このシーズンになるとアチコチの庭先やら道路の境やら、生垣の紅色が眼にあざやか。
うちの生垣も数年前から、このベニカナメモチがおごる。レッドロビンという名でも呼ばれてる。
廉価だし、強くてよく育つし、なにより新芽が出るこの季節となれば紅色というか赤色が濃く発色して眩く、冬が去って春来たりの変化をたのしめる。
日本にも昔から自生していたカナメモチと、東南アジアや中国にあったオオカナメモチをかけあわせた、いわゆる園芸品種だから、明治や大正の時代にはなかった樹木といっていいでしょう。
したがって、お江戸時代や明治時代を描いた映画なんぞで、これを登場人物の背景の生垣に用いてるようなシーンがあったら、
「ありえね~」
と、呟けばいい。
全体が紅く染まってこれから緑色に変化するうちの生垣のそばに庭池があるワケだけど、先日の朝に目撃するに、ツグミかムクドリか判別しにくいけれど、1羽が水浴びし、バシャバシャやってるのだった。
池中央に金魚たちの待避所っぽい空間を設けてるのだけど、そのコンクリート製のフラットな部分に着地し、そこでパシャパシャなのだった。
温泉でもなく、足湯を愉しめる場所でもないけど、鳥には都合のよい水の中の孤島には違いない。
しかしこれは……、金魚にはヨロシクない。
バシャバシャに脅かされ、萎縮して、水温がゆるんで遊泳出来る時間が来ても待避所から出にくい……、であろう。
さて困ったね。
野生の鳥たちとて、比較的綺麗っぽい水で身体を洗いたいだろうし、近場にこのような環境はないし、無下(むげ)にオッぱらうのもナンだし、さりとて金魚どもの生態を思うと、それはそれで迷惑でもあろうし……、悩ましい。
ま~、しかたない。
園芸用のネットだかを買ってきて、ひとまずは鳥の足場を阻害することにしよう。
「この池はおよしなさい」
レッド・アラートの意思表示。
しかし、たぶん、それは見てくれが悪いね。なんか、いかにもオサカナ飼ってます~っぽくて。
と、それにしても……、ノートルダム寺院の火事は、痛いニュースだな。
本来、あるべきでない色彩と熱に包まれたその姿には戦慄させられた。
ましてあの塔が崩落しようとは……。
遠い昔日に、ここのスーヴェニア・ショップで買ったお守りは、今も我が部屋にある。
買った直後の裏路地でジプシー(ロマ。フランス国内では2万人くらいが居住中)の子らに取り囲まれ、思わずカンフー・ポーズをとったら、子らが一斉に怯えた眼をはったのが昨日の事のように思い出される。かわいそうなコトをした。
すぐそばの本通りには観光客が群れて華やいでるけど、ほんの一歩入った裏路地には別空気の別生活が共存してるのだと知った、その驚きがこたびの火災で蘇る。
哀しいかな、寺院の炎色と我が宅のベニカナメモチの赤とが妙に重なってしまった。
多くのパリ市民は「歴史が消失した」と慟哭したけど、たぶんそうじゃない。
消えたのではなく、悲しい色で、歴史がまた更新されたんだ。
涙をふきふき背を丸め、愛おしさを込めて焼け跡から、過去と未来を拾い繋ぐしか、ない。
復興を願うばかり。