トタン屋根を塗る

 五輪真弓のデビューアルバム『少女』には、4曲目に「」というのがある。

 雨が空から 降りてきて

 トタン屋根を たたいてる 

 と、はじまり、

 君のうちはトタン屋根

 ぼくの好きな トタン屋根

 君がいつも ひとりだから

 来たんだよ

 まわりはみんな かわら屋根

 ノック出来ない かわら屋根 

 と、良い詞が続く。

(このデビューアルバム以後の彼女の詞は、かなりつまらない。悪しく云うワケじゃなく、少女の立場からでない歌詞にと成長して、結果、斬新も飛躍もない程度な平凡になったという感じ。五輪さんは今年でもう70歳になってるみたいだけど相変わらずアルバムを出し続けてるのは、いいね。学生の時、大阪府立体育館だかで催されたコンサートに行った記憶がある。吉田拓郎も共演してたけど、他に誰がステージに立ったか、覚えてない。ぁ、ガロってのも出てたな……)

 

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 で、我が家の一部はその「ノック出来るトタン屋根」なのだ。

 1階の北側すべて、南側ベランダの下などがトタン屋根で、雨音の強弱まで実によくわかって、これが心地良い。

 雨が寝耳にノック音、なのだ。

 たぶん、五輪真弓の実家、彼女の部屋の屋根も当時、雨音が聞こえるトタン屋根だったに違いない。そうでなくば、このような歌詞は書けない。

 トタン屋根の弱点の1つとして、雨音はあげられるけど、ボクはそう思わない。むしろ大きな利点だと思ってるし、五輪さんもそうだったろう、思う。トタンは外の気配を内に伝える優れた伝導板、スピーカーだ。

 

 我が宅のは、何度か塗り替えてる。

 鉄板は錆やすい、これがトタンの最大弱点だ。

(トタン屋根は1960~80年ころが全盛。90年代にガルバリウム鋼板という錆に強い新素材が出て来て、カタチは同じながら価格も同程度で、これが座を奪う。雨音もしないらしい)

 うちの家屋のアレコレを養生してくれてるH氏が最後にペイントしたのは、12~3年前かしら?

 さすがに経年で痛みがひどくなり、サビが浮いて目立つようになってた。

 白色にペイントしていたから、赤サビが余計に目立ち、ボロ家の風情、みすぼらしい。

 しかしながら、H氏も高齢、いまさらに屋根に登ってよ……、とも云いがたい。

 懇意でもない業者に頼むのもなんだけど、アバウトな見積もりを眺めるに、やや広い面積とカタチゆえ、足場を組んだり、青いシートで家を覆ったりの大がかりで最低60万~70万はかかるらしい。

 

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 それで、自分でペイントすることにした。

 広範囲だし、危なっかしいし、躊躇しないわけでもなかったけど、でっかいプラモデルを塗装すると思えばイイ。

 そんな次第でチョイと前、塗装道具やらを一式買い込んで、屋根に登るんだった。

 

 トタン屋根の塗り替えには最初に「ケレン」という作業をやる。

 ハゲたペイント部分や浮いたサビを除去するワケだ。

 明治の頃にトタンブリキが日本に入り、その維持管理に、clean(クリーン)と発音されたのが「ケレ~ン」と聞こえ、そのまま作業の固有名詞になったのが「ケレン」なんだとか……。(明治日本に入って来たのは缶詰めで、その空き缶の廃物利用でまずは雨樋が創られ、日本でのトタンのヒストリーが動き出した。ブリキ職という新たな仕事が生じることにもなる)

 やって初めて判ったけど、なかなか大変なんだぜ、これが。

 

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 ワイヤーブラシなんぞでハゲたのを削り落とすんだけど、面積が広いゆえ、時間がかかる。

 インパクトドライバーの先に電動用ブラシを取り付け、楽にやれるかもとトライしてみるも、これの方が手加減が面倒でかえってシンドイ。

 

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 結局は歯を磨くみたいにワイヤーブラシを上下左右に動かす方が、楽。

 トタン屋根に這いつくばり、ひたすらゴシゴシ。

 以上で丸1日。

 買ってきた新品ブラシが1日にしてボロになり、反復運動で手指も痛くなる。

 

 翌日にまたワイヤーブラシ。南側ベランダの下もトタンなので、そこもシコシコ。

 廃品回収の軽トラックがアナウンスしながらやって来るのを屋根の上から、呼び止める。

 過日に壊れた電子レンジや、車庫の奥に積み上げ、ずっと前からゴミ扱いのオーブンやら電子機器数個を引き取ってもらうべく交渉。

 1万数千円というのを1万円に値切り、これで僅かだけど片付いた。

 で、また作業。

 ホースを引っ張りあげて屋根の水洗い。

 ところがホースが北側まで、届かない。

 しゃ~ない、ホームセンターに駆けてって、ジョイントと延長ホースを10メートルほど買い増し。

 で、また屋根でお水ジャ~ジャ~。

 

 さぁ、そうすると今度は雨樋のゴミが気になる。

 屋根を歩くと、従来は見えない諸々が見えてしまうワケなのだ。

 ゴミというか、砂埃が信じがたいほどに体積してヘドロ状。これの除去にウンザリ。部分はベッチャリ濡れ、部分は乾きに乾いてる。

 これで2日めが終わり。両手ガクガク、腰は痺れてフ~ラフラ。

 

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           ケレン作業で浮き出た白の下の以前の青色

 

