映画『幕末青春グラフィティ Ronin 坂本竜馬』がDVD化されているのを知ったのは、お盆前。
Blu-rayは出ていないようだけど、DVDでかまや~しない。
隠れた名作として忘れられてしまうんかなぁ~、と思っていただけに、喜びのランプがピカピカ点燈。
という次第で買ってきて、1986年の封切り時以来だよ~ん、36年ぶりに、観る。
TVや映画で多くの役者さんが坂本龍馬を演じてきたけど、本作での武田鉄矢の竜馬(龍馬にあらず)がダントツだろうなぁ。
足の短さ、顔のでかさ、額のカタチ、などの外見もプラスに働いて、滑稽かつ真摯な竜馬像がフィルムに定着している。武田鉄矢は昔も今も好きじゃないんだけど、この映画の彼は、メチャに良い。
演技はダメだけど、地の拓郎っぽさが、29歳で没した高杉という男の中のエキセントリックやアナーキーなところと合致しているよう見受けられ、そこが大きなプラスになっている。吉田拓郎のアクターとしての素人な硬さと、吉田拓郎というキャラクターがもっている奔放が、彼自身の中で正面衝突して、逆に高杉晋作という人物の複雑な輪郭線がよく浮き出たカタチ。
高杉役として吉田拓郎でなきゃダメだと、映画製作者サイドと吉田自身をくちどいた武田鉄矢の功績がデッカイ。
史実に近くはあるけど、けっして史実に基づかす、ひたすら青春群像としての鮮烈を追った監督・河合義隆は、もっと評価されてよいよう思うんだけどねぇ、彼が荻野目慶子の家で自死してしまったスキャンダルばかりが伝わり、本作が影に隠れているのは残念。ま~、DVDが出たから観るヒトは観るだろうけどさ。
内藤剛志や陣内孝則、大仁田厚などの面々が、えっ、このヒトがセリフなしのチョイ役かよ~! っと、時代のうつろいをヒシヒシ感じたりもできる。
本作の音楽監督・加藤和彦も、土佐勤皇党の脱藩藩士役の古尾谷雅人も後に自死してるから、悲しみの色合いも滲むけど……、けども、その加藤和彦が創ったテーマ曲『ジャスト・ア・Ronin』(歌詞は安井かずみ)は、吉田拓郎がその後も彼のコンサートの幾つかで披露し続けた通り、やはり絶品だと、思う。
むろん加藤ももういないから、彼のパート部分も拓郎が唱うという次第ながら、ロックでもフォークでもない青春メッセージ・ソングとして秀逸と、思う。
20~30代の頃は、「青春」というコトバそのものが大嫌いで、ゼッタイにクチにしたくないコトバの1つじゃあったけど、川は流れに流れて今や60代……、若さゆえのそんなコダワリから抜け、飄々として映画の中の、「青春」を、た・の・し・ん・だ。
この映画には、薩長が運営し坂本龍馬も大きく関わった蒸気船ユニオン号が出てくるけど、映画公開前だったか、後だったか、尾道で偶然、これと遭遇しているのを思い出した。
尾道の「アンクル船長の館」(常石造船経営・2009年に閉館)に、柳原良平のアートを見ようと訪ねたさい、ごく近くの港湾に泊まっていた蒸気外輪船がそれだった。
いかんせん、訪ねた日は、同館の休館日だかで、柳原が描いて一世を風靡したサントリーのマスコット・キャラクターたる「アンクルトリス」のオリジナル画を観るコトかなわず、くさって波止場でタバコを吸ってる眼の前にあったのが、撮影用に復元されたユニオン号なのだった。
特典映像の中のユニオン号。ちゃんと外輪で自走する
こたびのDVDには、特典映像が1時間分ほど入っていて、ユニオン号を含む海上でのシーンは、福山で撮影されたと判ったし、その福山市の常石造船の協力がメッチャに大きく、ユニオン号などの再現、武田鉄矢や吉田拓郎や伊武雅刀やらやら出演者・スタッフの宿泊場所も、同社の社員寮(みろくの里・この当時はまだ映画撮影現場としては未整備だが同パークも常石造船の経営)だったというコトも判って、
「なんだ~、この映画って、福山や尾道とのエンがメチャに濃ゆい~~~」
と、なんだか妙に親近をおぼえ……、同方面にまた出向きたくなった。
特典映像より。再現された幕府の主力艦・富士山丸。これはエンジンを積んでいない
ま~ま~、とはいえ、こちら老いたる身、若きこの映画のペケな部分も眼にとまる。
正直に申せば、「これスゲ~映画」とは素直には云えない面もある。
武田鉄矢の脚本(名義は片山蒼)には、ほどよいユーモアが随所にあり、それをこなした役者たちが素晴らしくもあるのだけど、情緒過剰ぎみの哀切は、いささかハナにつく。挿入歌としてのオフコースの甘い歌声がむず痒くもある……。
けど、総じて綴じてしまえば、やはり、「青春の青春ゆえの青春っぷり」は堪能できた。
DVDパッケージ裏面のキャッチコピーがいいね、
「好きなことやらずに、なにが青春じゃ」
と、書いてある。
これ……、老春 と置き換えても、かまや~せんぞ。