さよちゃんが嫌いです

今から概ね2ヶ月先の、某ミュージアムで展示予定の模型製作をば、はじめる。
といって、以前に展示されたこともあるモノの修復改造がメイン。
1部パーツは金属に置き換え、部分そこかしこをつつく。
こういう作業は…、気分がなかなかノラナイ。
点数も多いのでそこも考慮し、それでいささか足早に作業開始の次第。
パーツ新造はあんがい容易だけど、旧に新を加味する頃合いと調整がメンド〜だ。
それは、パッと見では判らない程度の差なんだけど、工作する当人には波高し。新作を1つ造り上げるより、燃やさざるをえないエネルギーが過剰。
それでノラナイわけだけど、ま〜、エンジンをかけて只今は温まるのを待ってるというアンバイ…、かな。



閑話休題にして本題。
この数ヶ月毎夜、晩ごはんを食べる時、amazonのプライムビデオを観てる。
1日1話を厳守で、
『忍者ハットリくん
これは全話、みた。
『21エもん』
これも全話、みた。
で今は、
一休さん
だよ。
昔のアニメーションばかり。
ごはん食べ食べにだよ。


愉しんでるぜ〜! 
と云いたいところだけど…、そうでもない。
毎夜に接すると、面白さよりも、辛辣含みな見解でもってゴハンを食べ終えるというコトの方が、だんだん多くなる。



『忍者ハットリくん』の場合は、物語そのものが破綻してることが多くて、脚本家のセンスのなさが際立ち、せっかくのキャラクターを活かせてない。
ハットリくんの弟のシンゾウくんが、
「この子がウチにいたらなぁ〜」
と、そう思うくらい素晴らしくかわいいキャラなんで、余計に残念だ。




おまけに、のび太くんじゃ〜なかったケンイチくんが恋してる夢子ちゃんというキャラがてんでサッパリで、イライラさせられる。
この娘はアホ〜でワガママで、ケンイチくんはこんなのに夢中になっているようでは、いかん。
またそれを幇助するハットリくんも、いけない。
こういうのに接してると歯がゆいんで、硬いモノ囓りたくなる。
そこでホザキつつ、厚めに切ったおコウコ、バ〜リボリ囓ってたわけだ。



『21エもん』
意外や、しっかりした成長物語。
1話完結ながらもストーリーがしっかり続き、大団円をむかえる。スジの通った脚本が素敵。『ドラエモン』みたいに何時までも続けようという番組でなく、青春物語として区切りを入れてるのが、よかった。
隠れた名作…、といってもヨロシイかと。
ただま〜、何というか、それほどの良品ではあるけど、妙に印象に残らないのがいけない。グレシャムの法則の"悪貨が良貨を駆逐する"みたいに、この『21エもん』より『忍者ハットリくん』の方が印象にとどまるというのが不思議。
良い子はめだたない…、んだ。



一休さん
第1話から、"中央児童福祉審議会推薦"なるアリガタイ推薦付き。
なんじゃいそれは? と調べてみるに、当時そういう審議会が文部省内にあったんだね。
けども事前にその審議会がアニメーションをチェックした上で推薦した…、という次第ではなかったようで、じゃ何で? と訝しむに、『一休さん』の番組スポンサーは、モーターボート・公営ギャンブル日本船舶振興会
A級戦犯容疑とか右翼の大物とか慈善の人とか、何かと明暗ありのウワサだった会長の笹川良一自身が登場して、「一日一善」とか「おとうさんおかあさんを大切に」とかの、アレだ。
長期の番組となったんで途中からは東芝がスポンサーに変わったようだけど(審議会は今はない)、なんだか推薦にあたり、配慮というか、ソンタクっぽい裏事情が見えもするけど、42年まえ、1975年の番組なんだから(82年まで続いた)いまさら、それはどうでもいい。



どうでもよくないのが、さよちゃんというキャラクターだ。
この子が…、とにかく好きでない。
典型的な幼児的アニメ声なのがまず鼻につく。その声で大人びた発言だから虫酸がはしる。
たぶん、このさよちゃんあたりが今に至るロリータ系列な声優のスタートなんじゃなかろうか…。いまだ、馴染めないなぁ。(笑×1)
なにより、この子がいつも寺にいるのが、いけない。
僧は女人を遠ざけるが基本の時代だ。
むろん、史実の一休は年をとってからそこを打破し、盲の女性を愛人にして憚ることをしなかったワケにしろ、当時の史実として、室町時代のお寺が全面的に女人禁制というワケではないけど、四六時中、娘っこが寺に出はいりしちゃ〜いけないのだ。
禅の修行中にやって来て横から話し出すなんて〜のは、もってのほか。
ましてや一休にともなって足利将軍(義満)の面前に出たり、一緒に花見に出向くなんて〜ムチャは、ない。(笑×2)
子供番組なんだからイイじゃん…、と、甘やかしてはいけない。
つけるウソとつけないウソを混同してはいけない。
第2話か3話で、彼女が亡くなった母親の形見の櫛を大事にし、貧農ながら祖父と慎ましく暮らしてるという描写があったから油断してるうち、この子ったら、祖父の手伝いもせず寺に入り浸って、住職にタメグチをこぼす程に増長するんだから始末が悪い。(笑×3)



