ふくよかな耳たぶ


児島の「旧野崎家住宅」に出向く。
この日たまさかにOH君のライブが重なってしまったのだけど、詮無きこと。不在恐縮ながら… で児島へ。

江戸時代に干拓とそれに伴う製塩業で財をなした野崎家の、その邸宅。
敷地3000坪。
母屋の中座敷から向座敷までがザッと42m。襖を開けきった空間を眺めると、何やらタイムトンネルめいた奥行きを思わずにいられない。襖を閉め切ってここで鬼ゴッコでもやったら、28年めにやっと「見ぃ〜つけれられたぁ〜」、なんて事も現出しそう。



この日はたまたま「モンカーダこじま芸術祭」のオープニングデーで、同屋敷庭園では、舞踏家の小関すまこが舞い、ちょっとお得を味わった。
後頭部に妖女めいた面を付け、時に彼女は背中側で踊る。1人の女の中のもう1人の女というあんばいが巧妙で、つい魅入らされた。
しかし、モンカーダって何じゃろね? チラシには6回目とあり、県知事のアイサツも載ってるけど、意味不明。



野崎邸での目当ては茶室。
同家には3つの席があって、保存具合がよい。
小高く築山された頂きの僅か2畳の「観曙亭(かんしょてい)」は外観を眺めることしか出来ないけど、「容膝亭(ようしつてい)」、「臨池亭(りんちてい)」はそばに寄って躙口(にじりぐち)から中を覗くこと可能。
※ ニジリグチというのは客人が入室するための小さな入口、ね。



観曙亭

これは臨池亭

臨池亭の内部


この日は風こそ冷たいものの良く晴れていたのだけど、予想した3倍ほど… 茶室の中は暗い。
見学用にと明かりが灯されているが、これは無粋な配慮。オシャレに置かれているものの、茶室はその暗さゆえに、わずかに入る外光のうつろいを感じる仕掛け… そこにこそ"美"有りという次第をこそ、見せて欲しかった。



事実、茶室の外壁では陽光が光と影を織りなして一瞬ごとの"景界"を見せているんだし、これが茶室内ではどのように"演出"されるかが要めではあるまいか。そこは光との一期一会の空間でもあるんだから、な。

ま〜、けれど、野崎邸では、個人が3つも茶室を持つということに強く感じいった。
半端でない商家なのだから土蔵が林立し母屋も書院も台所も規模でっかくて、全体からはいささかハードな感が伝わってもくるけど、敷地端の庭園、露地、茶室… の空間はソフトに膨らみ柔らかい。



マップ左端のグリーンの表示が茶室3席の空間


それで今回のタイトルを「ふくよかな耳たぶ」とした。
ま〜、そのように感じたというだけのことだけど、その耳たぶを極力に質素シンプルに佇まわせる思考と思想の奥深さというか抽象化に、茶の湯の醍醐味と凄みを思わずにはいられなかった。
この3席は、速水流家元の指導があっての造築らしきだけど、高低差をつけた凝縮率の高さも素晴らしい。
観曙亭と容膝亭の合間に設置された待合に腰かけ、しばし、ボ〜〜っとしつつ、茶事に招待された客人の気分を味わってもみた。
しかし当然ながら作法を知らないからね…、ホントに招かれるとホントは困るんだけど、茶の湯の空域に身を置いてみると煽情され、気持ち良いあんばい。


野崎邸を出たあと、倉敷在の友人夫妻と会食。夫妻の車で移動。連れてかれたのは、なんだか山の中。
そんなところに店があるんかいや? と思ったけど、ありますアリマス。
陶芸家ドン・パーカーさんと、同じく陶芸家の何たら女史さんとそのマザーらしい方が運営の店「ヒュッテ」。



家屋も食器もいっさい手作り。店内全域がお2人の作品や創意工夫で満たされ、いわばアートなワンダーランド。週に3日か4日だか、それもランチタイムのみという営業。
そのうえ、メニューなしのお任せ料理。こちらはドリンクとデザートのみチョイスする。
しかも、料理は野菜モノが中心。
しかし、これが美味かった。
ボリュームもあり、ブロッコリの芯の部分をフライにしたのとかに意表をつかれる。食器も個々味わいあって良し。オネダンも良し。
窓際のカウンター席なら児島(?)の町をはるか下方に眺められ、これも良し。
良しヨシずくめ。



そんなんだから隠れた名店(?)なんだろう、予約なしではお席の確保がむずかしい感じ。ボクらが食事してるさなかにも4〜5組な人がやってきたけど、ガックリ肩をおとして帰ってった。
そんな気の毒な方々をチラリ横目に入れつつ、こちとら箸を動かしつつ話がハズムの弾みぃ〜グルマ。
たっぷり時間かけ、たっぷり食べて、お腹はダァ〜ルマさん。
ふくよかなのは耳たぶだけでない児島界隈。