マイ・マザ~。
97歳。
この半年ほどで急速に衰え、立てなくなり、それと同時に、ボケが進行……。
すでに数年前からマザ~の介護をしていたけど、まったくの歩行困難となるや、食事もトイレも風呂も、お世話する側としてはドッド~ンとヤッカイ度が増す。
自力で腰を持ち上げてくれないから、オシメ交換の難易度がひどくあがった。
認知力もひどく衰え、接しているボクを息子と理解しない。1カ月ほど前は「お父さん。お父さん」と誰もいない部屋で窓辺に向かって呼んだりして、さてさて、お父さんって、誰のコトなのかと訝しみ、マザ~の父親か、あるいは既に没した我が父か……、とも思ったけど、どうも彼女自身、そうやって言葉を発しながらも、そのお父さんが何であるか、混乱しているようでもあった。
けどもボケはさらに進行。今はもう「お父さん」の単語を口にもしない。
言葉そのものを忘れつつあるようで……、こちらがアレコレ声をかけても、ウロンとした眼をそよがせはしても、半開きにした口からは声がこぼれない。それでこちらはかなり衝撃を受けた。
手芸をやってるつもりなのか、ベッド・サイドのフスマを破ってみたり、毛布の端の縫い目をほどいて解体したり、何かと、眼が離せない。
モノを飲み込む力も衰え、既に固形物はダメ。痴呆化進行と共に、飲み込むという行為そのものを忘れているような時が往々にあり、スプーンで口に入れてあげても、首を垂れるやドロリこぼしてしまう。
なにより怖いのが、誤嚥。
口に含み入れたものが食道に落ちず、気管に向かう。
当然、咳き込む。ひどく苦しげに咳く。
己のが唾液の飲み込みでも、その傾向が高まって、何度か逼迫され、救急車を呼ぼうかと慌てたこともある。
高齢になると、ゴエンにより肺炎が生じ、それで死亡する例が多い。少し前に亡くなった『ウルトラマン』でお馴染みだった二瓶正也氏もゴエンが原因ときく。
ま~、そんな次第あって、家族としての限界……、介護補助を願うべく、しかるべき所に連絡してみたのだった。
施設に入れようかとも思うのだが、コロナ禍の今、施設入所すると面会も出来ない。率先してお別れを告げるみたいなもんだ……。
可能であれば自宅で介護と看護を継続という形が望ましい。
連絡した翌日に、この地域担当の女性がやってきて、状況を見、たちまちに、しかるべき施設へと連絡をとってくれ、さらに翌日には、その施設よりケアマネージャーがやって来た。
なんせこちらは、そういう施設の利用は初めてだし、システムもまったく知らないから、ケアマネージャーという存在も知らずで、いささか困惑もしたけど、親切極まった対応とその速度には、感服させられた。
こういう場合、介護認定の「審査」が必需としてあるのだけど、ケアマネージャーさんはマイ・マザ~の状況を掌握するや、自己判断でもってそれを前倒し、アレコレを指示してくれるのだった。
翌日には介護のための各種道具を扱う業者が、ベッドを運んできた。
電動で高さと角度調整が出来るベッド。痩せ衰えて骨ばった背中の負担を軽減する専用マット。
マザ~を新たなベッドに移し、それまでのベッドとマットは廃棄。市の粗大ゴミ収集を依頼。折りたたんだベッドは500円、マットは2500円もとられる……。マッ、しかたない。
でもってさらに翌日には、訪問専門の医師と看護師がやって来た。
訪問専門の医師がいるというのも、これで初めて知った。
同日にはさらに、今後、マザーの世話をしてくれる介護施設(ケアマネージャーがいる施設とは別施設から)のスタッフもやって来て、さっそくにプロフェッショナルなオシメ交換やらを実演してくれた……。
後日に来たさいは、マザーの爪を、まるでネールサロンみたいに綺麗にしてくれた。
採血の結果、点滴をば1週間おこなうコトに。注入後の取り外しとそれに伴う薬剤注入は家族がおこなう。ヤヤ面倒だけど、しかたない。作業手順を学ぶためiPhoneで訪問看護の方の手先をば撮影させてもらう。
そういう次第が8月後半にあり、まだ数週しか経ってはいないけど、医師訪問が週に2度、訪問看護も週に2度、というアリガタイ状況。(点滴中は毎日ね)
介護の度合いを審査する保健所の審査の方も来られ、ただし……、審査結果は1カ月後に出るとのノロノロ亀っぷりには、密かに顔をしかめたけど、そのノロノロを承知した上でテキパキ対応してくれたケアマネージャーさんには大いに感謝であった。
上記の通り、入院させるなり老人施設に入れるなりすれば、コロナ禍、家族は見舞いにも行けない現状なんだから困ったもんで、姥捨てじゃあるまいし、それだけは回避したいというこちらの要望をしっかり掌握してくれ、
「おうちでお母様を介護していきましょう」
との介護プランを描いてくれたワケで、実に、ありがたい。
ともあれマザ~介護に関し、状況が変わった今日この頃。
安堵しているワケでない。相変わらず“親の面倒をみる”子としての負担は抱えるし、週に4回の医師や訪問介護者の来訪がゆえ、逆に時間が制約されちまう不自由もあるのだけど、レッド・アラートな警告灯がイエローあたりの色合いに薄まったのは、よろこばしい。
老々介護のストレスと腰の痛みを味わうナンギがヤヤ軽減したのも、ありがたい。
まっ、そういう経緯ゆえ、ケアマネージャーが勤める施設をばひそかに見学しようじゃないか……。
けっこう大きめな施設を見上げつつ、
「ここから来てるのね、彼女っ」
ありがたいな~、とまた呟く。
この施設前の道路を東に駆ければ、長船(おさふね・地名)に出るはず。
ちょいと束の間ドライブ。その長船の中心あたり(?)、「おさふね珈琲」という瀟洒な店があるとMichiko妃殿下(おっ友達ね)が書いてたので、彼女が云うならマチガイあるまい、行ってみる。
そこでランチをば食べる。
ゴーヤの漬物がうまく、デザートのスイカも気が効いてら。
今年スイカを食べるのはこれがファイナルだろなぁ。子供の頃は種がジャマでしかたなかったけど、今はこれぞスイカの特性、アクセントとなる障害物としてそのカタチをば大いに認めてる。食べつつプップッと口から飛ばし出すのは同じだけど。
種としてはたぶん、心外だろなぁ、ふき飛ばされ優しく接してもらえないのは。