近頃のスケッチ


休館日のミュージアムはほとんどの灯りが落とされて、暗く、音もなく、いささかヒンヤリとして、奇妙な感覚をおぼえないでもない。
とりわけこの日は、"岡山における妖怪"などを扱った展示が終了したばかりだったから、パネルやショーケース内から妖気が醸され、奇妙さが余計に増してた。
とはいっても、妖怪が怖いのではなくって、通常なら人がいる空間が暗くガラ〜ンとしてる不気味が面白いという程度のこと。"学校の怪談"が成立するのは、たぶん、そんな事情による。


この15日からはじまる展示のためのモロモロの1部を納品のため、そんな空間にいた。
休館とはいえミュージアムには学芸員ほか複数の人がいて、整理や準備に忙しい。
というか、休館日でもってミュージアムは「歩」を進めてるというのが実体。休館してNEWやRENEWが産まれるワケだから、休んで眠ってるんじゃ〜ない。


公開数日前にもう数点納品しなきゃいけないけど、聞けば、この企画ではおよそ300余点のモロモロが並ぶそうな…。
当方提出の展示模型は全部で10点ほどだから、多く(模型ではないモノたち)に埋もれてしまうかな…、などと寂しい邪念が浮かないこともないけど。
(今回提出の模型は岡山の路面電車たちでござい。岡山シティミュージアムで9/15より公開)



ぼくは鉄道マニアでも鉄道オタクでもないけど、岡山というローカルに鉄道が敷かれて早や100年越え、というのはケッコウ意識している。
そのヒストリー、わけても黎明期の頃には特に興味をおぼえる。
岡山に鉄道が敷かれ、岡山駅(当時は岡山ステーションともいった)が可動したのは明治24年の3月。
その翌年の同月にかの亜公園がオープンしたから、そのからみもあって余計、興味の線が太い。
その最初の列車では、1部の乗客が草履やゲタを脱いでプラットフォームに置いて乗り込んだ。
だからアトで困ったという、今となっては苦笑もできないハナシがあるようだけど、まんざらウソ話ではないようだ。
おそらく、鉄道がはじめて開通した全国津々浦々で、この珍事は起きたとも思える。
シューズをつけたまま土足で上がり込むという慣習など、明治半ばにはまだなかったワケだ。土蔵のような倉庫的構造物はのぞき、自分の身を置く場所としての常識として、ありえないワケなんだ。
で、列車が動くや、当然シューズは置いてけぼり…。
「自分の草履をどうしてくれる? 草履はいつ届く? どこで受け取るの?」
鉄道員に詰め寄る客の激昂と未開、困惑の鉄道員の顔色の中の呆れと腹立ちが、油と水の分離みたいに、眼に浮かぶ。
たしか、岡山始発の最初の大阪行きの列車は、なんと2時間近くスタートが遅れたらしい…。
その2時間のうち70分くらいは、個々の客への、
「履物は脱がないで」
の説明に要されたんじゃなかろうか…。電化は遠い先、車内放送はまだ発明されていず、対応は駅員の肉声、マンツーマンでの応対だけだからね。
新たな文化導入というのは、たぶん常にこのようなケッタイが起きるんだろう、ね。
ぼくは、この…、"未知との遭遇"でのケッタイに興味をもつの。



※ 戦後の岡山駅前路面電車(おそらく昭和20年代末頃だろう。むろん、誰も靴を脱いで乗ったりはしない。


納品後、次の講演の日程調整と打ち合わせ。
新たな模型を1つ造るコトになるんで、悩ましい。
私事として、チョットめでたい席の進行役やら、アレありコレあり、しばし行事が続くことになるから、模型造りというか講演内容にまで…、な〜かなか考えが進まず、没頭できそうでない。
2本だての、ジャズフェス・イベントもやらなきゃいけないし。
いささか落ち着かない日が、しばしこれから、続く。



ビロードのケースに収まった豪華仕様の、ウォン・カーウァイ監督作品が複数入ったDVDを買ったけど、これはしばし観るのを断念しておこう。
キムタク君、見たいんだけどね〜。
しかしね〜、こんなゴージャスなミテクレにせず、廉価で売って欲しいもんだなぁ。



だいぶんと前に、ダイアナ妃の葬儀にまつわる映画『クイーン』の豪華仕様を買ったけど、それとてフタを開けますに、ダイアナ妃の写真集が入ってる程度のオソマツな豪華で、映画が描こうとした女王と息子の嫁(ダイアナ)のそれぞれの立ち位置での明暗なんかサッパリ示唆しない…、"憧れの皇室"的な仕様だったんでガッカリが相乗効果的に拡がったもんだぁ。
むろん、映画本編はなかなか良かった。当時のブレア首相役のマイケル・シーンが見事だったし、女王役のヘレン・ミレンがなんといっても素晴らしかった、



こういう"開けた"のはイビツが常体化した日本じゃ造れない…。ましてや皇室を扱うとなるとね。残念なこっちゃ。