「のんのんばあ」の後ろに「捨石丸」

 8/20付けのこのブログで1冊の本が「探せない・見つからない」と嘆いた。

 それが出てきた。

 水木しげるの漫画。

 再読のために、探していたわけだけど、どこにあるやら皆目わからなくなっていた。おまけにブック・サイズもタイトルもおぼえてね~。

 それが、ベッドサイドの書棚、いつも眼が届いてるところにあった。

 その本は違う、と思い込んでいたもんだから、眼中に入れてなかった。

 とんだ、灯台もと暗し……。

 だって、そうじゃ~ないか。こんな表紙なんだ。

 

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 てっきり『のんのんばあ』の一連のシリーズのみが収録されている本だと、ま~、そう勝手に思い込んでたわけなのだ。

 ところがこの本、「のんのんばあ」は1/2ほどで、後半に、探していた水木御大の短編が複数、収録されているのだった。

 そういう構成であるのを、とっくに忘れ、「のんのんばあ」オンリーだから該当の本じゃ~ないと……、思い込んでたわけだから、腹立つというか、呆気にとられたというか、拍子抜けたというか、この3週間ばかりズッと探しては途方にくれてた我が時間って何やったの~、Oh,No!.No!.No!. なノー連呼。能舞台に立った歓喜もさめるOH NO NO。

 それら作品群は、水木御大のオリジナルと共に、古典の『雨月物語』や『春雨物語』から材をとって、水木風味に脚色したもの。

 さっそく久々、拝読。

 ぁぁぁぁあああ。

 やっぱ、良いなぁ。「のんのんばあ」も悪くはないけど、後半部に収録されたものは何れも粒ぞろい、滋味の濃さが桁違い。

 

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「捨石丸」、「二世の縁」、「目ひとつの神」(『春雨物語』より)

「青頭巾」(『雨月物語』より)

「偶然の神秘」、「徳兵衛と丸子石」、「へそまがり」、「蝶」、「偶然の神秘」、「錬金術(オリジナル)

 どれもが甘露、滋味たっぷり。

 なんで「のんのんばあ」とカップリングして1冊にしているのだか、理解しがたい。「のんのんばあ」もまた水木御大の傑作シリーズの1つじゃあるけれど、それが玄米茶なら、後半部の作品群は厳選茶葉な緑茶。

 ごった煮ちゃ~、いけね。

 おかげで探索に苦しんだヒトも、ここにいるわけで~ぇ。

 

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 ともあれ、眺めた、読んだ、久々に堪能の芯を燃焼させた。

 それで、書棚から古典を引っ張り出し、原作たるの小篇を幾つか拾い読んでもみた。

 やっぱ、良いですなぁ~。

春雨物語』、『雨月物語』ともに上田秋成の代表作じゃあるけれど、その中の「捨石丸」は妖怪が出てくる話じゃ~ない。ちょっとした行き違いによる誤解が招いた悲喜劇とでもいうべき内容。

 その原作を水木御大は脚色し、誤解による苛烈さを際立たせて結尾を少し変えて、ひょっとすると上田秋成のオリジナルを越える厚みをもたせるのに成功しているようにも、思える。

 

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「青頭巾」オリジナルはやや抹香臭い感じで物語が閉じられるが、御大はそうはせず、一種グロテスクな結末によって物語の中の僧呂のカタチを際立たせ、逆にそれでヒトの中の業の抽出に成功しているようにも、思える。

 それに加えて、主役の高僧がネズミ男の顔なのがいい。おなじみの役者が別演技でキャラクター幅をひろげているようで、いわば1粒で3倍のおいしさ味わうという豪奢。

 

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                   「青頭巾」の部分

 

 一番に好きなのは、「目ひとつの神」。

 原作オリジナルに沿うての猿やら兎の眷族どもの描写やら、目1つの神さんの描写が圧倒的でなんど眺めても感嘆する。柔らかなユーモアっぽい絵の根底にある”凄み”に圧倒される。

 

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 上田秋成も秀逸、水木御大も秀逸。

 一読者として、堪能すること、しきり。

 探し出せてホンと良かったワって~な、コロナ占領下時代の今日この頃。

 

 余談ながら、『雨月物語』三之巻に「吉備津の釜」という、なかなか恐ろしい話が載っている。

 吉備津の釜とはむろんに吉備津神社のあの吉兆占いの釜(鳴釜)で、県外者には馴染み薄いだろうけど、岡山市民は概ねで知っている同神社の神事を司るというか、他の神社にない”装置”としてのお釜だ。

 秋成はそれをモチーフの根底に置いて、浮気性の男と妻と妾の顛末を描いてる。舞台もこの岡山。

 男は熱しやすく冷めやすくの、ただの直情型のつまらん人物だけど、これを水木しげるが脚色して漫画化したらどんなアンバイの作品になってたろうか? 

 原作では浮気男はおびただしい血痕のみ残し、いずこかへ消されるが、水木御大なら、そこをどう描写したろうか……。もはや彼も鬼籍に入ったから、読めぬのを惜しまないではない。

 

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         吉備津神社のHPより 2人の巫女が釜の音を聞いて吉兆を占う

 前回講演の、期間限定の動画配信が終了し、概要を紹介するページが山陽放送のHPに出来てる。2人のスピーカーの写真……、似通う頭髪に似通うイデタチであったのは、ホンの偶然。HPはこちら

 しかし楽屋で2人話してるうち、我が方のテーマである人物と先方さんのテーマである人物とがヒョンなことで、実は接点ありということが判明で、お互いちょっと興奮したのは……、必然?

 先に紹介の水木御大の作品「偶然の神秘」は、そのあたりの消息の不可思議を描いていて、絶妙の味わいだったなっ。

 

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