タンタンの冒険旅行

 

 近所のスーパーがセルフレジに変わって、もう数週間経過。

 大きな混乱はないようだけど、それでも……、枯れた声で爺さんが、

「こんなんヤッてられんわ」

 怒ってた。

 お婆さんがバーコードの読み取りにナンギ四苦八苦し、店員がかざし方を教えてた。

 そのレジ店員さんも、まだ誰も退職してはいないようだけど、店頭では以前の半分ほどの人数。

 いずれもパート・タイムの方と思うけど、当然、勤務時間を減らされているワケだ。いずれの方も時間給ゆえ、収入も減っているはず。

 いいのかなぁ、それで?

 

 任意であったハズのマイナンバー・カードを、突如の義務化。

 保険証と合体させるコトでの、いきなりの強制……。

 マイナンバー・カードはチャンと運営されるなら、自分が番号化されている不快はあれど、国家という単位で眺めると、そのメリットは大きいとも思い、必ずしもこれを否定はしないけど、独断専行スタンドプレーの首相や大臣と、不始末連打の稚拙な組織デジタル庁との狭間……、本当にキチンと運営出来るのか、とても疑問。

 マイナンバー・カードは最大級の「個人情報」なんだから激烈に慎重でなきゃ~いけないのに……、導入への扱いがひどく乱雑乱暴。

 大きく不安、かつ不穏。怖いなぁ。

 

 健康保険制度は昭和36年からスタートで、そのさいの「社会保障」される意味と意義と恩恵はとても大きかったけども、こたびのは有意義に遠く、何を急いでるんだかも不明。

 小規模な医院とかでは、機械導入やら院内システム構築なんぞで負担テンコ盛りともきく。そも、1年ほど前はカード導入で数万円分のポイントなんて〜エサをぶらさげて国費を費やしていたというに、今度は一転、義務だなんて……。ポイント付与に投じた国費もまたまた無駄金じゃ〜ござんせんかいね。

 IT導入の無理強いで、振り回されるばかり……。せっかくの情報技術が、かえって不安と窮屈を産むようじゃ~いけないのでは?

 

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 書棚からエルジェの本を取り出して眺める。

 1930年よりベルギーで刊行された漫画シリーズ。そのうち19531954年に刊行された2冊の翻訳版。(翻訳初版は1991年)

 天部分にけっこうホコリがのっていたから、たぶん10年以上、書棚で眠ったままだったんだろう。

 でも馴染んだ絵だから、久しぶりという感触はない。

 

 

 実のところ、いまだこの2冊のコミックスの最初から最後までを読み通したコトがない。

 大型本ではあるものの、細かいコマ割にくわえ、各コマに行数の多いフキダシがあるんで、字面を追うのがメンド~なのだ……

 

 けども、コマの1つ1つが丹念に描かれているのは一発でわかる。

 なによりときおり、1ページ丸ごと使っての大きな1コマの完成度が素晴らしく、そこを眺めるだけで堪能の芯が燃焼し、

「ぇえな~ぁ」

 細い眼をいっそうに細めちゃえるんだから素晴らしいじゃ~ないの。

 こたびは、完読でないにしろ、けっこう小まめにコマの進捗を追って、小さなギャグの積み重ねを楽しんだ。

 

 素晴らしいといえば、原作のチンチン(Tintin)をタンタン(Tantan)に変えた翻訳者の遠慮と配慮の采配っぷりも素晴らしい。

 ボクと年齢が近い川口恵子氏(夫は中沢新一が翻訳者だけど、彼女と出版元の福音館書店の英断というか采配が、ステキだ。

(正しくは、きたさわひろお訳で1968年に数冊が刊行されているようだから、チンチン→タンタンはこれがスタートだろう)

 あのチンチンとこのチンチンはまったく別物なのだけど、チンチンとて男の子ゆえにチンチンあってぬかりなしと……、我が国特有の語感的モンダイながら、看過できない影響ある単語には違いなく、ゆえのこの取っ替えが素晴らしく、

名翻訳の単語百選

 とかいった「選」があるなら筆頭にあげていいのが、このチンチン。

Tin」は錫を意味して、「Tin Toy」と書けばブリキのオモチャを指すという次第で、あちゃらでは「かわいらしい」というニュアンスも含まれ、なので英国の人形劇『サンダーバード』の主要キャラクターの娘の名も、Tintinだったんだけど、そこをHNKではティンティンに取っ替え、下世話な感触と誤解を回避している。

 語感から連想されるアレコレというのは、小さいようだけどデッカイ問題なのにゃ。

 なのでボクは密かに、「大きなチンチン問題」とこっそり思って、ゆるぎない。

 

     1991年にフランスとカナダで合同制作されたTVシリーズ版のタイトル部分

       福音館書店の大型版のシリーズ・タイトル部分

 

 ま~、そんな余談よりは、こたびの2冊、その主軸となるロケットが、良い味シミ滋味でありますなぁ。

 白と赤のチェックが、10年ぶりに見ても、

「良いね~っ」

 好感度数が落ちない。いやむしろ、10年ぶりゆえに鮮烈増加。最近のSF映画なんぞにはこのアート・テーストはほぼ皆無ゆえ、余計に、

「いいなぁ」

 と感嘆させられるんだ。

 

 実際のロケットも、ごく最近の北朝鮮のミサイルを含め、この市松模様は機体に描かれている。発射時の機体回転とかを目視するためのもので、次の打ち上げに向けての機器制御の大事な資料となるべく考案された塗り分けなのだけど、そこをアート領域に転換したのがエルジェのセンスというもんだ……

 

 かつて、70年代後半頃から活躍したイラストレーターの原田治の絵には随分とそのポップ感覚に好感したもんだけど、いうまでもなく、『タイタンの冒険旅行』シリーズの影響が、色濃い。

 氏のイラストが着目された頃は、先に記したさかたひろお訳の数冊のみが日本にはあるきりで、それもほぼ注目されていなかったらしい。

  

 悪しく云えば、エルジェが創作したその美味しい部分のみを抽出しアレンジして我が物とした、というコトになるかもしれないけど、これについては、ま~、追求するようなコトでもない。

 ロイ・リキテンスタインが自分の作品ではない新聞の通俗漫画の1コマを流用してアートに昇華させたように、原田は、エルジェが意図しなかった部分をうまく縫い合わせ、絵1枚によるアピールの強さを示しみせるというコトに成功し、逆にエルジェのそのオリジナルの強さを浮き上がらせてくれてもいる……、ような気がしないでもない。

 

     

      『ヘアリボンの少女』(1965年作品) 

      東京都美術館1995年に6億円で購入したリキテンスタインの代表作

 

 ともあれ久しぶりにページをめくり、さらに再度再度、表紙を眺めてウットリし、御馳走をたっぷり味わった気分上昇をしっかり知覚して、書棚に戻す。

 さて次は、いつまた……、取り出すかしら? 

 この手の本は図書館で借りちゃ~いけない。ま~、そのためにも書棚というものは在るわけで。