黄葉亭 ~日生方面にて~



日生の、おそらく当地カキオコの店としてはイチバンに駐車スペースの広い、"ともひろ"でカキ増量のお好み焼き。
ぁあ、うまい。
しかし…、カキオコにビールは必需。
同行者の美味しそうなグラスを眼の前にこちらはドライバー、グッとガマンでノンアルコールのオールフリー。擬似ドリンクでノドごまかす。



食後、「港の見える丘公園」に登って、眼下を見下ろし、
「丘じゃ〜ないよ、山だよ」
と笑いあい、下山し、ほど近い、BIZEN中南米美術館(旧森下美術館)で、数時間。
古代中南米の造形力にただもう感嘆。
アートの真髄を体感… というようなペチャンコな感想は止す。
滑稽をカタチでみせるディフォルメのうまさに、あるいは、軽妙でもって事物をとらえた妙味に、
「うふ〜」
舌を巻いて、うなる。



ここはミュージアムでゴザイ… な傲慢の堅っ苦しい気配のなさもラテンっぽくて気分がいい。
それゆえ、併設で喫茶室みたいなのがあればな〜、ともチラリ思ってたら、館の女性がティーをふるまってくれた。すばらしい。
カチャマイ茶、というらしい。
味わったことのあるような、ないような、いささか不思議な味の茶だった。



その良い気分を抱えるまま、閑谷学校に足を運ぶ。
目当ては学校ではなく、渓流沿いの脇路を山に向け歩くこと5分。
ポツンと佇む小さな茶室。
黄葉亭(こうようてい)。
文化10年(1813)に造られたというから、閑谷学校を建てた津田永忠の時代じゃ〜ない。
津田は寛文時代(1670年代)の人だから、これは閑谷学校が出来て200年が過ぎた頃のもの。
たぶん、ここに来た人の多くは、そこを誤解する。
津田永忠の住宅跡にほど近いので余計、津田が建てたと誤解する。



岩の上に無造作に乗っけたような、見事な造作。
2本の渓流が合流する絶妙な場所というのもポイントがでっかい。
よくぞ…、このカタチで、もう204年も…、と思う反面、はたしてそうかな? どこかの時点で建て変えがあったのじゃなかろうか…、とも思ったりするけど、そこの詳細は、ま〜、ボクにはどうでもいい。
深閑とした佇まいに、ただ感心を凝縮させた次第。
この日は渓流の水も少なく、風もなく、小鳥がさえずりをやめると、ともすれば無音。
シ〜ンという音さえ聞こえないアンバイで、しばし黙り込んでSound of Silenceを愉しむ。



学校講堂からおよそ500mの場所という点が"幸い"して、ここを訪ねるヒトがいないのもヨロシイ。
柵がはられて中には入れないけど、独り占め。
ボクが小学生だった頃には、柵はなくって、まだ文化財保護の対象ではなかったような気がする。記憶をまさぐると廃屋の1語がボヨ〜ンと浮いてくる。


新造の案内看板があって、「来客の応接や教職員・生徒の憩いの場として建てられた」と書かれてる。
これは…、ちょっと安易な感がしないではない。
お江戸の時代、上下の区分けが尋常でなかった頃に…、生徒に茶室を使わせるとは…、思えない。
憩いの場という表現も、”茶の湯”の真髄から乖離し、この表現では決定的に何かが剥離している。
憩う場か? むしろ使用者のアイデンティティーやモチベーションを昂ぶらせる装置ではなかったのかしら? 
などと妄想した。



かの江川三郎八が明治になって造って今は資料館になっている古き良きな校舎内の、その展示の1つに黄葉亭の内部図面があった。
4畳半。中央に炉があるしつらえ。
本格な茶の湯空間だったのが、それで判る。
それでいっそ、「憩いの場として建てられた」というのにクエスチョンを鮮明にした。
なるほど茶室は茶をたしなみ、四季を感じ、あるいはそれを演出し、作法を通じての親交の場でもあるけれど、根っこの精神部分では茶室空間は思惟の決断と覚悟の場…、憩いの喫茶ルームじゃ〜ない。
ましてや閑谷学校儒学に律儀にして全開の場であったワケで、生徒に憩わせるという発想があったのかしら? と重ねて思うんだった。
看板をウノミせず、ここは見方を変えた方がいい。


現在は学校探訪者のために、けっこうな広場が駐車場になっているけれど、かつてそこは何であったか?
当時の図を眺めるとソク判る。
茶畑なのだ。



茶がどこで使用されるかは自明だろう。
生徒が黄葉亭を用いたというなら、それは憩わせのためじゃ〜ない。
儒学思想で足場を固め、ついで武家の者として必須な教養としての茶の湯を体得する場、茶の湯の入門場だったと解釈すると、全体の絵が見えるような気がしないではない。
そうであるなら、閑谷学校には茶の管理者や茶の師匠(茶頭)もいたはず…、総合学習センターの趣きだ。



上は浦上春琴が描いたと伝わる黄葉亭絵図。茶室は壁が描かれていないけど、二股の渓流のスガタは今も同じ。
今回はじめて気づいたというか同行者が指摘してくれたんだけど、渓流の岩が黒い。反射のない漆黒。
さて? なんでだろ…、水質によってか。