1月の映画よもやま 

 大停滞ながら、なぜか高速で過ぎてくようなこの1月。悶々が常態化しちゃって酸欠ぎみ。

 岡山に亜公園が出来た明治25年(1892)、フランスのクーベルタンが近代オリンピックを提唱。国際オリンピック委員会、いわゆるIOCが設立され、4年後、アテネにて第1回目の大会が開かれる。彼が発した言葉としては、

「自己を知り、自己を律し、自己に打ち克つ。これがAthlete(アスリート・抜きんでた人)の義務であり、最も大切なことだぞよ」

 というのがあるそうな。

 この発言をストレートに適用するなら、この状況下、自分達が置かれた位置を知って開催延期か中止かをアスリート的速度で決断する……、ことこそが、もっとも自分達を律し自分達に打ち克つ事になるんじゃないかしら。

 

 さてさて……、新年今月もまた何本か映画をば眺め、感心したり笑ったりしてる。

 

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『シャドー』The Shadow1994

 10年以上前。福山の友人が贈ってくれたVHSで観て、良い印象が幾重と刻まれた映画だけど、その後なぜか日本では、冷遇されてる作品。

 今は字幕対応のDVDBlu-rayもなく、輸入モノに頼らざるをえない。

 しかしこの前、amazon primeが「販売」しているのを見つけた。

 字幕もついている。映画をネットで買うのは好みでないけど、無料視聴出来ないんだからしゃ~ない、「購入」した。

 

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 こちらのハードディスクに映像が収納されるワケでなく、あくまでもネット上、amazon primeでもって何時でも視聴可能……、というだけの「権利の購入」だから嬉しくもないが、でもま~、久しぶりの再見は、嬉しい。

 

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 アレック・ボールドウィン。ジョン・ローン。ファンタジー的SF。1920年代。大都会。上品なシルク。キャバレーでの優雅な食事。気送管での情報伝達。大型イエローなタクシー。シガレット。ギャング。突拍子ない科学者。脇をかためる助演者たちの層の厚みと熱狂の演技。『ヤング・フランケンシュタイン』でモンスターを演じ、ジョン・レノンの友人でもあったピーター・ボイルのクールなタクシー・ドライバーぷり。アレックの『レッド・オクトーバーを追え!』では軍医役としてショーン・コネリーとも共演したティム・カリーの素っ頓狂っぷり。鋭い歯を持って空中を飛び時に噛みつくナイフ…。色々なキーとなるものが明滅するが……

 おばあさんはモンゴルの山へ潮干狩りに出かけて意外にもタクシーで帰宅

 と、こういうようなハチャなフレーズに似るメチャな愉しさがこの映画にはあって、かなり好き。

 

 

『本陣殺人事件』1975

 監督・高林陽一。音楽・大林宣彦金田一耕助中尾彬

 原作を75年当時の現代に移行させての物語。大林が音楽監督というのも味噌ながら、あんがいと、この作品は知られていない。

 けどもなぜかBlu-rayがちゃ~んと、ある。

 

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 1月になって某BARのママ~ンに貸し出したるや、こちらが驚く好反応。

 早や、数回観て、観るたび感心と関心が感震しちゃうというアンバイのよう。

 ま~、その反応はムリもない。というか、こちらとて初見がそうだった。

 田村高廣が圧倒にして圧巻なんだ……

 なのでそこを味わってもらお~と思ったわけだけど、それ以上のアレコレを彼女の方から逆に示唆されて、

「ありゃ~!」

 嬉しさ倍返し、希有なことになっちゃった。

 去年3月、倉敷のギャラリー「十露」に PUGLAND君の焼き物作品を観に出向いたさい、雑談の中、彼が奨める複数の映画があって、その内の1本がコレなのだった。で、ワタシがはまり、こたびママがはまる。

 ということは「感染力が高いんだ」よ、この映画。

 

 田村高廣は随分に真面目な役者だったらしく、出演映画もその指向に準じてマジメなのが多かったようだけど、その代表作たる『天空の甍』も『泥の河』も、今、発売されていない。

 Blu-rayはおろか、DVDも出てないって…… どういうこっちゃ?

 

 

『江戸最後の日』1953

 その田村3兄弟の父・阪東妻三郎作品。amazon primeで観る。勝海舟の役。史実と照らし合わすとやや難があるし、西郷隆盛との丁々発止を描きつつ西郷は画中にいっさい出ないという妙なところもあるけど、息子・高廣もがビビッてた巨大な存在感はこの映画にもよく出ていて、なるほど日本映画のトップ・スターがここに有り……、と感慨するのだった。けど、史実の中の彼はわずか51歳で亡くなっている。そこにあらためて驚かされもした。

 

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ウィキペディアで読むに田村高廣は、父・阪東妻三郎について「ぼくには、怖かったな。直接話したことないですね。食事も奥座敷で母に給仕させ、むずかしい顔をして、一人で食べてました」と語っている。