 夜半より中途半端な雨。

 春雨といえば聞こえはいいが、こういうシトシトピッチャン・レインはいけない。車に乗る人なら判るでしょうが、塵も埃にも水分含ませるだけで重くさせ、洗い流すどころか、逆に汚れを付着させる。トタン屋根も右に同じ。

 

 3日め。金曜。継続してシトシトピッチャン。作業せず。

 すでに全身筋肉痛。脆弱にしてひ弱。苦笑するしかない。

 夜に先生がたとオンライン呑み会。屋根の話じゃなく、亜公園がらみでトイレの話。これがやたら面白くってアッという間に2時間越え……。

 

 4日め。土曜。筋肉痛はやや緩和ながら、作業せず。

 

 5日め。日曜。モルタル壁とトタンとの接合部の隙間にコーキング剤をば詰める。

 

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 この作業はたいしたコトはないんだけど、屋根を見廻すに、「ケレン」作業がちゃんと出来ていない箇所が幾つも幾つも……、眼にはいる。

 屋根塗装のプロなら、そこは見逃さないはずだけど、こちらプロでない。眼にはいっても……、あえて無視。塗ってしまえば何とか誤魔化せるだろ……、みたいなエエ加減な気分がドンヒャラ湧き上がる。

 あんのじょう、先の雨でトタンには塵やら埃が毛玉みたいに付着、汚れが浮き上がってる。

 また強圧で水を流すか? ぁぁ、メンド~。

 軽く雑巾でフキフキしつつ、脚立にあがって手が届く範囲でのトタン部分に「試し塗り」。

 しかしせっかくだ……。

 後で刷毛を洗うのもメンド~ゆえ、そのまま部分を本塗り、ローラーで塗ってった。

 

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風がやや強め。微細なゴミが飛んできて塗装の邪魔をする。プロフェッショナルな方々が作業場を青いシートで覆うのは、防塵対策でもあるんだね。

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 6日め。3月の初日。昨日の塗装は全体の1/5くらい……。

 近年は、サビの上にそのまま濡れる塗料が開発されてる。ありがたい。シロウト作業にゃもってこいじゃ~ないか。

 という次第で塗料はそれを使ってる。

 塗装面積のトータルはおよそ130㎡、ざっと40坪……。6㎏で6500円ほどの缶を、一応、2缶確保しているのだけど、足りるのかな?

 曇り空。この日は2時間ほど北側の1部分を塗って終了。

 

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 7日めの火曜。夜中から雨。ペイントしたばかりだというのに、ダイジョウブかいな?

 当然作業なし。

 雨の中で塗装仕事してるシュールなペンキ職人さんを空想し、その塗装状態ってどんなかしらと思って、ちょっと笑う。

 

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                  濡れた塗り立て

 

 8日め。水曜。日差しあり。前日の雨の影響はなさそうと判断し、塗料をのせる。

 雑巾でフキフキ後、ヤッカイそうな所をまず刷毛で塗る。特に道路側屋根の端っこ。かなり、おっかない。なので、ほぼ寝そべるようにしてへばりつく。下を通行してる人には、バカに見えるであろう素人シゴト。カッコ悪いが仕方ないじゃ~ないの。

 次いでローラー。

 

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 ローラーを発明した人って、エライなぁ。広範囲をかなり均等に素早く塗装できるし、あんがいと細かい部分をもペイント出来る。刷毛塗りの速度の5~6倍はイクんじゃないかしら。

 塗料は既に2缶めを使用中。足りないと困るんで作業を中断し、Amazonに発注で明日には届く予定。

 この日は朝の9時に作業開始し、夕刻5時に終える。なんだか業者っぽ~い。

 

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               Before&After

 

 9日め。3月4日。昨日の続きを午後から。

 しゃがんだり立ったりの2日連続に腰が「つらい~」と泣き、両腕はバビブベ棒と化してるけど、「ファイト~・イッパ~ッツ」、鼓舞に鼓舞して作業継続。『年寄りの冷や水』やら『老いの木登り』といった故事が念頭に浮くけど、ま~、しかたない。

  老いた腰さすって気づいた赤ペンキ

 気づくと腰のあたり、赤ペイントがベッチャリだわさ。

 

 2缶目を全量使い切り、午前中に届いた追加の缶を少し使う。

 だんだん雲が厚くなる……。懸念しつつ作業。6時前頃に終え、あとかたづけ。手足ガクガク。

 

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                     東側完了 

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                     北側の全域完了

 

 10日めの今日。

 早朝3時前にかすかなノック……。

 雨。

 朝8時頃にはやんで近所の小学生たちも傘なしで登校してったけど、この10日間で3度めのレインボ〜。うつろいやすいお天気は、そのもの。

 その風情はヨシとして、しかし塗り終えて10数時間しか経ってない、いわば舌の根も乾かぬうちというのは、ヨロシクないな。

 くわえて、近くば寄って塗り終えた仔細を眺めるに、いささか荒いシロウトの仕業と判っちまう。

 しかし、そこはま〜ダイジョウブであろう、この屋根にあがる見物人はいない。

 路上から見上げるだけじゃ~シロウト・ワークもクロウト・ワークもありゃしないでしょ~よ、たぶん。

 かかった費用もあれこれ足しても5万円弱。政府から助成金でるワケもなく、まして今ハヤリのテレワークじゃ出来ない作業。

 トレーニングパンツとシャツ2枚ばかりが散ったペンキでオシャカになったけど、な~に、これとて想定内。ナイキじゃないき~、しまむらの特売品。

 

 ともあれ終えたのだ。ごくろうさんの自分。ステーキ食って祝おうかな。当然に、接待なしで7万円以下の……、300グラム本日限りの980円程度なお品をば。

 むろん自腹で。