2月の映画よもやま

 

『あの夜、マイアミで』 2020 Amazon prime

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 黒人差別の問題を描く。舞台は1964年。カシアス・クレイフットボールの有名選手ジム・ブラウン、マルコムX、ゴスペル歌手サム・クックが、クレイのボクシング試合後に一同に介し、ケンケンガクガク話し合う。『Ray/レイ』やらアレコレの映画に出てた女優のレジーナ・キングの初監督作品。

 現実にこの4人の有名人たちが会ったという記録はないけど、あえて4人を会合させての話。ずいぶんブッ飛んだ設定だなぁと思ったら、脚本は『スタートレックディスカバリー』を手がけた人だった。

 コロナ渦の今、直に人と人が接して深く語りあう姿が、妙に御馳走にみえた。何より劇中の4人がちゃんと相手の話を「聞く耳」を持っているのが良かアンバイ。

 

『ブラック・クランズマン』 2018 Amazon prime

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 去年に2度ばかり観て、また観る。この映画のリズムとテンポが好み。ジョン・デヴィッド・ワシントンのカリフラワー頭とヒゲもこの映画じゃ悪くない。アダム・ドライバーの飄々とした感じもいい。

 スパイク・リー監督は『モ’・ベター・ブルース』やら『マルコムX』やら『インサイド・マン』でデンゼル・ワシントンを起用し、この作品では息子を起用で器用だね~。その『インサイド・マン』のDVD、探して見つからん。あれ?、と思ったら、福山在住のノビ~に貸し出したまんま観~やだ。しゃ~ない、Blu-rayに買い換えようかしら。

 

TIGERLAND』 2000  Amazon prime

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 徴兵され、ベトナムに送り出される前に訓練される兵士達の話。

 主演のコリン・ファレルの唇の傷が妙に痛々しいのが印象に残るも、さほど感じるところなし。

 

ハンターキラー潜航せよ』 2018 Amazon prime

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 潜水艦好きなら、ついつい、観てしまうんだろうけど、内容は無イヨ~で、せっかくのゲイリー・オールドマンなんか出てる意味がなく、主役ジェラルド・バトラーがかっこよくふるまっているだけ。けども、こういう映画は嫌いじゃ~! とは言い切れないタチで、魚雷発射とその結果をばメダマが追う追うオ~OH。

 

スパイ・ゾル』 2003 DVD

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 篠田正浩監督の引退作品。

 夏川結衣が出てるんで観たものの、3時間に近い長さ。それを長いと感じさせない映画と、そうでない映画があるけど、この作品は残念なことに、う~ん……。そも何で「イマジン」が流れる? 

 

梟の城』 1999 DVD

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 篠田正浩作品で中井貴一主演。大仰な音作りに鼻白むし、「それってどうなの?」な点もあるけど何故か時々観たくなる。3年にイッペンは見返してる。要は嫌いじゃないんだろう。じゃ、好きか? といえばそうでもなく……、その好き嫌いの中間辺りでのモヤ~っとした所に「愛嬌」のようなものがあるような。

 で、その「愛嬌」って~のがどういうものかと考えるに、篠田御大は懸命に風船に息を吹き入れてらっしゃるのだけど、風船そのものに穴があいていて、どこまで吹いても大きくならないのを、実は御大は知りつつ、なおも吹いてるような感じで、『スパイ・ゾルゲ』も同じ。

 氏は「かぶき者」とか「かわら者」研究の第一人者で数々の秀逸な著述があるけど、ご自身の映画作品にその「かぶき者テースト」を混ぜ混ぜさせて、

「どう? ついてこれないでしょ」

 と、ワザとやってるような感じがしないでもない。この映画のケッタイな音作りにしろ、『スパイ・ゾルゲ』の「イマジン」にしろ……。

 

サリュート』 2018 Amazon prime

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 ロシア映画。1980年代の、サリュート7の軌道逸脱事故と宇宙ステーション・ミールの落下事故を、1つの話にまとめたストーリー。だから史実を追った映画じゃなくって、部分に史実を含むという感じの映画。