 

スポットライト 世紀のスクープSPOTLIGHT2015

 amazon primeで日を換え2回観る。

 レイチェル・マクアダムスラッセル・クロウと共演の『消されたヘッドライン』に次ぐ新聞記者の役。これがとてもよろしくって好感。『シャーロック・ホームズ』でのアイリーン・アドラー役も良かったけど、要はこの女優をボクは好きなんだろう。去年の秋頃にもこれは1回観てる。派手なシーンなど皆無だけど淡々とした描写の連続がこの映画の価値をグッギュ~ンと支えてる。

 Abe政権やらトランプ政権のインチキ共々に、劣化はなはだしい報道者の姿勢。この大事ポイントたる職を、映画はこの先どう追っていくか……、そのあたりも興味継続中。『消されたヘッドライン』と本作とが我がアタマの中じゃ~、ツイン・タワーみたいな存在。

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         編集長役のマイケル・キートンと記者役のレイチェル

 

ドクター・ストレンジ2017

 Blu-rayで鑑賞。主役ベネディクト・カンバーバッチが随分にヨロシイけど、ここでもレイチェル・マクアダムズがヒロインで、ま~文句ありません。

 

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中国の資本が入ってるゆえにチベット問題が矮小化されているとの批判がでかいけど、これは本作だけでなく今後も尾をひく大問題だろう。今はなにかと中国は厄介。一党独裁が解体されるのを望むけど、そうなればまた昔のごとく、三国志みたいな覇者競い合いの闘争ばかりになりにけり……

 

イミテーション・ゲーム2014

 DVDで何度目かの鑑賞。ベネディクトは何を演じても上手いけど、これはその最上位かな……。  

 良い映画はみるたびに新たな発見があるものだけど、この作品もそう。以外なところで『ブレードランナー』の影響が濃くあって、人物造詣に深みあり。

 

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 彼が駆けるシーンがあるけど、『スタートレック・イントゥ・ダークネス』でも同様に駆ける所があって、ちゃんと上体を起こしての本格走法の姿勢を見せてるのはさすが。ラッセル・クロウオーソン・ウェルズみたいにブクブク太ってもはやアクションを撮れる体躯じゃないけど、この人はどうだろ? 

 

 ちなみに我らが岡田准一も駆けてる駆けてる。

SP THE MOTION PICTURE 野望篇』で前傾姿勢での高速駆けっこ。これはこれ、なかなか魅せてくれたなぁ。

 

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『バイデン新大統領就任式』2021

 映画じゃないけど21日になった夜中、ネットの中継映像を眺める。マスクを外し、メモも原稿もなく堂々と就任演説してるバイデン氏……。トランプの悪夢から民主主義の大義がどれっくらい復興するかは判らないけど、少なくとも戻ろうとする意思は伝わった。むろん、これからが大変だけど……。

 

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 上画面は聖職者のシルベスター・ニーマンの演説。サングラスで精悍、カッコ良さげだったけどスピーチいまひとつ。

 ともあれ演説者以外オール・マスクの異形。4年先の次のセレモニーでは「あの時はね~っ」と笑えることを切望するが、セレモニー参加者の多くが厚着に毛布なんぞも巻いて寒さを辛抱してるのが、氷上のオットセイの群れのようで妙に印象づけられた。日本ではどんな式典でもそんなラフなスタイルって出来ない外見こだわり症があるんで、この点、まだ米国はいいなぁ。

 

風の又三郎1940

 amazon prime81年前の映画。良い画質、良い音声とはいいがたい。しかしこういうのを観られるのは有り難い。1人の先生で1年生から6年生までの全員が1つの学級での複式授業の姿が興味深い。以外なほど丁寧にそこを描いてた。

 

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 登場の子供らがひたすら目映く美しい。冗談ぬきで美しい。

 豆腐を買うため鍋を手に、背の高い雑草の中を又三郎くんが進んでくシーン。野球選手らがコーン畑に消えていく『フィールド・オブ・ドリームス』がデジャブみたいに点滅した。

 宮澤賢治はペチャ~っとしたファンタジーでなく子供の成長物語を画策し、その過程においてごく微量の幻想色を混ぜたのだと思われるけど、この81年前の映画はそこをよく汲み取り、だから見終えたあとにスカッとはしない残滓が残る。それはいわば賢治自身が童話に含み入れた後味そのものであって、この一点で本作は「原作に忠実」ということは、いえそう。

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 今はもう先生と生徒のけじめが曖昧な「総こども時代」っぽいけど、この81年前作品では先生は先生、学童は学童として棲み分けがキッチリしていて、そこは眩しい。その学童どもが少し大人側へと寄っていく姿を映画として創ってるワケで、だから残滓の中の成分として、チャイルド・フード・エンド、日本語で申せば「幼年期の終わり」があって、それが映画作品として良い味わいとなっている。

  

 まっ、今月に観たのは概ね以上の通りね。

 

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