辻斬り・赤銅・綱吉

 この数日は、『リトル・ブッタ』と『ラスト・エンペラー』と『シェルタリング・スカイイ』 と『体内回帰』を繰り返し聴きつつ、笑顔の坂本さんを浮かべる。

 彼が『音楽図鑑』というアルバムを出し、そのツアーの1つとして広島公演があったさいは、演奏しつつ客席を写真に撮るというパフォーマンスをやったけど、米粒のようなアンバイでボクもそれに写ってたろうと、思い出したりもする。

 彼にはツアー中の小さな1枚だろうけど、彼のカメラにおさまったであろうコチラには、その写真を見るコトは出来ずとも、彼と同化出来たような、大きな1枚だった。

 

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 ちょいと前にここで記した『赤胴鈴之助』全13巻を、およそ2ヶ月かけてヨ~ヨ~読み終えた。

 寝る前に数ページを眺め読むというカメの歩みゆえ、2ヶ月かかってしまったワケだけど、いいのだ、読み急ぐ必要も必然もないんで。

 いっそ、2ヶ月も楽しめた……、と云っていい。

 

 鈴之助君は剣の腕前が大いに上達し、師匠から備前長船の名刀を贈られたりもするんだけど、彼を高名にしたのが「真空斬り」というワザだ。

 けど、これ……、刀は不要なんだ。だから剣法じゃ~ない。

 両腕を素早く動かして真空状態を造って、それを相手にぶつけるという、物理法則ブッツリ断ち切ったトンデモ・ワザだから、恐れ入る。

 なワケだから、せっかくの長船の名刀も出番がないんだねぇ。

 けどもその「真空斬り」も、鉄壁じゃ~ないの。

 なんせ真空状態となった空気(これをカガク的に云えば、その場の大気圧より著しく低圧にした状態というコトになるんかな?)を精緻に飛ばすというコトが出来ないから、たいがい周辺の環境に影響を及ぼすんだ。

 例えば救済しようとした娘さんや、近距離にいた雀なんぞを、悪いヤツ共々にそれで傷つけたり失神させたりもするんだから……、タチが悪いというか、危なっかしくて可笑しい。

 

                     (C)武内つなよし 

 

 何話かで、フラチな辻斬りが登場し、鈴之助君と対峙する。

 自分の腕前の確認だったり、刀の切れ味テストだったりの辻斬りだけど、ヤカラに遭遇し斬られるノラ犬や町民にゃでっかい迷惑だわさ。

 

 

 で、最近読んだ江戸時代のコトを書いた何冊かの本で、その辻斬りに関しての記述があって、メッポ~興味深かったんで紹介しておく。

 

 5代将軍の徳川綱吉は「生類憐みの令」を出し、後世これが「悪政」の代名詞となってすこぶる評判が悪いんだけども……、なぜに犬を擁護するコトになったかという点で、綱吉は必ずしも悪政をやってたワケじゃ~ないのかも、という新たな見立てが近年に続々と出ているんだね。

 

           この3冊も、従来の悪政説に異を唱えてる

 

 綱吉の時代は元禄時代でもあって、経済と文化は安定期でもあるんだけど、な~んと彼は、1297人もの旗本や御家人(どちらも徳川家直参の家臣)を処罰している。

 1つの理由として「武家の男色」があるようで、これに関しては、

「故ありて……」

 という曖昧な表現での、けども厳しい処罰だったようだけど、また1つの大きな理由として、それら家臣の次男坊や三男坊の行状がヨロシクなかった点があげられる。

 武家の跡継ぎたる長男は城勤めだけど、次男以下は登城も出来ず、職もなく、家でブラブラしている。

 長男に万が一があったさいの、家督相続の2番手としてタダじっとうずくまってなきゃ~いけない不幸な存在だ。

 そういう連中の中から不良が出てくる。

 行き場のないエネルギーを抱えたまま、剣道もそこそこ出来るし、刀も持ってるワケで……、それでワルサをする。不良仲間で徒党をくみ、ノラ犬を切ったり町民を切ったりするフラチが横行したようなのだ。

 彼らは、戦国時代から江戸時代初期にかけての無頼漢「かぶき者」に憧れ、それを自認して華美な装束をまとい、切った犬を焼いたり煮たりして、喰う

 犬鍋をわざと人前で食べ、ワイワイ騒いで気勢をあげる。

 高野秀行と清水克行の対談集『世界の辺境とハードボイルド室町時代』でも、清水が綱吉時代の若侍達の、横暴とその犬食に触れている。

 

右の文庫本は動物と人間の関わりという観点で書かれたもので、思ってたものとはちょっと違ったけど、綱吉が発令した動物関連の政策の詳細を追跡できる。500石の旗本河村重次の次男が「常に行状よからず」として犬の殺害で斬首刑になったコトなど、細かいトコロにまで触れていて参考になる
     

 若侍のふるまいに対し、農工商の一般ピープル身分制度ゆえ抗議も出来ない。これでは規律も治安もあったもんじゃない。

 だからといって直参の家の者だから、コトをオ~ヤケにして荒立てると徳川幕府という体制がグラつく。

 なにより身分制度最上位の武家の体裁が地に墜ちる。

 

 なので、犬を殺傷してはいかん、ヤルとえらいメ~に遭うぞという、彎曲な方便を前面に出しての「生類憐みの令」の発令だったというんだね。

 ワンちゃんが大好きなのじゃ~なく、家康以来ず~っと抱えている家来の家の、その風紀を正そうとしたというワケだ。ワンチャンスをあたえたワケじゃね。

 ふ~ん。おもしろいねぇ。

 

 ただ綱吉に関しては、読む本ごとに人物像が絶妙に違い、万華鏡をクルッと廻すたびに光景が変わるようなトコロがあって、確固とした評価が出来ないのが実情だね。

 男色を糾弾しつつ、自身もまたかなりの愛好家というほぼ覆せない事実もあるようだし、やたら馬に関心したり、能が好きで好きでたまらなくって自身で舞い、終いにゃ諸大名に舞うコトを強制したりと……、やはりヘンテコリンな人だったような感は拭えない。

 ちなみに松尾芭蕉井原西鶴もこの時代の人だね。赤穂事件も綱吉時代だし、富士山が大噴火して今のカタチになったのもこの時代だね……。

 

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 ともあれ、「赤胴鈴之助」を全部、読んだ。

 グッド・オールドな勧善懲悪。最終話あたりでは当時の「鉄人28号」や「鉄腕アトム」の影響でロボットが出て来たりと荒唐無稽の度合いも加速だけど、悪人も皆な改心して涙を流すという、今のコミックスでは味わえない妙味を堪能。

 ごちそうになりました。