過日、土曜の夕刻。メルパ岡山で『TENET テネット』を観る。
ウィルス騒動はじまって以来の、ひさしぶり映画館。
「どうもご無沙汰で~」
という感じで着座。
けど、客席には私ともう1人の観客のみ。
たった2人の深閑シアター。
『インセプション』の難解風味が好きなもんだから、こたびは、そのテーストに直結し増進しているかも……、と期待していた。
主演のジョン・デヴィッド・ワシントンは『ブラック・クランズマン』で飄々とした演技を見せてくれ、見終えた後でデンゼル・ワシントンの息子だと知ったわけだけど、『TENET テネット』を眺めたかぎり、親父さんと較べるとまだ明快な魅惑点が出ていないような気がした。
むろん、悪くはないけど、あの頬ヒゲは好みでない。でも、どうかしたはずみ、声がデンゼルそっくりになるというコトに今回はじめて気がついて、ふ~~ん……、血縁なるものを意識しないでもなかった。
およそ2時間半。
予想以上の難解シーンの連打で、1回観た程度では了解できない展開……。
けどま~、ノーラン監督はとんでもなく凄いチャレンジをやり、映像に定着させて公開しているわけで、この映像をどう解釈するかは、かつてキューブリックの『2001年宇宙の旅』がそうであったように、監督はボールを投げました、受け取りはおまかせという次第。
映像表現という領域の歩幅をこの作品はチョイっと、記録更新したようには感じたけど、さて……。
基本としてSF。進行する時間と退行する時間という「2つの時間軸」が同時に画面内に登場するという鮮烈は、かの『インセプション』の延長上というより、そこからさらに先に進んでる監督の歩幅のでかさだろう、これには感心させられた。
この作品は、理解よりは、どう感じられるかがポイント……、とか云われてるようだけど、理解したがるのがニンゲンだぁ。
DVDやらが市販されたら、ゆっくり、その辺りは掘ってみたいと思うが、初見の印象では、家族愛に飢餓してるらしきケネス・ブラナー演じる悪漢の、そのよどんだ眼の凄みがイチバンだったな。
だけど、その人物像がちょっと平坦なような感もチビッと有り。
巨悪かつサディズムの権化のような男なのに、でもってその周到な嗜虐的指向でワイフを心理的に追いつめていたはずなのに、ワイフの単純な奸計に”騙される甘さ”が、描写としては単調なような……。各種のクセ球を投げるヤッカイな投手かと思いきや、直球しか投げられない野暮な奴へと堕したようで、クライマックスでのその単調の露呈がせっかくのSF仕立ての土台を弱めてるような感ありの初見。
これは IMAX撮影の映画だから当然にIMAX環境のシアターで観るのがベストだろうけど、いかんせん岡山にIMAX系設備、なし。
体感の度合いでチョイっと損してるけど、ま〜、ないものねだりしたって、しかたない。
映画館を出て終業まぎわの家電店で『ダンケルク』のブルーレィ購入。
ノーラン監督作品とはいえ、これが封切りされた頃は戦争映画を観る気がまったくなくって、機会を逸してた。
ま~、せっかくこうして『TENET テネット』を観たんだ、祝儀みたいな感もからめて。
で、やや躊躇しつつだったけど、ケネス・ブラナーが主演で監督の『オリエント急行殺人事件』も購入。
もはやストーリーを知り尽くしたようなアンバイ物じゃあるけど、ま~、こちらはこちらでブラナーへの祝儀っぽく。
と、それにしても、土曜の夕刻の映画館内に客がただの2人という現実……。
東京界隈じゃかなりの集客でヒットしているとの話。大都市と小都市の違い?
むしろ地方の方がウィルス警戒が濃ゆいのか?
いっそ、この奇妙に湾曲したような現実の方に、SFめいた感じがなくもなかった。
けども、たった2人の映画館というのは東京界隈じゃ~味わえないだろうとも思うと、ノーラン作品2人占め、「贅沢なノーヒットノーラン」なような気分もなくはなかった。
もちろん映画館は大変だ。土曜の夕刻に客2人……。
スカッと爽やかにゃ遠い。