 米国産映画の特殊効果と遜色ないSFX。当時のロシアの宇宙船内の様子とか、なかなか興味深い。

 意外にも体制批判が根底にあって、最近のロシアの変化が覗えるような感もある。

 ニヤッと笑えたのは宇宙船内での喫煙。なんだかロシアっぽい。危ないぞ~って感じと共に、たぶん当時、ホンマにタバコ持ちこんで、無重力の中で吸ったんだろうなぁともリアルに思えた。逆に思えば、当時のロシア軍部の飛行士への管理が甘いというか、タバコ1箱持ち込んでるのも気づかないという辺りの組織力の硬直と脆さの垣間見えが、面白い。もちろん無重力だから煙は上にあがっていかない。

 

宇宙戦争』 1954 2005  DVDで2本立て

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 1月のはじめ、英国でH・G・ウェルズの没後75年を記念する硬貨が出たものの、図柄がメチャだと大ブーイング。ウェルズの描いた火星人の戦闘マシン・トライポッドの足は3本でなきゃ~駄目だし、硬い金属足じゃなく、もっとしなやかで柔軟なものでないとイカンじゃ~んのクレームに、硬貨のデザインを担当したデザイナーが懸命に自己弁護したりで、何かと話題になったようだけど……。

 

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 ま~、それに触発されて、20年っぷりくらいか、原作をば読んで、

「うん、うん。やっぱ、今回のコイン、めっちゃ駄目だわさ~」

 他国の硬貨に内政干渉ぎみに感想したのだったけど、あわせて次いで、2本の『宇宙戦争』をば鑑賞。

 

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 1954年のは名作中の名作。1954年当時に時代設定をかえ、さらにトライポッドなんぞもクールでエレガントなデザインとして描いてるけど、3という数にこだわって、火星人とその機器類の特徴づけに大成功している。ウェルズの原作でも3単位の火星人が描かれているけど、この映画ほどそこは際立たせていなかった。その辺りの原作の延長と拡大と強化が、だから見事。あっぱれ。何度観ても素晴らしい。

 圧倒的パワーに蹂躙されるだけの人類が暴徒と化したり神さんに祈ることしか出来ないという無力の膨大、その描き方も実によろしかった。

 

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 2005年のはウェルズの原作に近いトライポッドが出てきてコンニチワ~。これはこれでとても良いし、原作をうまく踏襲しつつ現代の話に置き換えて、さらに1954年版映画へのオマージュまでが含まれて、そこもさすがなれど、家族愛、子供親父の大人への脱皮みたいな……、スピルバーグ的なファミリー主題が前面に出てしまって、せっかくのウェルズ・テーストが後退。観るたび、

「惜しいなぁ」

 と思ってたけど、今回も同じ感想。

 お・し・い。

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 希望を申せば、ウェルズが描いた19世紀末(1898年)を舞台にしての『宇宙戦争』をば観てみたいな。原作は回想談として話が進む。そこもそのままでの映画版を希望っす。

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 こたび久々に読んで、今の政治不信やらコロナ渦での状況にとても近似する人の動向が描かれていて、「あらまっ」とおどろいた。第7章の「パトニー・ヒルズの男」のくだりでは、陰謀論をかたくなに信じるトランプ熱烈支持者に似る元兵士が出てきたりもして、その動向の活写はさすがウェルズ、本作品モチーフの硬貨が出るのもアタリマエ……、と思ったりした。むろん、何よりも凄みあるのは、人類が既に持っているウィルスへの抗体、抵抗力を火星人らが持ってなかったという顛末だ。『宇宙戦争』はおそらく唯一、ウィルスが人類側に立ってる(結果としてだけど)ドラマ。

 

