稗田礼二郎のフィールドノートより

 ウィルス騒動が全国区になってからというもの、何だか時間の経過がのろい。

 いつも時間が高速でとっとと過ぎてく思いでいたから、いささか妙。

 要は、停滞を肌が感じとってるワケだ。

 だから必然に時間が遅々・チチっと遅いと感じちゃう。

 1つには、ミュージアム展示予定20日から休館だ)で進めていた模型製作が騒動で中止になっちまったんで、集中すべきな時間が突然にポッカリ空白。

 時間に余剰が生じてしまった。

 そのぶん層が厚くなったというか、1mだった距離が1m数10cmに延びちゃって、その数10cm分、のろく感じているというワケなんだろう。

 こういう時は、ポジティブに事態をとらえ、余剰が出来たぞ、しめしめ、これは良い機会を得た、なんぞ有功に使ってやろうというコトになるのが普通なんだけど……、いま、普通でない。

 どこにもいけない。

 人ともあえない。

 スーパーの棚は微かだけど隙が出来、製造なり仕入れに支障がきたしてるのが、遠火のようにチラチラしてる。

 個人時間も社会時間も共々、チッ・ちっ・遅ッ、秒針回転が遅い。

 

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 映画館も軒並み休館……。

 大手のシネマ複合館に追いこくられ、そうでなくとも客足が少なかったメルパ岡山(ボクが好みにしている映画館です)は、

「岡山の皆さん どうか助けて下さい!」

 緊急支援を口にしてらっしゃる。

 ジョ~ダンきつい状況は冗談でない現実であって、この叫びはホントに酷烈。

 ホームページではあえて羞じも外聞もこらえ、■ メルパお助けチケット ■ を買ってくれるよう声をあげてらっしゃる。

 既に休館になってるけど、1階の窓口でこのチケット(1枚1000円で1年有効の入場券)を販売している。

 危機をのりきって欲しい。全席自由席の自由な映画館を応援する。

 

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 もちろんメルパ岡山だけじゃ~ない。個人商店の多くが”今そこにある危機”に直面し、酸欠で水面で口をパクパクさせて喘いでる金魚みたいなアンバイ。

 気が気でないけど自分に出来ることは極小。イジイジするばかりだけど極小のプレパラートの中で極大に両手両足を拡げて突っ張っていよ~。

 

 ここ1週間ほどは、ベッドに入るや諸星大二郎を読む。

 次いで、DVDで映画1本。

 異端の学者・稗田礼二郎を主役なり関連キャラクターにした一連の作品群。

 出版社はこれに”妖怪ハンター”というベチャな副題をつけてるけど、作者諸星は大いに不満らしく、単行本『海竜祭の夜』のあとがきにグチをこぼしてる。

 その気分、とっても良く判る。

 主人公は妖怪を狩猟してるワケでない。民族学と考古学の森林の奥の奥に深入りするゆえに怪異に巻き込まれ、魑魅なモノに出会ってしまっているというのがカタチの基本。

 だから作者自身は「稗田礼二郎のフィールドノートより」と副題をつけてらっしゃる。

 

 どの短編も傑作。万人が諸手をあげて耽読する内容じゃないけど、はまってしまうと、もう抜け出せない。

 着想、話のはこびかた、絵、いずれも弩級。わけても着想が常に高水準。想像の飛ばせ方に圧倒されっぱなし。

 

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 このシリーズは過去に2度、映画化されている。

 1本は沢田研二が稗田を演じた『ヒルコ』。

 ビデオレンタルというカタチの商いがスタートした頃の作品で、当時、VHSでなくベータ版を借りた。

 まだジュリーがスリムな体型であった頃の作品。なので随分と前の映画だね。

 原作にはないキャラクターの肉付けがあって、沢田演じる稗田はゴキブリが超苦手。その黒い姿を部屋に見るや狂乱してフマキラーをスプレーしまくって大騒ぎ。その滑稽味がけっこう良かったけど、いかんせん今はDVDも絶版。中古品にプレミア価格がついて1万くらいする。

 再見しようがない。

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 もう1本は『奇談』。シリーズ初期の『生命の木』が原作で阿部寛が稗田を演じる。

 これをこたび、はじめて観る。

 原作の稗田は髪が長いけど、阿部ヘア~は短髪。ビジュアルが違うけど構わない。いい味だしてた。

 けど本作は、原作にない女性キャラクターを創り入れたことで、主題に添わない話との二重路線になって逆にハナシがもつれ平坦、かつ説明的になっちまってる。

 その上、大学院生らしき女性を演じてるこの女優の演技が、演技以前でいけない。

 カメラを首から下げて寒村を歩くシーンでは、人さし指が常にシャッターボタンの上でコの字に凝固していて、見ているだけで痛々しい。

 ぎこちなくて硬く、出てくるたび、お芝居してま~すって感じで居心地悪い。かわいいから許しちゃう……、という気はおきない。

 唯一、浴衣で寝具に入って眼をつむって眠ろうとするシーンだけはホントにかわいくてチャーミングだったけど、ね、寝っ。それじゃ~ダメでしょう。

 彼女が悪いのじゃない。撮影に不慣れと思えるこのコをちゃんと導けない監督が、ダメ。

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 プロジェクターで観たけど、これは、小さいTVスクリーンで見た方が良いんじゃなかろうか。音作りも大仰で作り物じみ、全体に音のバランス悪過ぎ。

 良い点数はさしあげられない。

 という次第で、またベッドに寝そべり原作の方を食む。

 

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 去年の4月25日、原田眞人監督とそのクルーは『燃えよ剣』の撮影のため、津山にいる。

 津山鶴山公園の高い石垣を五稜郭に見立て、岡田准一土方歳三がそこにいる。

 津山市は市長を筆頭にビッグ・ウェルカムで歓待。監督の回想によれば、

「牛そじり鍋、ホルモンうどん、牛肉メンチ、おにぎり、美味。映画人へのローカルのサポートは嬉しい」

 とのこと。

 ウィルス騒動が終わってメルパ岡山で同作が公開されたらイチバンで観にいきたい、な。津山での撮影がどのようにCGが加えられて背景が北海道に変じてるのか、興味ワクワク沸きまくり。

 岡田はこの津山でのロケが出番のラストだったらしい。津山で締めくくりか……。岡田にとっては感慨深い地となってくれたらイイな、我が故郷ゆえ。

 ちなみに津山在住中はホルモンうどん、食べたことない。母親の実家の隣りがホルモン焼きの店だったに関わらず。