粕汁とやまんば

 

 12月に入った途端、やったらと寒くなりましたねぇ。

 過日には、石山公園で「プロジェクト・ゼロ」という岡山大学の授業の1つで、「石山公園一帯で継続的に展開できるサービスを提案する」というプレゼン発表の場があって、これは拝聴すべきと思っていたんだけど、やたらに寒くって、屋外で、それも夕刻の2時間近くは、耐えられないんじゃなかろうか? 厳寒ただ中の2月ならまだしも、12月に入ったばかりでもうこの寒さ、身も心も準備出来てないよ~。

 結局、出向くのを断念……、大きな良きチャンスを自ら破棄したようで、こういう後退決断はアトに尾をひく。

 でも、寒いっからねぇ。室内イベントじゃない屋外の公園という環境は、かなりツライんだぁ~ね。

 それで、天秤の両端で、行かなかったコトによるマイナスとプラスが、ユ~ラユラとブレ続けて、しばし停まらなかった。

 

 ちなみに、亜公園があった明治の半ばには、石山公園というパブリックな施設というか場所はなく、はるか後年の昭和14年の精密市街図でも、そこはただの土手の延長のような“空き地”で、岡山城本丸界隈に向けての旭川の流れを、L字型に蛇行回避させる水流調整のポイントなのだった。

      

 河川改修が幾度もあり、さらには近辺の道路や土地もなだらかにされたりで、その辺りの消息は、今はもう判りにくいけど宇喜多直家の頃より、旭川の流れと、それに拮抗する高さのある丘であったのが、この石山と天神山、さらには今の城がある場所なのであって、鳥瞰すれば、岡山という地名は、その3つの「丘山」が語源の根ッコにあるような……、そう想像してもイイような感じが、濃い。

 

   □□-■■-□□-■■-□□-■■-□□-■■-□□-■■-□□-■■-□□-■■-□□-■■-□□-■■

 

 寒いと、アツアツの粕汁をすすりたくなる。

 鮭、ポーク、にんじん、だいこん、アゲ、やまいも……、何が入っても構わないから、とにかく粕汁酒粕の風味が寒さを忘れさせてくれる。

 

      

 

 で、なぜか子供の頃から、粕汁と耳にすれば、「やまんば」を想起するのが常体になっている。

 

 ボクが初めて読んで接したのは坪田譲治がリライトした『牛かたと やまんば』で、牛かたというのは牛に荷を積んで運送する人をいうけど、その彼が峠でやまんばに遭遇だ。

 やまんばは牛かたが運んでいた鯖を「くれ~」とにじり寄り、牛かたはやむなく1匹を投げあたえるけど、やまんばはすかさず食べて、「もっとくれ~」と次々に鯖をたいらげ、ついには牛まで喰らう。

 で、「おまえも喰わせろ」と迫り寄る。最悪の山の鬼女……。

             日本童話集(講談社 S35年刊)の坪田版の挿絵

 

 牛かたは懸命に逃げ、けれど山中深くに迷いいってしまい、行き着いたのが一軒のぼろ屋。

 実はやまんばの住まいだ。

 牛かたはやまんばが帰ってくるのを察知すると、天井に登り、梁に身を縮める。

 やまんばは囲炉裏に鍋をかけてグツグツと甘酒を煮るが、牛かた探しでチョットつかれたか、囲炉裏の前でウトウトしちゃう。

 牛かたは腹が減ってもいるので、天井裏のカヤを抜き、それをソ~っとおろして長~いストロー。意外なホドにうまい甘酒を全部すすりあげて、ごちそうさん……。

 

   

 その甘酒がボクの中では粕汁に変じて、久しい。

 なんでそうなったかは判らないけど、中学生の頃にはもう、帰宅して夕食が粕汁と知れると、やまんばの姿が念頭に浮くんだった。

 なので粕汁となれば常にやまんばが意識され、やまんばを思い出すと粕汁が脳裏をかすめるという次第で、粕汁とやまんばがセット・メニューになっている。このセットがゆえに粕汁がいっそう美味しくなるんだから、ま~、イイじゃ~ないの。

 むろん、粕汁をストローで吸うようなコタァしない。そもそも具は吸い上げられないワケで。

 

 ちなみに坪田譲治版のやまんばは、木のからと(米びつみたいなボックス状の寝間)に入ってすっかり寝込んでしまったがゆえ、天井から降りて来た牛かたにも気づかず、熱湯を浴びせられ、あえなくご昇天となってハナシは終わるんだけど、牛かたが被った被害の復讐とはいえ……、どこか微かに、やまんばが気の毒なような気がしないでもない。

 大切な牛1頭と荷の鯖を全部喰われ、さらに牛かたも喰われそうになったとはいえど、その罪と罰の天秤バランスがいまひとつ、いまだに実はしっかりとは了解できない。

 牛かたの、これは過剰なリベンジ劇じゃ~ないかしら? とも思ったりし、もしも、やまんばの親族が訴え出たら現在の裁判所では、本事件を審査して、どのように判決をくだすか……、粕汁食べつつ想像の羽根をバッタバタバタさせるのもまたオツなもの。

 

 けど今夜は、粕汁じゃ〜なくって、この前の高知で買ったのを使って鍋。

 youtubeで「アゼルバイジャンの料理番組」眺めつつ、3合ばかり呑んでホンワカあったまる。