さよちゃんに次いでダメなのは、装束だ。
これは室町時代中期の話。
なのに衣装や男性の髪型が、江戸時代中期以後のカタチで描かれてたりが多く、
「うわっ」
晩ごはん食べつつ、
「なんじゃ〜今のは?」
悪態ついて、ついごはんをもう一膳…、食が進んでこまるのだ。


以下、今後はじめて『一休さん』を観る方のために、チョットだけ、史実がらみでモノ申しておこう。(笑×4)



● まるで足利義満(第3代の足利幕府トップ)の住まいのように常に出て来る金閣寺
彼が住まったのは通称「花の御所」とも云われた邸宅で、これは京都市内にあって、東西一町南北二町という広大さ。要は公家のトップたる天皇に対抗してのデモンストレーション、「権力を握ってるのは足利家ですぞ〜」と見せつけてたワケですな。
全国から取り寄せた花々を活け、天皇の御所より絢爛を演出していたのが「花の御所」。
義満が所在する場所としてアニメーションで頻繁に出てくる金閣寺は別邸(別荘)であって、常の住まいじゃ〜ないし、金閣寺鹿苑寺)の呼称は義満が死没してからのものだ。
実際の一休が生きていた頃は息子の吉持(よしもち)がトップにいて、義満は頭を丸めて隠居の身だけど、ま〜、このアニメーション上ではそこはどうでもイイ。
けども、公家VS武家のポジション・バランスが実に危うい時代のさなか、それも京都という小さな場所での、その狭間に置かれたお寺と一休という存在を描くには、例え子供向けアニメーションとはいえ、も少しリアルに描いて欲しいような感が、ぬぐえない。



※ 『洛中洛外圖』に描かれた「花の御所」


● さよちゃんの重ね着。
室町期の庶民の衣装は実はあんまり判っていない。けども重要な資料はあって、それは『おあむ物語』という。
おあん(む)という、関ヶ原の戦いから江戸時代初期を生きた女性が綴った文章だ。公家でもなく武家でもない、ごく市井の庶民の記録。読み書きの出来る庶民は稀な存在。しかも女性が日常を綴っているから貴重なのだ。

おれが13の時、手作りのはなぞめの帷子(かたびら)1枚あるより他にはなかりし。その帷子を17の年まで着たるによりて、脛がでて難儀にあった。せめて、脛の隠れるほどの帷子一つ、欲しやと思うた…。

要は、彼女は13から17までただ1枚の着物しか持っていないワケなのだ。
帷子とは裏地のない麻の単衣(ひとえ)で、基本は夏から秋にかけて用いるものだけど、彼女は真冬も真夏もそれ1枚で暮らしているワケなのだ。しかも自分で作ったという。ただ縫い合わせたのではなく生地そのものから作った着物、なんだ。
問題は、おあんが超貧乏な家ではなくって武家階級にも接っする部類の農家の娘だったということ。
公家や武家以外は、概ね衣類は自分(主として女性が)で作るものだったんだ…。



室町時代よりはるか後の庶民がそ〜だったワケだから、さよちゃんの着重ねた衣装は、100パーセントありえないのだった。
衣装図鑑みたいな本が今はそれなりに出版されているけど、そこに描かれているのはいずれも公家や武家のもの。国民の7割はそんな風俗とは違うんだ…。
だから、衣装でもって貧富の差、身分の差が露骨に出ていたのが室町から戦国の時代だったとも、いえるね。公家、武家、僧侶に神職、百姓、商人…。その衣装をみればほぼ即行でクラスがわかった。当然のようにそこから差別意識も色濃くなった…。
そんな時代のさなかの物語として、さやちゃんの重ね着は…、あまりに違い過ぎなのだった。



● ちょんまげ頭。
これの歴史はあんがい古い。平安時代に既にあったようだ。
頭髪薄きな御仁が苦肉の策として考案というのがカタチの基礎だったかもしれない。
けども実際のところ、そのカタチに髪を結うには額の上からテッペン辺りまでの髪を剃る必要がある。とても好く研がれたカミソリないしは小刀が必要なんだ。それなくば頭が血まみれだよ。
そのような高額かつ手入れしなきゃ〜いけない小刀を持てる人は、室町時代にゃ少ない。それ以前に、この時代の民家(お百姓の身分)では一家に一つ包丁があったワケではない。
鉄器(貴重品!)の刃物は家長たる夫が1本を所持している程度で、だから夕食のダイコンを切るには、家長自らが切り分けてやる…、というような時代だった。(『日本文化の原型』青木美智男著・小学館
だから、武家以下の身分の方々には、伸びた頭髪を後部でまとめてくくれはしても、まだまだ縁遠いのが"月代(さかやき)を剃る"という行為だ。一度そのスタイルになると毎日お手入れも必要だ。ということは多少にユトリのある人でないと出来ないのだ…。
庶民が、日々、頭髪を気にしてるような時代ではなかったともいえる。
一休さん』の登場人物たちはそこがメチャで、これがど〜にもヨロシクない。
平成の現代を描く番組に足にゲートル巻いた復員軍人が多数に出演してるみたいな…、けったいなSF映画を見るようで…、ま〜ま〜、今となってはそこがおかしいので、以上、スケッチしてみた。


その可笑しみを"愉しんで"るというのが、我がプライムビデオ視聴の実態かしらね。