さらば やまな食堂

 

 急速に気温がさがって……、たぶん、今年ファイナルとなるであろう鳥取行き。

 Kosakaちゃんとの2人ツア~。

 この日は太田徹哉トリオのライブも予定されてたけど、身は1つっきり。かねて予定のミニツアーを優先。

 蒜山経由で向かう。

 蒜山三座は雪化粧。

 冷たい雨と強い風。

 蒜山大根を買おうと道の駅「風の家」に寄ると、早朝に強い雨が降ったらしく、本日分の入荷が遅れ、すでに入ったのはもう売り切れ。

  残念。

 しゃ~ない。車を駆けらせていたら、寒風の道端でお百姓さんが自家売りしてた。

 さっき採ったばかりという。雨に濡れて綺麗に光ってる。

 しかも道の駅より安い。フフっ。ありがたや。

 蒜山大根は、じゃがいも殿さんの隣りにすわり、ゆで卵にコンニャク、厚揚げ、巾着、牛すじなんぞの五人囃子従えたおでん鍋の白い姫さんだねぇ。煮えて火照った白肌に淡い茶色のカラシのおべべ着せたら、ぁぁ、美味し。

 いやいや、厚く輪切りにした煮立てに味噌からめてというのもイイだろう。

 いやいや、極く薄くに切って、鷹取醤油にワサビを溶いて、ナマの感触を味わうのもイイだろう。

 ともあれ図体は大きいのに値段は小さい蒜山大根という存在が、好き。

 

 老舗のやまな食堂。

 よもやこの日1130日をもって、閉店とは夢にも思わなかった事態……

 朝10時半に着くと、車でいっぱい。店内もヒトでいっぱい。車の中で待機してる方々もいる。

 蒜山高原は避暑地として人気抜群の場所ながら、住まうにはヤヤ孤立した地域でもあって、労働人口はひどく手薄い。

 人材難。スタッフの確保が実に難しいらしい。

 行列たえない店がゆえの苦悩。80年代半ばに店をオープンさせたヒズ・マザ~も高齢となり、サービス低下で運営するよりは、いっそ店を閉じた方が良いと、山名氏は決めた。

 やまな食堂のない蒜山で昼膳をどうすりゃいいんだ……、とも思うが、それは客の立場。

 閉店決断の姿勢は、不正をしてでもナンゾ売ろうとする企業などと較べるまでもない。マネーやモノを上位におかず、栄えある撤退を選んだ気概やあっぱれ。いさぎよく、うつくしい。

 それゆえ、つくづく閉店を惜しむが、ファイナルの日に訪問し、ホルモン焼きそばをいただき、一声、労をねぎらうことはした。

 けどもやはり、乾ききっていないタオルのウエットな感じに似た残念が、寂しさと共にのこる……。


          RSK山陽放送も取材していましたな

 

 やまな食堂から北へ。倉吉を抜け鳥取に向かう。

 雨天で雲厚く大山はまったく見えないが、ときおり、冬の気配を沁ませた陽射しが落ちる。

 レンブラントの数少ない風景画の1つに『石橋のある風景』というのがあるが、やや暗い空の中から一条の陽光が中央付近の樹木を照らしていて、この絵をみるたび、冬の到来をいつも想う。

       レンブラント『石橋のある風景』 アムステルダム国立美術館

 似通う光景が車窓から、チラッチラッと見えては直ぐに流れて消える。その束の間が、いとおしい。

 レンブラントはその束の間を絵画として永劫のものとしたが、こちとら、そういうワザの持ち合わせがないんで、車窓のうつろいをただ茫漠とやり過ごす。

 もったいないような気がしないではないが、画家のようにはいかない。憂鬱と憂愁の狭間で時に燃え上がるような歓喜もおぼえ、ただ揺れる。

 

 鳥取市。賀露港の市場食堂で海鮮を味わう。

 kosakaちゃんは既に何度も足を運んだ店だけど、当方ここで食べるのは初めて。

 あれこれ豊富なメニューに、どれにしようか大いに悩むが、こういう時の悩ましさって~のは期待が背後でウズウズしてるんで、オモチロイねぇ。成就しない恋の悩みとはテンデ違う。

 1250円という値段のわりにズイブンなボリューム。ビールは別料金。

 やまな食堂でホルモン焼きそばを食べているので、全部食べられるかしら? と束の間思ったけど、全部ペロリ。

 いや、しかし、風強く、かつ冷たい……。

 あんまりウロチョロしたくない。売られるがために水槽にいる松葉ガニ達は逃げてウロチョロしたいだろうが、こちとら、そうでない。

 という次第で、八頭郡八頭町の隼駅に車を駆けさせる。

 路線短き若桜鉄道の隼駅は、1部のバイク乗りにとっては聖地。

 当方、バイクに乗らないのでハヤブサというバイクに興味は持っていないけれど、昭和4年建造の駅舎には興味ビッグ。

 こういう佇まいが好きなホ~。

 ちょうどうまい具合に車両が入って来たのはラッキーだったかな。

 

 鳥取県から兵庫県へ向かう。

  宍粟市安賀の道の駅「みなみ波賀」の後ろ、引原川沿いのモミジ並木が、赤から茶色に変わりつつあった。写真はKosakaちゃんが撮った2枚を合わせたもの。

このミニ・ツア~でやっと出会った「秋っぽい色」だった。

 

 ちゅ~ワケで、岡山に戻ってのやや遅い夕飯は、山陽町の某店で茶色きわだつカツカレー。

 3度の食事に3度のビール、上等ジョウトウ。