡山でローソク1本に火を灯して、650Km向こうの東京を照らそうとするよりはるかにはるかに… 文字通り、天文学的に劣る。
比較にならない。
という次第で… 太陽照明によって金星も木星も地球も輝く。



肉眼では眩いタマ状にしか見えないけど、天体望遠鏡で見ると、図示のように、いま金星は左側の丸みのみ浮き立った弓張形(下弦)に見え、木星はといえば、ガスの雲がやや傾いているのが観測できるはず。
いかんせん、ボクは天体望遠鏡を持っていないので残念… iPhoneで1枚パチリくらいしか出来ないけど、な〜に、写真なんか撮るよりは、しばしボ〜ッと2つの光点を眺めるのがよろしいな。
闇の中のこの2つの光り物に太陽を感じるわけだ。


ちなみに、はるか遠方の木星からは、逆に当然、金星と青い地球が横並びになって眩いことになっているのが、見えるだろう。
もし木星人がいるなら(いね〜よ〜)… 白球のような金星と眩い青の地球にいささかなポエジーをおぼえ、
「古来むかしよりこのシーズンのあの2つを、姉妹星というとった。鯖がうまくなる頃合いに青い方が一段に光りだすのじゃ…」
なんて〜、学校で教えてたりしてないか(ガッコウないない)。


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え〜い、ついでだ… 木星人のための授業…。
地球における月のカタチと呼び名のおさらいだ。



上の絵、これを三日月と云ったり思ったりするのは大間違いだから気をつけよう。
これは二十六夜というのだ。欠けて見えなくなる5日前の姿。出没時間は夜中の2時くらいから。



三日月はこれ。
新月(見えない)から3日めの月はこのように左側が影になる。
でもって、これは西の空に昇る。東には昇らない。
とにかくポイントは左側が見えないこと。それが三日月だ。
(満ちつつある月は左がみえず、欠けつつある月は右側がみえない… と憶えておくのもヨロシイ)




吉田拓郎の歌に、「浴衣の君はススキのかんざし」にはじまり、途中に「上弦の月だったね〜♪」というのがあるけど、それはこの上図のカタチだ。
満月に至る真ん中8日め、左半分がまだ見えていないのを上弦の月という。
これは真南に出る。
したがって『旅の宿』は、秋(おそらく11月)の7日か8日頃に彼女と旅し、旅館の部屋は南向きだったという"記録"でもあるのだ。



さて、こちらはその反対、下弦の月
満月になってから徐々に欠けだしたちょうど真ん中をいう。
東から昇ってくる。
二十三夜ともいう。あと7日で月は晦日(つごもり)ないし三十日(みそか)となって見えなくなる。
注意を要するのは、上弦の月下弦の月、ともどもに弓張月(ゆみはりづき)とも呼ぶこと。まぎらわしいが、昔からそう呼ばれるんだからしかたない。


江戸の時代に曲亭馬琴が創った『椿説弓張月』(ちんせつ ゆみはりづき)は後に三島由紀夫が歌舞伎の通し狂言に仕立て直したりしているけど、この場合の弓張月は上弦か下弦か? これは難しい。なぜならこの場合、弓張月は物語の主人公・源為朝(ためとも)が弓の名手で、その弓でもって戦もする歴史物語なのだから、ここでは弓の形状が筆頭にあって、なので、上弦でも下弦でもどちらを向こうが別にヨロシイという次第なのではなかろうか…。
ちなみにこの歌舞伎で三島は、為朝の本妻役として19歳の新人の美青年を抜擢。この人の姿カタチの美麗に主役の松本幸四郎(8代)がくわれてしまって、文字通りな"椿説(めずらしいハナシ)"となって歌舞伎界に激震がはしり、ポスター・デザインの斬新とあいまってヤンヤヤンヤの大評判となるのだけど、それが今の坂東玉三郎であり横尾忠則だ。


以上、木星人への簡単な地球ガイド。お越しになったさいの天体的事象の参考に。あわせて爆買いは程々に。