プロジェクト ブルーブック

 ショーン・コネリーに初めて接したのは『史上最大の作戦』で、以後アレコレの作品。たえずそばにいるような感じ。

 亡くなってもそこは変わらない。だから思い出という箱に収まらない。ベストな1本を選ぶというようなことはチョット難しい。

 繰り返し観ることが多いものとしては『薔薇の名前』、『ネバーセイ・ネバーアゲイン』、『小説家を見つけたら』あたり……。

 

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 Amazon prime で『プロジェクトブルーブック』の第1シーズン全10話を観る。

 実写とCGのうまい合体映像で50年代~60年代前半頃の米国が、かなり良く再現されている。わけても50年代後半辺りの米国女性のファッションやら家庭内の様相やらは、たびたび、

「ほほ~」

 リアルさに眼をはるようなトコロがあって、時代再現に感心させられた。

 

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 主人公ハイネック博士のワイフ(後方)が勇気を出して入店し、買い物をする高級化粧品店の様子

 

 かといって、UFOやら宇宙人は実在かも……、何ていうコトには、興味が向かなかった。

 なるほどこの番組は、実在したアレン・ハイネック博士を主人公に、これまた実在した未確認飛行物体の調査機関プロジェクト ブルーブックが取り上げられ、いかにも怪しいシーンが頻繁に出て来もするけれど、宇宙人はいるのかいないのか……、というようなコトはおそらくは、番組の作り手も二の次・三の次だったのじゃ~あるまいか?

 何を描こうとしたかといえば、おそらくは、米国人特有とも思われる「侵略される恐怖」とそこから生じた「不安心理」、その不安を操って都合よき社会を構成しようとする勢力の存在……、そのあたりの空気の感触なのじゃなかろうか。

 

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 製作年度は去年の2019年。トランプ政権下でもって国内諸般に懐疑と分断が生じ、歪みが大きく重くなって不安な心持ちが常態化している時期……。

 トランプ政権の登場はこの政権を支持しないヒトを不安にさせたが、同時に、政権支持者をも違う色合いで不安にさせ、妙な陰謀論も横行し、だからこたびの大統領選は前向きなものじゃなく不安と不安がぶつかって せめぎ合うみたいな、足下が二分し断裂していく様相を示すものとして見てもいいとは思うけど……、そんな分断感触をば、過去の一時代にリンクさせて投影しているというのが、このTVシリーズの根底にあるのじゃなかろうか。

 

 50年代から60年代前半にかけての時代、ソビエトとの不穏はピークに達し、核シェルターが飛ぶように売れ(ほとんどが地下シェルターじゃない。庭に設置の木製で自分で組み立てるタイプのもの。これは劇中にも登場する)、学校では授業の合間に原子爆弾対応の避難訓練が頻繁にあり、赤狩りにみられるコミュニズムに対する恐怖、その猜疑によるスパイ活動の顕在化、スプートニクの飛行……、などなどの追い詰められるような不安な情勢から、

「何んか、変なのが飛んでるぜっ」

 という正体不明の飛行体が一気に話題化し、目撃例あいついでヒステリーめいたパニックが増幅させられた時代。

 ソ連の新兵器かも? いや宇宙からやって来た異星人かも? わけがわかんないから余計に不安の焦燥が募る。

 1951年のロバート・ワイズ監督『地球の静止する日』を皮切りに、空飛ぶ円盤を題材にした娯楽映画の相次ぐ公開と、追い打つように虚実ゴッチャ煮で扇動するタブロイド新聞や雑誌の販売。

 

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               空飛ぶ円盤を伝える当時の新聞

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                   新聞記事の数々……

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              雑誌「ライフ」も円盤を取り上げてた…… 

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              事態を煽るタブロイド雑誌など……
 
 

 いよいよ米国人は怯えちゃって、結果、護身として銃を買ったり、デマを信じ込んでしまう妙な連鎖があった頃、米軍のプロジェクト ブルーブックは実際に活動を開始して当時の「ライフ」とかまでが取り上げる……、という史実もあり、その史実としての空気感と今の空気が、実はかなり似通うというトコロを描いたのがこの番組なのだろう。

 劇中、主人公ハイネック博士のワイフも夫に内緒で銃を買う。不安いっぱいで挑んだ森での試射で彼女は銃所持による安心感にめざめる。

 

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        劇中のシーン。買ったのがワルサーppkというのも時代イメージに符合
 

 ともあれ、

UFOって、やっぱ宇宙人の?」

 みたいな、『未知との遭遇』っぽい眼でこの番組を観てしまうと、見誤る。

「恐怖の不安心理」が個人や社会をどう歪めていくか、あるいは正当化されていくのかといった辺りでの情報伝達のなせるワザが見所のポイントかと、思えた。

 不安な気持ちを煽られ、結果、不安に操られて自発的な隷従が生じる危うい感じ悪さが、描き込まれているようには思える。どの「情報」に乗っかって行動を決めていくか……、というようなこともチラチラ考えさせられる。

 

 とま〜、米国大統領選挙の報道の、その拮抗した票の流れを片耳にしつつ、このドラマを深読みした。

 最初に記した通り、Fifty Graphics、住宅のカタチなどを含めての50年代文化をシゲシゲ眺められるというところはポイントが高いとも思う。意外なほど造り込まれていて、この点、好感だった。

 

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  劇中シーンより。この平たい50年代モダニズム家屋と丸っこいボディの車のビジュアルは最高

 

 ごくごく個人的には、博士を演じたエイダン・ギレンの眼鏡の風貌が、あれこれお世話になってるYK先生にそっくりで、ま~、それでついつい、あたかもYK先生が主役をやってるみたいで面白くもあり……(苦笑)

 

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 ギレンは『ボヘミアン・ラプソディー』では、クイーンを出世させたEMIの理解ある重役ジョン・リードを好演していたけど、実物のリードに似せるべく特殊メイクしていて彼本来の顔とはちょっと違う。でもこの『プロジェクト ブルーブック』ではやや素顔かな。YK先生に似て、いい顔だ。