イントウ・ザ・スカイ ~気球で未来を変えたふたり~』 

 2019 Amazon primeのオリジナル映画

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 原題は「THE AERONAUTS」。

 直訳では、「気球乗り達」か。

 それをわざわざに、「イントウ・ザ・スカイ ~気球で未来を変えたふたり~」との邦題づけ。Amazonの日本法人よ、お前もか……、とガッカリしないではない。タイトルでもって説明しないで欲しい。

 ま~、しかしこの映画、足が竦むことタビタビ。こちら観覧車でさえ苦手なんで、高さをありありと示す秀逸な描写の連打にお尻あたりから両足まで竦むこと竦むこと。

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 フェリシティ・ジョーンズは『ROGUE ONE /  STAR WARS』で充分にハラハラさせてくれたけど、この作品はそこをはるかに凌駕。いきおい彼女の代表作に躍り出た感ありありの高度10㎞での痛々しげな両手の凍傷。

 

バベットの晩餐会』1989 Amazon primeBlu-ray

 

 デンマーク映画。2月に観た映画中、ナンバーワンのダントツ。

 実に静かな映画。料理を基底部に置いた素晴らしいドラマと云ったが良いか。

 舞台は19世紀末のデンマーク。海辺の小さい村。

 出演の方々、とりわけ老いた方々が素晴らしい。最高に近い。

 Amazon primeで観た後にちょいと調べてみるに、この作品、最近、Blu-rayが出てた。

 手元に置いときたくなった。

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 なので買った。

 いや~、この映画はね、Blu-ray画質で観るのがいいよ。家のカタチ、干された魚(ヒラメかな?)、小さな商店、暗い台所、食卓の様子、テーブルクロス、アイロン……、わけても後半の晩餐シーンの老人たちの頬。食事が進みワインのグラスが干される内に白い顔がピンク色にと変わってく微笑ましい様相。ここはBlu-rayでの再現が望ましい。

 日本映画にみられるベタな感情移入に導くようなつまらん造りでないのが良く、淡々の中に清廉と熱が存在していて、ちゃんとした感動が味わえる。それもね、映画の進行と共にジワジワ、ジワジワ~っとくる。こういうのは希有だし、まして主題となるベースが料理だよ。

 屠られた鶏の首、羽毛をむしられていくウズラ、いずれもが赤裸に描写される。美と残酷とがあたりまえに同居し、隠されないのがいい。

 

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         バベットが石炭オーブンから焼き菓子を出してるシーン

 

 前半部の描写は、この映画が何を主題にしてるのか皆目わかんないのだけど、ま~、そこが日本の即興的お刺身文化じゃない、ヨーロピアンのコトコト煮込み料理文化なのであって、概ねで西洋の古典文学もそうでしょ……、出だしのギアはあくまでロー、流れてく時間の速度の違いもまた味わえるって~もんだ。

 

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 その上で、19世紀末デンマークでの質素極まりない食の光景(古いパンを湯に溶いてお粥みたいにして食べたり)と、後半でのフランス料理との対比も激烈に素晴らしい。劇中の1人の老人の口癖になってる「ハレルヤ~」を、そのままに復唱したくもなるんだハレル~ヤ。

 ま~、なによりもバベットと二人の老女だなぁ、魅力は。

 などと書いてる内、また観たくなって来ましたよ~。というか、この映画をまた「味わい」たくなった。 

 食える映画があるんだぜ、この世界にゃ。

         この予告編は作りがまずく本編の魅力を伝えてないけど……。

 

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 フランス料理というカテゴリーでは『大統領の料理人』(2013)というこれまた秀逸な作品もあるし、料理を前面に描くという点でもこちらの方がたっぷり感ありなんだけど、手元に置きたい度合いは『バベットの晩餐会』が上にくる。抽象化への粘度が高いんだ。

『ラスト・サムライ』が現実の幕末ではない描写の連打ながらも、日本の数多の映画が描こうとしたサムライのカタチ、日本というカタチをより上手く抽出していたように、『バベットの晩餐会』は料理がもたらすかもしれない良きポイントを極上なファンタジィ~にまで昇華させていると思え、ま~、そこにBlu-rayを買うだけの価値ありと。